精霊の加護068 威嚇
精霊の加護
Zu-Y
№68 威嚇
昨日は実に惜しいことをした。調子に乗ってカルメンさんにしゃぶりつきさえしなければ、メロンボール10個の生ぱふぱふを堪能できたのに。くそぅ。
まぁ悔やんでも仕方ない。
今日はいよいよ、王太子殿下から直々に命を受けている、帝国の軍事施設への威嚇だ。砦のひとつやふたつは潰していいとの仰せだったから、派手にやってやろう。
バレンシー側の国境砦には、ゲオルク学校の連中も連れて行く。
バレンシーにある、国境警備軍の詰所に行き、警備軍司令官への面会を申し込むとすぐに司令官の執務室へ通された。
俺とお姉様方と精霊たちで入り、ゲオルク学校の連中は外で待たせておいた。一応、機密の話題が出るかもしれないことを考慮してのことだ。
「遠路ようこそ。私が司令官のサルバドール・バレンシーだ。ここ、国境の町バレンシーの領主でもある。」そう名乗った男は、領主兼司令官にしては随分若かった。30代半ばってとこか?
「ゲオルク・スピリタスです。殿下の命を受けて参上しました。」取り敢えず下手に出て握手を交わす。
「こちらにも鳩便で知らせが来ている。ゲオルクどのは、殿下御自慢の精霊魔術師とか。精霊魔法とやらで帝国軍を威嚇してくれるのだそうだな。」
精霊魔法とやら…だと?随分舐めてくれるな。
「はい。」
「で、精霊は?」辺境伯がお姉様方を見る。
「いえ、こちらは俺のパーティ仲間です。順に、リーゼ、ジュヌ、カルメン、ベス、ビーチェ。そしてこの子たちが精霊たちです。」
「何?こんな子供なのか?こんな子供に何ができると言うのだ?」なんだと、見掛けで判断してんじゃねーよ。と、思ったが、
「強力な精霊魔法ですよ。」我慢して答えた。
「帝国の連中は、ここのところ国境警備を増強している。中途半端な威嚇だと却って帝国軍を刺激し、戦端を開きかねない。そこのところは承知しているのか?」
「もちろんです。殿下からは砦のひとつやふたつは壊滅させて良いと言われておりますので、徹底的にやらせて頂きます。」
「それは頼もしいがな、砦と言っても堅固だぞ。仕掛ける以上、掠り傷程度しか与えられないでは済まされんぞ。」この野郎。
「だから、潰すつもりだと言っている。聞こえなかったか?」もう下手に出るのはやめた。
「なに?」
「あんたが訝しんでいる精霊魔法の力を、とくと拝ませてやるよ。味方の砦まで案内しろ。」
バレンシー辺境伯の案内で、国境の町バレンシーから少し離れた場所にある、王国の国境警備の最前線基地にやって来た。ここはバレンシー砦と言う。それなりに城壁もあり、出城と言っても差し支えない規模だ。
城壁の上から国境を挟んで相手の領地にある砦を見た。平原にデンと平城がある。あちら側も砦と言うよりは城塞だな。
「ゲオルクどの、見たか。簡単に国境の砦と言うレベルではないのだ。」
「大事ない。司令官どの、その眼でよく見ているがいい。」
ふと精霊たちを見ると、傍にいる精霊たちも皆、ニタニタしながらうずうずしている。やる気満々じゃんよ。
「クレ、思いっ切り揺さぶってやれ。」クレが頷いた。
俺の横から、ふわふわとに浮かび上がっていたクレは、両腕両脚を曲げ縮めて全身を丸くした姿勢で、『うーーーーー。』とタメを作り、『たぁー。』と一気に魔力を放出した。
すると、遠目から見ても分かる程、城塞は揺さぶられて、城壁があちこちで倒壊している。一番高い塔も途中からぽっきり折れて崩れ落ちた。
『ゲオルクー、お腹空いたー。』ぶっちゅーとクレが吸い付いて来て貪っている。最後に橙色に輝いて離れて行った。精霊が輝くのは魔力を補給して満タンになった証拠だ。
横で、バレンシー辺境伯が、口をあんぐり開けて、半分倒壊した帝国の砦と、俺に吸い付いているクレを交互に見ている。度肝を抜かれたな?笑
帝国の砦からはわらわらと、国境警備兵が出て来ている。あのまま倒壊したら危険だから当然っちゃー当然だな。大わらわの大混乱中だ。こうなっては指揮系統も減ったくれもあるまい。
よし追い討ちを掛けてやろう。くくく。
「フィア、思いっ切りでっかいのをな、奴らの真上でバーンってな。」フィアがニターッと笑った。
俺の横から、ふわふわとに浮かび上がっていたフィアは、両腕両脚を曲げ縮めて全身を丸くした姿勢で、『うーーーーー。』とタメを作り、『たぁー。』と一気に魔力を放出した。
すると城のまわりの至る所から火球が上がり、無数の火球が、帝国の砦の上空で渦を巻きながらどんどん合体し、大きなひとつの火球になった。大きな火球はそのままゆるゆるとさらに上空に上がり、そこでドッガーーーーーンッと大爆発を起こした。
多くの帝国兵は頭を抱えて地面に蹲っている。
『ゲオルクー、お腹空いたー。』ぶっちゅーとフィアが吸い付いて来て貪り出した。そして赤く輝いて離れて行った。
辺境伯の反応はさっきと一緒だ。笑
あれ?よく見るとお姉様方も、若干、引きつってないか?ゲオルク学校の連中や、味方の警備軍の兵士たちも、辺境伯と似たような反応をしている。苦笑
次はそうだなー。
「ウィン、竜巻だ。吹き飛ばしてやれ。」『うん。』
ウィンは、浮かび上がって丸くなって、『うーーーーー、たぁー。』と一気に魔力を放出。
すると、帝国の砦から少し離れた所で竜巻が発生。そのまま砦に近付いて行くと、砦のまわりにいた帝国兵が雲の子を散らすように広がって逃げた。やがて竜巻は敵の砦に到達すると、倒壊した城の瓦礫をいとも簡単に巻き上げ、さらに辛うじて残った部分を、容赦なく破壊しながら通過して行った。
『ゲオルクー、お腹空いたー。』ぶっちゅーとウィン。紫色に輝いて離れて行った。
辺境伯は…もういいか。笑
さて、次は落雷だな。
「メタ、落雷だ。でっかいのを頼む。」『はーい。』
メタは、浮かび上がって丸くなって、『うーーーーー、たぁー。』と一気に魔力を放出。
落雷がほとんど瓦礫と化した砦の残骸を直撃し、仕上げとばかりに残っていたすべてを粉砕した。再び頭を抱えて蹲る帝国兵。大半は逃げ出しているからこいつらは逃げ損ねたトロい奴らだ。
『ゲオルクー、お腹空いたー。』ぶっちゅーとメタ。黄色く輝いて離れて行った。
よし、次は水浸し、行ってみよー!
「ワラ、水浸しな。」『雨でいい?』「任す。」
ワラは、浮かび上がって丸くなって、
『うーーーーー、たぁー。』と一気に魔力を放出。
急にめきめきと積乱雲が発達して、ドバーっとゲリラ豪雨が降り出した。しばらくすると嘘のように晴れたが、辺りは水浸しだ。
帝国兵はと言うと、あんなにいたのにほんとに数えるほどしか残っていない。
『ゲオルクー、お腹空いたー。』ぶっちゅーとワラ。青く輝いて離れて行った。
じゃぁ、凍らせるかね。
「チル、凍らせてやれ。」『OK。』
チルは、浮かび上がって丸くなって、『うーーーーー、たぁー。』と一気に魔力を放出。
水浸しの地面のこちら側から、砦に向かってどんどん氷が張って行く。
とうとう帝国兵は、ひとりもいなくなっていた。
『ゲオルクー、お腹空いたー。』ぶっちゅーとチル。藍色に輝いて離れて行った。
『ゲオルクー、ツリはー?』
「すまん、もう片付いちゃったよ。」
『えー、ツリもなんかやるー。』
「うーん、じゃあ、砦の跡地に植物をびっしり生やすか?砦の痕跡をなくしちまおう。」
『それでいい。』
ツリは、浮かび上がって丸くなって、『うーーーーー、たぁー。』と一気に魔力を放出。
砦跡の瓦礫の山は一面の草で覆われた。
『ゲオルクー、お腹空いたー。』ぶっちゅーとツリ。緑色に輝いて離れて行った。
隣で司令官が、そして警備兵たちも完全に固まっている。
「司令官どの、それでどうかな?これでは不足か?おーい、サルバドールどの、しっかりせよ。」
「はっ。ゲオルクどの、あ、いや、精霊魔術師様、大変失礼しました。無礼の段、何卒お許しください。」
出た。ザ、掌返し!まぁでも素直でいいな。笑
「許すも何も、ここまでの道案内、感謝してるよ。」
「精霊魔術師様、折り入ってお願いがございます。」辺境伯は片膝ついて恭順の姿勢を取りながら、頼み込んで来た。
「俺にできることならいいけどさ。」
「この砦の奥にもうひとつ、同程度の砦があります。そこも叩いて頂きたいのです。できれば、半壊ぐらいにしといて頂ければ、修復して使います。」
「砦を叩くのはいいけど、占領はダメだよ。殿下から、絶対にこちらから攻め込むなと釘を刺されたからね。」
「なぜです?絶好の好機ではありませんか!」
「殿下は帝国との戦を望んでいないのさ。戦わずして属国にしようとお考えで、そのための威嚇なんだよ。もし、帝国の領地を侵略したら素直に従わなくなるからね。仮に戦になるとしても、向こうから手を出させたいのさ。」
「そんな。手を出されて被害に遭うのはバレンシーですよ。」
「だから、手を出させないためにも、侵略しないんだよ。圧倒的な力の差を見せ付けておいて、相手の領地には手を出さず、同盟を言う建前で、属国になれと持ち掛けたらどうなるよ?」
「それは…。」
「分かるだろ?」
「はい。」
「もっとも精霊に工作を仕掛けた賠償金はたんまりふんだくるけどな。」
それから、地図で奥の砦の場所を確認した。ちょうどここバレンシー砦からは、先程、倒壊させた砦の死角に入っていて、視覚で確認できなかったのだ。今は視認できる。
ゲオルク学校の連中はバレンシーの砦に残し、城壁で見物しとけと言っておいた。
俺はお姉様方と精霊たちを連れて、国境を越えた。ひとつ目の砦は、完膚なきまでに叩き潰したから、こちらを監視している敵の警備兵はいない。
第2の砦に近付くと、最初の砦からの撤退した兵の収容で、てんやわんやしているではないか!絶好の好機!
精霊たちを見ると、皆、ニタニタと悪魔の微笑みを浮かべている。やはり俺と考えることは同じだ。
「皆、いいか。最初は砦のまわりに威嚇の攻撃だ。敵兵には犠牲者を出したくないからな。砦から敵兵が逃亡したら全力で好きにやれ。魔力はいくらでも供給してやる。バンバンぶっ放せ。」
『『『『『『『はーい。』』』』』』』
精霊たちは皆、本当に遠慮なく、全力で繰り返し繰り返しぶっ放した。
俺は精霊たちに貪られ続け、途中から、矢尻で指先を傷付けて、血を舐めさせた。血液は唾液より魔力が濃いので、枯渇した精霊たちの魔力がすぐに満タンになる。
それにしても7人の美少女たちが、次々と俺の指を舐めまわす光景はとてもシュールだったと思う。めったに動じないお姉様方が、ドン引きしてたのがその証拠だ。
その後、第2の砦の帝国軍は、精霊たちの威嚇攻撃により恐慌に陥り、われ先にと砦から逃亡して帝国内へ逃げ帰って行った。
やがてもぬけの殻となった第2の砦に精霊たちの全力攻撃が集中され、15分後には第2に砦は原型を留めていなかった。最後の仕上げにツリが砦の跡地に草を生やして、まわりの草原に同化させた。もはやそこに砦があった形跡は微塵もない。
それから1週間後。
ボドブリ帝国の首都=帝都モスコペテブルまで逃げ帰った国境警備軍兵の証言により、帝国内は恐慌に陥り、対王国強硬派は完全になりを潜め、穏健派と言うか恭順派が実権を握った。
そして程なくして本格的に魔女狩りが始まるのだ。帝国内で王国に工作を仕掛けた黒幕の炙り出しである。そしてこの魔女狩りは、帝国の根幹を揺るがす大事件へと発展して行くのだが、それは後日譚。
設定を更新しました。R4/5/29
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2002hk/
カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。