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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第9話 任務
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2.初任務 ☆

 王城の中でも高い位置にあるザヅツの執務室は、真夏にもかかわらず涼を含んだ風を漂わせていた。リリィが覗くと、テーブルにはすでに軍服姿の男が着席していた。



挿絵(By みてみん)


(あね)さん、ネミスの民の衣装好きですな」

 リリィを認めると、ケスランは開口一番そう言った。歓迎会以来、彼はリリィのことを『姉さん』と呼んでいた。それこそ悪党みたいなんだけどと思いつつ、リリィは放っていた。

「母がそっちの出身でね。私の血の半分はネミスの民のものよ」

 そしてもう半分は、誰のものかわからぬ。母を凌辱した、召喚士の村の誰かのものだ。だが、もうどうでもよいことだ。

 

 ザヅツがケスランの向かいで、眼鏡を布で拭いていた。エリート官吏のザヅツと、ならず者上がりのケスラン。およそ相容れるところがなさそうなふたりだが、不思議と息が合っていた。

「ご苦労だったね」

 リリィはロッドを壁に立て掛け、ケスランの横に腰を下ろした。テーブルにはすでに地図が広げられているが、先日のものとは違う。王都を中心に、大平原の一部を拡大したものだ。


「あなたは馬で来たの?」

 リリィがケスランに聞いた。城の裏手の繋ぎ場で、何頭かを見たからだ。ケスランは「おお、そうでぇ」と右手のひらを返した。

「私も馬くらいには乗れるようになりたいわ」

「教えてあげやしょうか?姉さんの運動神経なら背には跨がれましょう?手綱は片手でも扱えまさあ」

「ならお願いするわ」

 そしてリリィはザヅツに目で場を譲った。彼がふたりを呼び出したのはほかでもない。ついに初めての任務が発動したからだ。彼は王都の南、街道から少し外れた場所を木製の棒で指した。


「南部に放っていた諜報員がつかんだ情報だ。三日後の夜、王都の南西二十カロルーテの荒野にあるアジトで、野盗どもが盗品を売買する。中隊にはその現場を急襲してもらいたい。敵勢力は三十名前後と予想している」


 彼がふたりに与えた使命(ミッション)は、ボスの首の奪取と一団の捕縛、そして盗品の回収。ボスはお尋ね者で、長らく賞金首になっていた。周辺の状況と、アジトの建物の詳細をザヅツが説明した。リリィは地図を見つめ、黙して聞いていた。説明が終わるとケスランは尋ねた。

「姉さん、作戦はどうで?」

 無論、文言以上の意図を含む問いだった。彼はリリィの能力を試したのだ。彼女は間を置かず答えた。

「正直、会敵できれば殲滅するのはたやすい。でも向こうは周囲に見張りを置くはず。まともに攻撃を仕掛ければ、戦闘の前に逃げられてしまうでしょうね」

「ほう」

 ケスランの感嘆詞は、明らかに同意を表していた。『逃がさず一網打尽にする』――これがこの任務の一番の困難だと彼も考えていた。だからリリィの回答で、彼は彼女の作戦立案能力が信頼に足ると判断した。

「擬装がいりますなぁ」

 右手であごを触りながらケスランが言うと、ザヅツも「そうだね」と頷いた。リリィは王都から南に伸びる街道を指した。

「ザヅツ、正規軍はよくこの街道を通ってカムジャン方面に向かうわよね」

「ああ。カムジャンには三個中隊が駐留している」

 カムジャンは王都南方の街だ。近くに鉄鉱山があり、古くはその拠点として栄えていた。リリィが指さした街道は、『鉄街道』と呼ばれている。ただ、ここ数十年は産出量が減り、大平原南部の悪党が巣食う(すさ)んだ街になっていた。王国軍の駐留で、何とか一般市民への犯罪被害を最小限に食い止めていた。

「交代はいつ?」

「一応、行動を読まれないよう不定期にしている。今の部隊は先月の頭に向かった。駐留は早くてひと月、長くて三月(みつき)だ」

「なら頃合いね」

 リリィは鉄街道の上、カムジャンに向かう途中の宿場町に指を戻した。そこには『ムサ』とあった。ザヅツの示したアジトにほど近い。三カロルーテほどか。

「三日後の午後、正規軍の交代要員を出発させてほしい。中隊はそれに紛れて進撃する。正規軍はムサで宿泊させる。そこで私たちだけが荒野に入り、アジトを襲撃する。そこから先の詳細は私とケスランで詰めるわ」

「いい案だと思う。ケスラン、どうだ?」

 振られた戦士は小さく頷き、異議なしを示した。ザヅツは立ち上がった。

「よし、それでいこう。正規軍とは僕が調整する。二個中隊を出して、ムサからはそのままカムジャンに向かわせる。君たちは今日中に必要な物資をまとめてくれ。出発までに用意させよう。集合は三日後の午前、王都調練所。いいね」

「了解でさあ」

 ケスランも立ち上がった。彼はリリィの黒髪を見下ろした。

「姉さん、初任務、気楽にいきましょうぜ」

 見上げたリリィも、口元で自信を示した。


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