123、平和な時間
ラウフレイ様とお茶会の話をしていたら、改めて平和を取り戻せて良かったという気持ちが心の底から湧いてきた。
明るい未来を思い描いて頬を緩めていると、
「おーい」
どこからか声が聞こえてくる。遠くからこちらに呼びかけるような声だ。
聞き覚えのある、この声は――。
「おーい」
ノエルさんだ。もう一度呼びかけられたところで顔を上げて上空を確認すると、そこには空を飛んでいるノエルさんがいた。
いつもより疲れているように見えるけれど、大きな怪我は確認できず、表情は笑顔だ。
手を振っているノエルさんのことを、私だけでなく皆さんが見上げた。
「ノエル! もう体調は問題ないのか? 無事で良かった」
まず声をかけたのはフェルナン様だ。フェルナン様は声を張って、ノエルさんに対しての声掛けにしてはとても優しい声音で心配が滲んでいる。
それを聞いたノエルさんは、いつもより緩慢な動きで握り拳を掲げた。
「大丈夫ですよ〜。ちょっと魔力を使いすぎた感じです〜」
しかし、すぐにいつも通りのふざけた口調で言った。
「団長が僕の心配をしてくれるなんて感激ですね。あ、ついに僕の偉大さが分っちゃいましたか? これは日頃から実戦投入しておくべきですよね、ね!」
私たちの下までふわふわと下りてきたノエルさんは、フェルナン様の目の前で止まってずいっと顔を近づける。
疲れを滲ませながらもいつもの調子のノエルさんに、フェルナン様は呆れた表情でガシッとノエルさんの頭を掴んで遠ざけた。
「近い。その様子なら全く問題なさそうだな」
一気に心配の色を消したフェルナン様に、ノエルさんは楽しそうに笑う。
そんないつも通りのやりとりに、私も笑顔になった。
なんだかんだ、二人は仲良しだ。
「この様子だと、竜は無事に倒せましたか?」
地面に下り立ったノエルさんが問いかけると、それにはレアンドル様が答える。
「ああ、討伐成功だ。ノエル魔術師長、この度は大役を果たしてくれて感謝する」
ニカッと親しみのこもった笑みを浮かべたレアンドル様に、ノエルさんは嬉しそうだ。
「いえいえ、こちらこそ僕に任せてくれてありがとうございました」
「ユルティス帝国には優秀な人材が多くいて羨ましいな。リリアーヌ様もノエル魔術師長も、うちに欲しい人材だ」
「え、本当ですか? 団長、勧誘されちゃいましたよ。僕がいないと――というか、リリアーヌ様!?」
話の途中でノエルさんは、私がいることに気付いたようだ。かなり驚いた様子で目を見張り、私を凝視する。
「ここって戦場ですよね? さっきまで竜と戦ってたんですよね? なんでリリアーヌ様が?」
ノエルさんのもっともな疑問には、フェルナン様が気まずそうな顔をして、少し悩んでからぼそりと告げた。
「――ラウフレイ様もいらっしゃるぞ」
完全にはぐらかしている。ノエルさんから視線を逸らしているところからして分かりやすいけれど、疲れているノエルさんは誤魔化されたようだ。
ラウフレイ様に視線を向けると、慌てて口を開いた。
「あっ、すぐにご挨拶できずにすみません……!」
そんなノエルさんに、ラウフレイ様は首を横に振る。
『構わん。戦闘で疲れているのだろう』
「ありがとうございます。確かに、まだ疲れてるのかもしれません……」
後半の言葉はポツリと呟かれた。いつもは意外と周りの様子をよく見ているノエルさんだ。今は視野が狭くなっているところからして、相当疲れているのだろうと分かる。
そんなノエルさんの言葉が皮切りとなったのか、少しずつ勝利の興奮が収まってきたのか、騎士さんたちも疲れを滲ませ始めた。
そこで、レアンドル様が告げる。
「よし、そろそろ撤収して、まずは拠点まで戻ろう。かなり無理をしたから体を休めることも大切だ」
「はっ」
「準備いたします」
レアンドル様の指示に騎士さんたちはすぐに従い、帰還の準備が始まった。疲れてるはずなのに指示があればすぐに動けるのは、本当に凄いことだ。
私は転移で戻ることもできるけれど、フェルナン様たちと一緒に歩いて帰ろうと思った。
「早く討伐成功の一報を届けたいですね」
「そうだな。それによって辛い日々を過ごしていた者たちの希望となるだろう。拠点でもまたお祭り騒ぎとなるな」
「それは楽しみですね。早くアガットにも伝えたいです」
転移は私一人でしかできないので、アガットは拠点に置いてきてしまったのだ。とても真面目なアガットは、護衛として私のことをかなり心配していると思う。もしかしたら、自分を責めているかもしれない。
早く戻って無事を伝えて謝って、討伐成功を伝えないと。
そんなことを考えているうちに、準備が整ったようだ。
本日はコミックス3巻の発売日です!
皆様、原作と合わせてコミカライズもよろしくお願いします。最高に面白く、そして綺麗で華やかに描いてくださっています!
漫画ですので、3巻だとちょうど一気読みにも最適なのではないかと思います。まだ漫画は読んでいないという方は、この機会にぜひお手に取ってみてください!
よろしくお願いします。
蒼井美紗




