12.歓迎会 ☆
ザヅツが向かうよう指示した酒場は、洒落た構えの高級店だった。帷も落ちぬうちから、大勢の男たちの騒ぐ声がガラス窓を震わす。リリィはロッドを手にドアを押し、足を踏み入れた。
パチパチパチパチ……
一斉に鳴り響く拍手。彼女は店内を見回す。四、五十名はいるだろう。三々五々にテーブルを囲んだ男たちの集団。荒くれ者ばかりなのは組織の性格上仕方ないとしても、それ以前に半分くらいはカタギ者に見えない。草色の軍服に身を包んだその集団が、リリィに向けて手を叩く。そしてヒューヒューと口笛を鳴らす。
「こりゃあ、かわいらしいお頭さまだ!」
手前に座っていた男がおどける。隣の小柄な兵士が咎める。
「その言い方はやめろ!いつになったら悪党だったころの癖が抜けるんだ?」
しかし周りは気にする様子もなく大笑いだ。
「オーク野郎をブチ殺しちまったんだって!?」
「いけ好かないマーリックの奴にも赤っ恥かかせたとか!?」
囃し立てる声に、叱った男も仕方ないと両手を広げて立ち上がった。歳は四十代だろうか。軍人にしてはタッパがない。顔つきも、どこかずる賢さを感じさせる。ありていに言えば悪人ヅラだ。ただ太い眉と大きな瞳は、意志の強さを宿していた。
「……ようこそ、新しい中隊長殿。ワシがケスランだ」
彼は左手を差し出した。リリィもロッドを離すと、体にもたれ掛けさせ応えた。
「ずいぶんな歓待ね」
にこりともせずつぶやく。そしてロッドを握り直すと左腕を上げる。
「お代はザヅツ持ちって聞いてるわ!今日は好きなだけ飲み食いして頂戴!ただし!王国軍人としての節度は保つこと!」
最後の節度うんぬんはもちろんジョークだ。ワハハハハ、爆笑がおき、それから隊員たちは歓談に戻った。リリィはケスランのテーブルに座ったが、入れ替わり立ち替わり隊員たちが挨拶に訪れ大忙しだった。みな軍人だけあって、闘技大会のことや獲物の剣、ロッドのことを根掘り葉掘り尋ねた。過去を隠しながら説明するのにリリィは難渋した。ケスランの配慮で、ようやく彼女は彼とサシで話すことができた。
彼の話から、事情はおおむね飲み込めた。
もともとケスランは、大平原南東部を根城とするならず者集団のリーダーだった。そしてこの隊のメンバーの多くは、そのころの舎弟らしい。シノギの手段に窮していたところ、王国の軍備拡張に乗じて正規軍に入ったが、上の大隊長としばしば衝突した。彼は現場では優秀なようで、コネだけの大隊長では手に負えなくなった。そこで軍は彼の隊を正規軍から切り離し、傭兵部隊にした。厄介者をザヅツに押し付けた格好だ。
ザヅツは正規軍時代のいざこざの情報を仕入れていたので、ケスランが有能であることは予想していたようだ。しかし交代が上からの指示だったため、新しい中隊長を選抜する必要に迫られた。そのため闘技大会を催した。リリィは気付かなかったが、ケスランは変装して大会を見物していた。そこで彼女の戦いっぷりを見て、すぐにこの会の開催をザヅツに進言した。無論、隊員たちが新しいリーダーを受け入れやすくするためだ。リリィが倒したオーク男は、彼らがならず者時代に手を焼いていた対立集団の一員だった。またマーリックは悪人ではないが(むしろ悪党はケスランたちの方である)、一匹狼で、街の義士を自称し何かとケスランたちと衝突していた。そのふたりを倒したことで、彼は部下たちがリリィを受け入れると確信した。昼食時、ザヅツの元に現れた男はケスランからの使いの者だった。
彼は、自分の娘ほどの歳のリリィに見下した態度を取らなかった。同じ戦士として接した。彼のその振る舞いが部下たちに伝染していた。リリィは、ケスランが信頼できる男だと判断した。彼女は提案した。
「書類上の中隊長は私だけど、隊の指揮は今までどおり、あなたにお願いしたい。私と仲間のふたりは、帯同する別部隊として見てほしい。もちろん、作戦では協調するわ」
ケスランはその申し出を了承した。
こうしてザヅツ配下、王国軍外縁傭兵部隊・リリィ中隊が結成された。
(第9話に続く)




