5.慈悲なき戦果 ☆
血染めの押収品が、アジトの裏手から次々と運び出された。その横では、捕縛された商人たちが数珠つなぎになっていた。最後にリリィが首領の首を持って出てきた。髪を鷲づかみにし、平然とぶら下げるその姿に商人たちは悲鳴を上げた。ケスランの部下たちすら戦慄した。
「これ、いくらだったかしら?」
差し出された木箱に首を入れながらリリィが尋ねた。ケスランが「五十万ソリタでぇ」と答えると、彼女は「安い首ね」と吐き捨てた。
「馬と馬車も接収しろ!それで押収品を運ぶんだ!」
ケスランが指示した。商人たちも、物のように荷台に押し込まれた。
部下たちが離れる隙を見計らい、ケスランがリリィに歩み寄った。
「姉さん……」
耳打ちする彼の表情は、大勝利に浮かれてはいなかった。むしろ、一握りほどの怒りを嚙み殺していた。
「楽な仕事させてもらったことには感謝するが……悪党だって人間ですぜ」
「……………」
実際、見張りを排除できた時点で作戦の成功は確定だった。にもかかわらず、投降する機会も与えず皆殺しにしたリリィのやり方に、彼は苦言を呈さずにはおれなかった。しかも彼女が殺したのは、かつての自分のような立場の者なのだ。必ずしも根っからのワルばかりではない。家庭や環境に恵まれず、やむなくやくざ者に身を落とすものも多くいることを彼は知っていた。
だがリリィは、ケスランの言葉に不服そうに口を尖らせた。
「私は昔……亜人を手懐けてた」
「亜人を?」
ケスランが驚き顔を見せた。彼は正規軍時代、北方で亜人対策に従事していた。それゆえ彼らの特性も知っていた。亜人にはそれなりの知能があり、何らかの言葉も使うが、とても言って聞かせられる相手ではない。
彼の衝撃を見透かしたように、リリィは訊いた。
「亜人を手懐けるには、どうしたらいいかわかる?」
「……………」
「自分の方が強いとわからせればいい。ああいう手合いはケダモノと一緒よ」
「ケダモノ、ですかい……」
その時、若い部下が報告に来た。押収品の積み込みが完了したらしい。
「ご苦労」
ケスランは答えると、北に向け右手を上げた。月明かりに浮かぶ崖の上、炎がひとつ、人魂のように現れた。そして夜空に弧を描いた。それはアジトの中央、窓の下に突き立った。
「惚れぼれする腕前ですな」
ハルが放った火矢だった。それを合図に、左右に五個ずつ、同じような炎が並んだ。そして一斉に宙に飛び出した。窓ガラスを突き破り、家屋内に飛び込むものもあった。ハルの初撃をお手本に、後衛小隊のメンバーが射たのだ。木造のアジトはたちまち炎に飲み込まれた。中に死体の山を収めたまま。
火を放ったのはリリィの計画どおりだったが、ケスランはその意味を今ひとつ計りかねていた。しかし燃え盛る炎の群れを瞳に映して彼は理解した。彼女は最初から野盗どもを皆殺しにするつもりだった。放火したのは、その残虐行為の痕跡を始末するためだったのだ。
※
王城の執務室で仮眠していたザヅツの元に、早馬到着の知らせが届いた。石造りの城内に響く使者の声に、彼は長椅子から身を起こした。目をこすり窓の外を見遣ると、赤らんだエンベロペに朝日が当たっていた。
使者が去ると、入れ替わりに中隊の伝令が石段を駆け上がってきた。軍服に身を包んだ若者は、夜通し馬を駆り任地から王都に舞い戻った。彼は息を切らせていたものの、ザヅツの姿を認めると折り目正しく敬礼した。
「ご苦労。聞こう」
「ハッ!」
伝令は懐から紙を取り出した。ザヅツの表情は固かった。リリィたちの初めての任務、首尾はどうだったか。
「中隊長殿より報告!我、作戦に成功せり!我が方の死者・負傷者なし!アジトを急襲し、首領格の首と盗品、および現金計六百万ソリタ相当を押収。商人四名を捕縛、他は全員殺害!」
「全員殺害!?」
作戦の成功と味方の無事。最も聞きたかった報にほっとしていたザヅツは、伝令の最後の言葉に声を裏返した。
「それは間違いないのか!?」
「ハッ、逃亡者はなし、全員を殺害致しました!」
「なんてことだ……」
ザヅツは思わず漏らしてしまったが、まずいと思ったのか。表情を繕うと青年を労い、下がらせた。ひとりになった彼は、自分の椅子ではなく、一番近くにあったテーブルのそれに腰を落とした。リリィの闘技大会での戦いっぷりから、多少手荒なやり口は予想していたが、よもや皆殺しにするとまでは思っていなかった。
ザヅツが懸念したのは、そう言った強引なやり方が、王国への反感に変わることだった。事実、これまで彼は、自身が指揮する部隊の作戦に当たっては、敵に過剰な死者を出さないよう留意していた。
一方で、南部など一部の地域では、治安向上の効果が今ひとつ得られていないことも事実だった。やり方を変えなければならないのかと考えたこともあった。
彼は眼鏡を外し、手の甲で顔を拭った。そしてもう一度窓の外に目を遣った。
(卿に相談してみるか……)




