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 今日作ろうとしているのはデコレーションケーキ。私のはプレーンな生地だけど、みんなそれぞれ旦那様の好みに合わせてコーヒーやベリーを焼き込んだら色とりどりの見た目も美しい生地が出来た。これにあとはクリームや果実を載せていくのだけど、焼き立ての生地に載せるわけには行かない。我が国ならではのちょっとした裏技を使うとしても生地が覚めるまで少し時間がある。その間に私達はデコレーションの準備をすることにする。


「じゃあ、早速始めましょうか。メリルはこちらのクリームを手伝ってくれる?リネットとルーゼとマリーは果物の準備を。あっマリーは包丁は持っては駄目よ、危ないから」


 その最後の一言にブロンドの巻毛が可愛らしいマリーが頬を膨らまし、他の三人からは笑いが起こる。マリーは昔からどうにもそそっかしいところがあって危なっかしい。それなのに針仕事だけはとっても得意なのがこれまた不思議なのだけど。


 それはさておきこちらへ来てくれたメリルと私はボウルにクリームと砂糖を開けると泡立て器でかき混ぜ始める。

 騎士団長の奥様であるメリルは自身も武芸が得意。代々の騎士の家に生まれた彼女は兄たちに混じって遊ぶうちに武芸に目覚めたらしい。数年前までは女性騎士として活躍していた。流石に奥様業が忙しくなったらしく、旦那様が騎士団長になるのに合わせて引退したが、今でも鍛錬は欠かさない、という。


 そんな彼女の体力をホイップクリームづくりに使うのはなんだか申し訳ないけど、そうでもしたくなるくらいクリームを泡立てるのは重労働なのだ。さらさらとしたクリームに角が立つ頃には腕がしびれてジンジンとしてくる。先程も話した我が国ならではの裏技、つまりは精霊の力を借りればは少し楽になるのだけど、やはりそこは自分達で頑張るべきだと思う。


「お菓子を作るときはねそれを食べる人のことを考えるのよ。美味しくなぁれという心が一番の魔法なのよ」


 私にお菓子作りを教えてくれるときのお母様の口癖を思い出す。


 泡立て器を回す手応えがずっしりと重くってきたらクリーム完成の合図。お行儀が悪いと思いつつ泡立て器についてクリームを指ですくってぺろりと舐める。う〜ん、ちょうど良い硬さ、それに甘くて美味しい。そう思いニッコリすると、呆れた顔のルーゼと目が合う。やあね味見よこれは。そんな無言の言い訳を感じたのかルーゼは「仕方ないわね」とでもいいたげな顔を見せる。


 そうこうしているうちに、果物の準備もできたようだ。今が食べ頃の愛らしいベリーを中心に色々な果物が皿にもられている。生地の方を見てみるとこちらも良い具合に冷めている。今は見えない精霊に「ありがとう!」とお礼を言うと、ケーキを調理台へと移す。ケーキを上下に2等分するのは難しいから私とお菓子作りに慣れているリネットがすることにして、あとは生地に綺麗にクリームを塗って果物を飾り付ければケーキの完成。ただこの作業にはそれぞれのセンスが問われる。


 クリームにも一工夫してただのホイップクリームだけでなく、チョコや東の国から伝わったマッチャという粉末のお茶を混ぜれば味も色もバリエーションが増える。なんだかんだとワイワイしながら作ればあっという間。一緒に焼いたとは思えないほど個性豊かな5つのデコレーションケーキの完成だ。


「まぁ!美味しそう」「色とりどりで素敵ですわ」


 自分達で作ったとはいえ並べてみると感慨もひとしお。本当はこの感動をもう少し分かち合いたいところなんだけど、王妃の私はもちろん大貴族の奥様ばかりの友人たちもなかなか忙しい。旦那様達にケーキを渡す時間を考えるとそろそろお開きとしないと。


「じぁあ旦那様達もお待ちかねでしょうし、お開きとしましょうか。今日は集まってくれてありがとう!どうぞ皆さんに精霊のご加護をありますように」


「こちらこそ忙しいのに時間を作ってくれて感謝してるわ」


「ライサのおかげで今年も素敵なお菓子が作れたしね」


「ライサにも精霊のご加護がありますように」


 ほとんどお菓子を作って食べる日と化した「精霊のお菓子祭り」の精霊の部分が残る挨拶を口々に口にするとみんなはケーキを入れた箱を大事そうに抱えると、迎えに来たそれぞれの侍女を連れて部屋を出ていく。


 さっきのみんなと同じように慎重にケーキの入った箱を抱えると陛下がいらっしゃるであろう執務室を目指そうと立ち上がる。そして部屋を出る前にここまでずっと気配を消してお友達同士の時間を見守ってくれていた侍女に声をかける。


「アンリ、これから陛下のもとへ伺うから先触れをお願いしてくれない?」


 その言葉に答えた彼女はすぐに近くの従僕を捕まえ一言、二言言付ける。従僕が向こうへ行ったのを確認すると彼女はすぐに戻ってきた。


「手配いたしました、王妃様。執務室にケーキをお持ちになるのでしたら私がお持ちいたしましょうか。もしくはご自身でお持ちになるのでしたらカートでもご用意いたしますが」


 そう気を利かしてくれる彼女だが陛下の執務室まではここから歩いて5分もかからない。


「ありがとう、でもせっかくのプレゼントだし自分で持っていくことにするわ。カートに載せていくほどの大きさでもないしね。それよりちょうど休憩の時間なはずだからお茶の用意を持ってきてもらっても良い?一緒にお茶とケーキを楽しむ時間くらいはあるでしょう?」


「かしこまりました。精霊のお菓子祭りですもの。どれだけ忙しくてもお茶の時間は確保なされますわ」


 そんなアンリの言葉に少し照れつつ箱を持つ手に力を込め直し部屋を出る。


 そんな私にハプニングが起きたのは執務室のある階へ降り、廊下を進み始めた頃だった。 

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