表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/183

精霊の加護079 帝国と教国の反応

精霊の加護

Zu-Y


№79 帝国と教国の反応


 翌日、俺はお姉様方と精霊たちを連れて王宮に出仕した。

 王太子殿下にいろいろ報告するためだ。それと結婚披露宴についても聞かなきゃいけないし。

 普段は、ベスさん以外のお姉様方は、王宮を敬遠しているのだが、今日は結婚披露宴のこともあるし、連れて来ていた。


 控室で待っていると、間もなく侍従が迎えに来て、殿下の執務室に案内された。執務室には、いつものメンバー、すなわち、殿下、4人の公爵様方、宰相様がいた。


「殿下、ゲオルク・スピリタス、ただいま戻りました。」

「任務の遂行、大儀。此度は随分ゆっくりしてたではないか。」殿下がチクリと刺して来た。汗

「はい、1ヶ月程ですが、東府の魔法学院で主任教授の精霊魔法についての研究をお手伝いしておりました。」

「ほう、また何か分かったのか?」

「はい。間もなく王都で開かれる魔法学会で発表されます。」

「そうか。では発表を楽しみに待つとしよう。まぁ座れ。

 侍従、スピリタス卿の側室たちにも椅子を。」


 俺は執務室の円卓の椅子を勧められた。そしてお姉様方用に、俺の後ろに椅子が用意された。

 ところで殿下はさり気なく、お姉様方のことを側室たちと呼んだな。三の姫殿下のこと、やはり進める気なのか。はぁ、気が重い。

 ちなみに精霊たちは、俺に纏わりついているので椅子は不要だ。


 殿下も上座に座り、4人の公爵様方と宰相様も席に着いたので、俺は勧められた末席に腰掛けた。

「では報告を聞こうか。」


 俺はミュンヒェーで、ミュンヒェー砦に対峙する教国の国境砦ふたつを壊滅させた様子を語った。殿下も4人の公爵様方も宰相様も、俺の報告に黙って耳を傾けていた。

「なるほどな、単に砦を壊滅させただけでなく、その後に森に戻したのが効いたな。」殿下がそう評価すると、

「そうですな。破壊し尽くされた砦とその周辺が、あっという間に森に戻されて、砦のあった場所は、元から何もなかったように森に変わる。ぞっとしましょうな。」と、北部公爵様。

「ふむ。心理戦と言う奴だな。そもそも砦が瞬く間に破壊されたことも大きかろう。」南部公爵様も同調した。

 東部公爵様がそれを受けて続けた。

「ところで、帝国と教国のその後だがな、ゲオルクのおかげで思い通り、いや、それ以上の展開になって来たぞ。

 宰相、現状をスピリタス卿に説明してくれ。」


「はい。東部公。

 ではスピリタス卿、まずはこれまでの経緯を申し上げる。こちらの詰問使に対して、帝国は言い掛かりだと憤慨し、教国は調べると言って何もせずのらりくらりと躱していたのだ。

 よって、両国からこちらの大使を引き上げさせるとともに、両国の大使を追放して国交を絶った。当然、帝国も教国も抗議を寄越しつつ、対話の機会を模索して来たのだが、それに対してわが王国は、一切無視して沈黙を貫いた。

 王国が沈黙したことは、帝国にとっても教国にとっても、相当不気味だったに違いない。そして王国との交易が一切なくなり、じわじわと物資不足に追い込まれ、物価が高騰し出すと、帝国や教国の民の中には、王国からの報復を懸念する声が出始めた。

 ちょうどその絶妙のタイミングで、スピリタス卿が国境への威嚇を行ったという訳だ。ここまではよいかな?」

「はい。宰相様。」


「うむ。まずはスピリタス卿の威嚇を受けた帝国だがな、圧倒的な攻撃力で、最前線砦だけでなく、その支援砦まで深く攻め込まれ、両砦は原型を留めぬ程に破壊され尽くした。しかもそこに砦などなかったように草原を再現して見せた。

 国境警備軍はなす術もなく崩壊し、這う這うの体で首都モスコペテブルへ逃げ帰ったのだ。華やかなモスコペテブルの民は戦になっても国境でのことと高を括っていたからな、国境警備軍の悲惨な有様を目の当たりにして、手を付けられぬ程の恐慌状態に陥ることになった。

 このせいで、それまで実権を握っていた対王国強硬派が鳴りを潜め、親王国派というか、王国との協調路線を主張する者たちが一気に台頭したのだ。

 この親王国派は、強硬派の連中の中に、王国への工作を裏で主導した黒幕がいるとして、徹底的に強硬派の連中を拘束し、尋問を始めた。皇帝の側近や、皇子たちも例外なく締め上げているそうだ。まるで魔女狩りだな。これは、皇帝が親王国路線に舵を切ったと言うことに他ならぬ。

 その後、皇帝から、工作に対する謝罪、黒幕の徹底追及の確約、工作によって生じた被害の賠償に関して、使節を送りたいとの親書が届いたので、わが王国は受け入れるとの返事をし、先日その使節団が参った。

 当方の提示した条件は、黒幕全員の断罪と、帝国領の1/3の割譲もしくは賠償金大白金貨50枚、王国を盟主とする同盟への参加と、皇子または皇女の王国への留学、まぁこれは実質上、人質を出して属国になれと言うことだな。そして最後に、スピリタス卿の受け入れと帝国内自由視察権だ。」


「え?賠償額をすべて帝国に持たせるのですか?」

「いや、教国にも同じだけ請求したが?」何事もないように、ケロッと答える宰相様。

「あのー、賠償要求は総額で大白金貨50枚でしたよね。」

「いかにも。少々、吹っ掛けてやったのだ。」少々ですと?

「で、帝国はなんと?」

「最初はあまりに過酷な条件と言いおったがな、南部公が『ならば帰って戦支度をせよ。』と切り捨てたのだ。そのタイミングでわれら一同は席を立ち、その後、使節団を追い返した。それからは一切面会に応じず、王国からの退去命令を出したのだ。1週間以内に王国から退去せねば、捕らえてスパイ容疑で死罪にするとの条件付きでな。」

「随分、強気ですねぇ。」穏健派の宰相様とも思えんな。


「スピリタス卿の精霊魔法のおかげだな。そして使節団が王都を去る際、護衛と称して西部公の軍勢が物々しく使節団を取り巻き、西部国境まで送った訳だが、まるで連行しているような有様だ。スパイ容疑での死罪を仄めかされているから、使節団の連中は生きた心地がしなかったろうよ。

 その後、西府まで護衛の指揮を執られた西部公が、別れ際に、条件をすべて飲めば、賠償額だけは半額にするよう掛け合ってやると、こっそり使節団の長に囁いたのだ。」

「左様、余は帝国の良き隣人と言うことで、帝国に恩を売る形となった。役得と言う奴よ。くっくっく。」西部公爵様がどす黒い笑みを浮かべた。


「しばらくして、皇帝から同盟受諾の親書が来た。だからこちらも、王太子殿下から、『西部公の取り成しにより、賠償請求額を半減す。』との返書を送ったのだ。」

「え?国王陛下ではないので?」

「当たり前だ。以前ならいざ知らず、属国の皇帝への返書に陛下御自ら筆を執る必要などなかろう。」

「あのー、失礼ながら宰相様は慎重なご意見でしたよね?」

「私は今も、本音では穏便に済ませたいと思っているがな、殿下の最終判断が強硬策で、陛下がそれをお認めになったのだから、そのように動くに決まっておろう?」

「ゲオルク、われらが宰相に信を置いているのは、こう言うところなのだ。よく覚えておくがよい。」と、東部公爵様。

「はい。とても勉強になります。」


「では宰相、次は教国についてだな。」と北部公爵様が続きを促した。

「はい。北部公。

 教国では帝国よりもっとひどいことになった。ゲオルクよ、そなたのせいで教皇が失脚し、新たな教皇が擁立されたぞ。」

「俺のせい…、なんですか?」

「まぁそこはどうでもよいではないか。」と南部公爵様。いやいや、よくはないんですけど。

「対王国路線でのらりくらりと躱していた前教皇は、いわゆるやるやる詐欺でな。犯人を調べると言って何もせず、こちらが諦めるのを待っていたのだ。

 ところが、スピリタス卿が国境砦をふたつとも、周囲の森とともに跡形もなく粉砕し、しかもその森を瞬く時に回復した訳だ。これを目の当たりにした国境警備兵が、這う這うの体で逃げ帰った先の首都イスタナンカラで、何と申したと思う?」いや、そんなの、分かる訳ねーじゃん。

「はて、思い当たりませんが、何と申したので?」

「あれこそ神の御業、神の使徒が現れ、神のお怒りを伝えておられる。と喧伝したのだ。」と、ドヤる宰相様。なぜあんたがドヤるんだよっ?笑


「神の御業って、精霊魔法が、ですか?」

「そうだ。これによって、イスタナンカラの民は大恐慌に陥ってな、神の言葉を解さぬ偽教皇が、神の逆鱗に触れ、神の使徒によって御業の鉄槌が下ったと言うことになってしまったのだ。これで前教皇はあっさりと失脚だ。おそらくイスタナンカラの大聖堂の地下牢に幽閉されておろうな。二度とお天道様を拝むことはあるまい。」

「しかし、あれだけ権威のある教皇が、そんなに簡単に失脚するんですか?」

「そうだな。教皇よりも、神の御業を使いこなす神の使徒の方が、教国では民からの評価は圧倒的に高い。教皇が神の使徒の逆鱗に触れたとあっては、教皇としては致命的だ。」

「あのー、その神の使徒って、まさか…。」

「そなただな、スピリタス卿。」マジかよ!

「…。」俺は絶句してしまった。


「さて、話は戻すが、新教皇から、丁重なる謝罪と、犯人捜査と断罪、非協力的だった前教皇の断罪、損害賠償についての使節派遣希望、との親書が届いてな、受け入れの返事をしたところ、数日前に使節団が参り、昨日会談を行ったのだ。

 当方が教国に示した条件は、帝国に示した条件とほぼ同じ。異なるところは、教国には皇子や皇女はおらぬゆえ、その代わりに教都の大聖堂の神学生または巫女見習で主席の者の王国留学を要求したことだな。

 教国の返事は、神より預かりし領土は差し上げられぬゆえ、それ以外の条件をすべて飲むと非常にあっさりしたものだった。」


「大白金貨50枚も飲んだんですか?」

「その通り。まぁ流石に吹っ掛けた額をそのまま飲まれるとは思わなかったのでな、例によって東部公が賠償金の減免を申し出たのだが…。」

「まさか断って来たと?」この俺の問いには、宰相様の代わりに東部公爵様がお答えになった。

「いや、いささかの澱みもなく、喜んで受けおったのだが、これも神の御慈悲…と言うことで、余は西部公のように感謝されなかったわ。感謝されたのは、神の使徒であるゲオルク、そなただ。」

と、呆れたように溜息をつき、脇息にもたれ掛かる東部公爵様。

「はいぃ?なんで俺なんですかぁ?」思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「王国に慈悲の心を起こさせたのは神の御慈悲。使徒様が王国に働き掛けたのは明白。と言うことらしい。まったく、そなたに美味しいところを、すべて持って行かれたわ。」東府公爵様が苦笑いをしている。

「まぁまぁ、東部公、その辺で…。」と宰相様がいったん区切った。

「うむ。話の腰を折ったか?」


「さてスピリタス卿、条件のひとつとして示したそなたの受け入れは、教国にとってはむしろご褒美でな、なるべく早くそなたを派遣して欲しいそうだ。」

「あの、宰相様、なんでご褒美なんですか?」

「それは、そなたが神の使徒だからではないか。」

「違いますってば。」

「教国の民は、聞く耳を持つまい。神のこととなると狂信的だからな。まぁ、神の使徒として振舞って来てくれ。なるべくボロは出さないように、くれぐれも頼むぞ。」宰相様のニタニタ顔は、絶対に面白がってやがる。


 ここで殿下が引き継いだ。

「ゲオルク、そういう訳でそなたの帰還は実にいいタイミングだった。今日の午後、教国の使節団に会ってもらうぞ。側室たちは、教国の巫女風に着飾らせよう。精霊たちは、羽衣だけを纏わせれば雰囲気が出るか?」

「殿下、聞いてませんよ。」

「それはそうだな。今、初めて言ったのだから。」抜け抜けと…。

「…。」俺はもちろん言葉にならない。てか、なる訳ないじゃんよ。


「ところで、今日、側室たちを連れて来たのは何か訳があるのであろう?教国の使節団に対して、神の使徒として振舞ってもらう代わりに大抵のことは聞いてやるぞ。」

「はぁ。さればでございますな。近々結婚披露宴を行うのですが、上司である殿下にご臨席を賜れないかと思いまして。」

「ふむ。他ならぬゲオルクの頼み、聞き届けないでもないが、警備はどうするのだ?」

「どうしたらいいですかね?」

「ならば王宮でやればよいではないか。」

「そんなことができますので?」惚けてみた。


「ただし条件がある。ここで披露をする以上、そなたの正室となるマリーをないがしろにしてもらっては困る。側室5人と結婚するとともに、マリーを正室として婚約せよ。」いや、正室って既定路線ですかい?

「いやいや、三の宮殿下はまだ御年8歳ではございませんか?」

「そうだが、何か問題があるか?別に閨を共にせよ、などとは言っておらぬぞ。」

「流石に8歳の婚約相手は勘弁してくださいよ。」

「ならば、いくつならいいのだ?」

「せめて成人の15歳まではお待ちください。」

「相分かった。7年後の成婚、承知した。」

「え?」やられた!はめられた!


「側室たちとの結婚披露宴の間は、保養名目でマリーを王宮から遠ざけよう。追って、侍従を遣わすゆえ、会場とする部屋の選定にあたり、招待客の数など打ち合わせるがよい。

 ではゲオルクよ、呼びに行くまで控室で待機せよ。呼ぶのは昼過ぎになるゆえ、昼餉なども運ばせよう。そうそう、マリーの所にも顔を出しておいてくれよ。報告、大儀であった。下がってよい。」

「え?あ、はい。」殿下は言いたいことだけ言って、一方的に話を切ってしまった。俺は、何も言い返せなかった。敵わねぇな。


 侍従に案内されて控室へ。

「ゲオルク、見事にやられたねぇ。」

「うん。ごめん。」

「ゲオルクさん、謝ることではありませんわ。」

「でも…。」

「殿下の方が場慣れしていらっしゃるし、まぁ側室として私たちが認められただけでもよしとせねばな。」

「そうだよ。それに7年先だしさ。それまでは僕たちだけで水入らずじゃん。」

「いや、ビーチェ、4~5年くらいだと思っておいた方が良いぞ。三の姫殿下が、お子を産める状態になったらすぐに成婚の儀だな。」

「え?成婚の儀?婚約の儀じゃないの?」

「なんだ、ゲオルクどのは聞いてなかったのか?殿下は『成婚』と仰っていたぞ。」

「ええー?マジで?」

「ゲオルク君、私もはっきり聞いたわよ。」他のお姉様方も頷いている。


『ゲオルクー、ツリ、お腹すいたー。』『クレもー。』『フィアもー。』

『チルもー。』『ワラもー。』『ウィンもー。』『メタもー。』


 俺は放心したまま、精霊たちに、いいように貪られたのだった。

設定を更新しました。R4/6/19


更新は火木土の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2002hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ