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「あれ、……ここは……どこだ?」


 俺は気付けば知らない場所にいた。

 辺り一面が白く、とにかく白くないところを見つける方が難しいような小部屋だ。


「おお、よくきたな」


 目の前にはかなり年老いた老人がいた。

 杖を付き、今にも死んでしまいそうだ。

 だがその瞳には確かな眼力が宿っているように思えた。


「あなたは一体……」


「儂はまぁ神じゃよ。お主らの世界でいうところのな。冗談なぞではなくこれは確かな事実じゃ、信じろ」


「そう言われましても……」


 神と名乗る人物は力強く言い切るが、それをまるまる鵜呑みにできるほど、俺は幸せなやつではなかった。


「まぁ別に信用せんでもよい。結局人生を選ぶのはお主自身なのじゃからな」


「……え?」


 どういうことなのだろう、よく分からないが何かを含んだ言い方だった。


「ほれ、覚えておらんか、お主の所属しておる私立学校からの帰り道、思いっきりトラックに敷かれたじゃろう」


「え、そんなことあった覚えは……あ」


 俺は思い出してしまった。

 そうだ、薄い記憶ではあるが、ものすごい物理的な衝撃を受けたのを覚えている。最後に見た光景は……ああ、そうか、あの光はトラックのライトの光だったんだな。


「思い出してきたようじゃの。意味もなく図書館で時間を潰しておるから夜中に訳のわからん飲酒運転野郎に巻き込まれるのじゃ」


「意味はあるさ。本を読むことは素晴らしいことなんだ」


 かねてよりの読書好きからしてみれば今の言葉は大変捨てがたいが……まぁ今は置いておこう。それよりもだ。


「結局俺はあのときの事故で死んじまったってわけか」


「なんじゃ、やけに冷静じゃのう。そういう達観したつもりでおる小僧が一番癪に触るんじゃが」


「別にそんなつもりはないんだけど……ただなんというかそういう人生だったてのはあるし……」


 これまで大した取り柄のある人生ではなかった。

 友達もほとんどおらず、学校でも大概孤独な日々。

 何に対しても取り立ててやる気も湧いてこないし、それは死んだと言われればそうかと簡単に返せるくらいの希薄なものだった。


「悲しいのう。でも安心しろ、お主のような輩は世の中案外おるぞ」


「そうなのか、まぁ死んだ今となっちゃどうでもいい話だけど」


「ま、死んだままだったらの話じゃがな」


「どういうことだ?」


 己が死んだということは一応は受け止めた。

 しかし死んでいるにも関わらずこうやって意識があるというのもおかしな話だ。


「実はじゃな、お主は今回特別なキャンペーンに引っかかっての」


「キャンペーン?」


「そうじゃ、神々の間で開催された一時的なものなんじゃがな、若くして死んでしまった者を一人ずつ選んで、異世界に記憶を残したまま転生させてやろうという粋な試みなんじゃが」


 異世界……転生だって?


「まぁ根本の趣旨としては、才能を持ちながら死んだ者をそのままにしておくのは勿体ないということで、循環させて再利用しようという狙いがあるんじゃが……まぁそれもどうかと儂は思うがのう」


「才能を持ちながらって、その言い振りだと僕にも才能があったってことですか?」


「いや、何を期待したか知らんがお主はただの凡庸な一般人じゃ。前世で何か非凡な実績でも残したか? 少しでもあれば言ってみろ」


「何も成し遂げておりません」


「まぁそれぞれの神々が一枠ずつ選択権を持つということになっておっての。んで、察しの通り、お主は儂の枠を使って選ばれたわけじゃ」


 随分とぞんざいな言い方をされるが、なるほど、どうやら俺は運良くそのキャンペーンとやらの対象に選ばれたということらしい。


「でもそれならなぜ俺なんかを選んだんだ……?」


 若く死んだやつなんてもっと良い才能の持ち主もいたことだろう。


「まぁ端的に言うならどうでも良かったからじゃのう。別に神の企画に真面目に取り組まないといけないというキマリはないからの」


「適当に選んだってわけか……」


「まぁ一応理由はあるぞい。転生させるにしても派手にイキられても鬱陶しいからの。それにこうやって事情を説明するにしても呑み込みが遅く、頭の鈍いようなやつはごめんじゃ。よって転生にそこまで乗り気にならなそうな性格の持ち主で、かつそこそこ常識のあるやつというところで絞ったりはしたが」


 なんだその消極的な理由は……


「まぁともかくお主は選ばれた。これは客観的に見ても凄く光栄なことじゃ。喜ぶとよい」


「そりゃあ普通は喜ぶべきなんでしょうけど……」


 普通なら終わっていた人生を、もう一度やり直せるのだ。これ以上の救済は考えられないだろう。


「と、いうわけでまぁウダウダやっておっても仕方ないからサクッといかせて貰うが、まずお主は転生するか否かを選択できる」


「え? 転生するかどうか……?」


「対象者が拒否をすれば、すべての話はなかったことになる。つまりここでの記憶はなくし、元の世界で死んだままとなる」


 なるほど、一応拒否権もあるってことなのか。


「いきなりそう言われても、どんな転生かにもよるんじゃないですか?」


「もっともじゃの。まぁ問自体は別に前後してもよい。それじゃあ転生する世界を決めて貰うかの。対象となる異世界は全部で千二十四世界になるんじゃが」


「その中から選ぶんですか?」


「そうじゃ、別に時間はいくらでも掛けてよい……ことになっておる。しかしそれでは儂が面倒じゃから、もしアレならお主に向いてそうな世界を三つくらいに絞ってやるが?」


 そう言いこちらを見つめてくる神様の目は有無を云わさぬようなものだった。

 ああ、まぁなんだっていいですけど。


「じゃあお願いしてもいいですか?」


「うむ。まぁそうじゃなぁ…………これとこれとこれとかでいいか」


 そうして俺は転生する世界を選ぶことになった。

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