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精霊の加護065 カルメンさんを下さい

精霊の加護


№65 カルメンさんを下さい


 翌日、定期馬車に乗って王都を発って数日、定期馬車は西府に着いた。


 俺とカルメンさんは、西府近くのリャビーセ村に隠居しているカルメンさんのご両親に挨拶に向かうことにした。

 なお、他のお姉様方はスノウとナイトを連れて、西府の宿屋を取るので、カルメンさんが、厩舎の充実したお勧めの宿屋を紹介していた。


 リャビーセ村は、西府周辺の一大農地の外縁にあり、農場の他に牧場もある。西府の回りにはリャビーセ村のような、農場と牧場の村が多く点在し、牧場には、乳牛牧場、肉牛牧場の他、闘牛牧場がある。


 リャビーセ村の牧場は闘牛牧場であるが、リャビーセ村のような闘牛牧場のある西府近郊の村では、成功を収めた商人が老後の隠居所を構え、闘牛牧場に投資して、優秀な闘牛を育てるのにひと役買っている。西府の商人たちにとって、老後に闘牛牧場のパトロンになるのが、一種のステータスなのだ。

 西府の物流を幅広く担う商人だったカルメンさんのご両親も、さっさと商会から引退して、リャビーセ村に隠居所を構え、闘牛牧場のパトロンとして悠々自適な生活をしているのだそうだ。


 闘牛は西府独特の文化で、コロッセオと言う円形競技場で、凶暴な闘牛と闘牛士が命を掛けて戦うのだ。闘牛士が華麗に闘牛の突進をいなし続けて消耗させ、最後に剣で急所ひと突きにして仕留めるのだが、闘牛の角で突き上げられて大怪我をする闘牛士もいる。稀に命を落とすこともあるそうだ。


 西府の民はこの闘牛に熱中するので、闘牛の興行はいつも満員御礼だ。俺は約2年ほど西府を本拠としてソロ活動していたので、その間にコロッセオで闘牛を観戦したことはあるが、正直あまり好きにはなれなかった。

 生粋の西府女であるカルメンさんは、当然のごとく大の闘牛ファンで、俺が闘牛を観戦したのは、カルメンさんとのデートのときだった。もちろんその後、俺はむふふな展開を期待していたのだが、あの頃はカルメンさんに軽くあしらわれていたので、闘牛の後は食事をして解散だった。実に懐かしい。


 俺とカルメンさんは精霊たちを連れ、小型のタクシー馬車をチャーターして、リャビーセ村に向かった。

 王都からの定期馬車が西府に着いたのは昼だったから、それから半日掛けて、夕方にはリャビーセ村のカルメンさんのご両親の隠居宅に着いた。ってか、でけぇ。これって、隠居宅ではなくて隠居邸…、だよね。


「ただいまー。」

「カルメンお嬢様!」え?メイド?

「ああ、アリシア。久し振りだね。元気だったかい?」

「はい。お嬢様もお元気そうで何よりです。ところでこちらの方は?」

「あたしの婚約者だよ。父ちゃんと母ちゃんに紹介しに来たんだ。」

「あ、どうも。ゲオルクです。」

「ええー!」パニクったアリシアさんは、俺たちをそっちのけにして、屋敷の中に駆け戻って行った。

「旦那様ー、奥様ー、カルメンお嬢様が、殿方を連れて来ましたー。」

「ちっ、あたしが男を連れて来ちゃ悪いってのかよ。いい年して相変わらず慌て者なんだから。」

「まぁまぁ。」


 それから俺たちは居間に通された。そこにはカルメンさんのご両親と思しきおふたりがいた。取り敢えず、つまらないものですが…と、西府の手土産を渡す。

「父ちゃん、母ちゃん、婚約者のゲオルクだよ。」

「初めまして。ゲオルクです。カルメンさんと結婚することになりましたのでそのご報告に来ました。」

「父親のバルタザールだ。こんなんでよかったらいくらでもくれてやるけどよ、お前も物好きだなぁ。よくこんなお転婆を嫁にする気になったってもんだ。」

「え?情に厚くて面倒見がいい、飛び切りの女性ですよ。」

「おや、あんた、カルメンのいいとこが分かってるじゃないか。あたしゃ、母親のエスメラルダだ。よろしくね。」カルメンさんのぶっきら棒な話し方は御母上譲りか。笑

「あ、こちらこそよろしくお願いします。」

「あんた、なかなか女を見る目があるってもんさね。気に入ったよ。」

「ありがとうございます。」


「カルメンよぅ、嫁かず後家になるかと思ってたら、随分若いのを捕まえたじゃねぇか。一発大逆転だな?」おっと、その発言は地雷すれすれだぞ!

「父ちゃん、さっきから喧嘩売ってんのかい?」ほら見ろ。

「売ってねぇよ。心底祝ってるんじゃねぇか。」御父上の屈託のない笑顔がとてもいい。なるほど、大成功した商人だったと言うが、この笑顔なら取引先は信用するよなぁ。

「あんた、いい年して娘を煽ってんじゃないよ。照れ隠しなんざぁやめてさ、素直に祝ってやりな。」

「だな。カルメン、おめっとさん。」軽っ!


「で、この子たちは何なんだい?まさかあんたの連れ子って訳じゃあないだろ?」

「俺と契約している精霊たちです。」

「!…では、東部に出た精霊魔術師と言うのは、ゲオルク様なんですか?」横で控えていたメイドのアリシアさんが食い付いて来た。


 俺は、ご両親とアリシアさんに、

 王家付精霊魔術師であること。

 カルメンさんたちとパーティを組んで、冒険者として活動していること。

 ひょんなことから騎士爵の貴族になったこと。

などを語った。

 カルメンさんのご両親は半信半疑のようだったが、メイドのアリシアさんだけは、俺が精霊魔術師だと言うのに大興奮していた。笑


 カルメンさんのご両親は、同い歳の幼馴染で、成人すると同時に西府でエスパーニャ商会を立ち上げて結婚。順調な商いで商会をぐんぐん成長させて、2年前、50歳になったときに、商会を後進に任せて隠居した。とは言え、今もエスパーニャ商会の筆頭株主として、莫大な配当を受け取りつつ、ここリャビーセ村で闘牛牧場のパトロンをしているそうだ。

「まぁ俺たちにとっちゃぁよ、今の生活が目指した人生なのよ。商売は今の生活を送るためにやってたようなもんよ。な?」

「そうさねぇ。商売も性に合ってたけどねぇ、今の生活の方がもっと性に合ってるさねぇ。」


 その晩は、夕餉、その後の呑みと、大層盛り上がったのだった。


 カルメンさんのご両親の隠居邸に泊めて頂いた翌日、俺たちはご両親の案内で闘牛牧場を訪れ、育成中の闘牛を何十頭も見せてもらった。

 闘牛たちは皆、気性が荒く狂暴であったが、俺を威嚇して来たのに腹を立てた精霊たちが怒気を発すると、闘牛たちはすっかり怯えて、おとなしくなってしまった。

 精霊たちは俺のまわりにいたので、傍から見ると俺が闘牛たちを威圧したように見えたようで、カルメンさんのご両親を始め、闘牛牧場のスタッフたちにも、すっかり感心されてしまった。


「おい、ゲオルク。お前、冒険者なんか辞めて闘牛士になれ。」

「そうよ。あんたならすぐにマタドールになれるさね。」

 バルタザールさんとエスメラルダさんが物凄い勢いで食い付いて来て、闘牛牧場のスタッフも、うんうんと頷いている。勘弁してよぉ。苦笑

「いやいやいや、俺みたいな素人には無理ですよ。」


 結局、カルメンさんのご両親にはいたく気に入られたのだが、それは闘牛たちを威圧したせいだった。ってか、威圧したのは俺じゃないんだけどね。

 精霊たちよ、GJ!


 昼過ぎに、タクシー馬車でリャビーセを発ち、夕方には西府に着いて、その足で宿屋に行って、西府でお留守番していた他のお姉様たちと合流した。

 お姉様たちは今日1日、西府観光をしていたそうだ。夜は皆で、俺とカルメンさんの行き付けの居酒屋へ行った。西府に初めて着いて、カルメンさんと出会った日に、カルメンさんに連れて来てもらってから、西府にいる間は頻繁に利用していたお気に入りの居酒屋だ。


「おいおい、ゲオルクとカルメンじゃないか。久しぶりだな。」顔馴染みのマスターが声を掛けて来た。

「あ、マスター、久しぶり。」「相変わらず流行ってるじゃないか。」店の中には結構な数の客がいた。


「お前らが駆け落ちしたんじゃねぇかって、しばらくはその話題で持ちきりだったぜ。」

「いやいや、駆け落ちじゃねぇし。」

「ゲオルクのパーティに誘われてさ。あたしゃ元々冒険者志望だったからねぇ。」

「それにしてもゲオルクよ、別嬪ばっかでハーレムパーティじゃねぇかよ。しかも美少女たちもいっぱい連れて、いったい何なの?」

「この子たちは俺と契約した精霊でさ、あと、パーティ仲間が別嬪ばっかりなのはその通りだから否定のしようがないな。」

「けっ。惚気てんじゃねぇよ。ところで精霊たぁ、面白れぇこと言うじゃねぇか。

 お嬢ちゃんたち、精霊様かい?」

 信じてねぇな。まぁどっちでもいいけど。ちなみに、7人とも俺の後ろに隠れた。苦笑


「おっと、嫌われちまったかな。」マスターが頭を掻いている。

「人見知りなんで気にしないでくれよ。それより今日のお勧め、ジャンジャン持って来て。」

「おう。まいどー。」


 皆、よく呑み、よく食って大満足だ。精霊たちは食べないけどな。魔力補給のキスだけだ。精霊たちに魔力補給をしていると、マスターや他の客から冷たい視線が飛んで来たのだった。泣


 そのまま宿に帰って、女子部屋で呑みの続き。部屋着に着替えて薄着になったお姉様方のたわわなメロンボールに釘付けになっていると、皆ほろ酔いだったこともあり、仕方ないわねぇと言う展開になって、ぱふぱふ5連荘にめっちゃ幸せな俺なのだった。


 翌日、宿屋を引き払って、王太子殿下から依頼された任務をこなしにバレンシーに向けて西府を発つことにした。


 道中のついでに行うつもりで、討伐クエストを受けるためにギルドに入ると、

「あー、師匠!」と言う声が掛かって、アルマチとホレルの面々に囲まれた。

 ちなみにこのふたつのパーティは合併して、今はゲオルク学校などと言うふざけたパーティ名を使っている。もちろん俺はこのパーティ名を認めていないがな。


 隣では、カルメンさんが受付嬢たちに囲まれていた。感極まって泣いてる受付嬢も何人かいる。

 ま、そっちは置いといて、俺はアルマチとホレル~あくまでもゲオルク学校とは呼んでやらない~に対応した。お姉様方を紹介すると男ふたりは、

「師匠、何すか?カルメンさん張りの美人さんばっかじゃないっすかぁ?」

「ハーレムパーティとか、羨まし過ぎるっす。」

「まぁな。でもお前らだって、3人の美女と組んでるじゃないか。」

「「「はうっ。」」」マチルダ、レベッカ、ルイーザの3人が真っ赤になってもじもじし出した。両手で顔を覆っている。お姉様方はやれやれといった感じだ。

「出たー、師匠の殺し文句。」「しれっと言うんだもんなー。」


 もじもじ真っ赤っかから立ち直るのに、女子3人は話題を変えて来た。

「なんか大きくなってません?」「数も増えてますよねー。」「やっぱ、かわいー!」

 女子メンバー3人が精霊たちに絡むが、精霊たちは俺の影に隠れる。てか、同時に7人も隠れられないんだけど。笑


 取り敢えずロビーの席に座って話すことにした。横ではカルメンさんが受付嬢たちに、

「ほらほら、あんたたち、仕事に差し支えるだろ。戻った、戻った。」

と言って受付嬢たちを追い返し、俺たちに合流した。

 アルマチとホレル~意地でもゲオルク学校とは呼んでやらない~の5人がカルメンさんにも挨拶した。受付主席の頃のカルメンさんに、散々世話になってたからな。


「しばらく西府にいるんすか?」

「いや、ちょっと国境の町バレンシーまで行くんだ。だから、途中に受けられそうなクエストがあったら受けて行こうかと思って寄ったんだよ。ひょっとしたらお前らに会えるかな?とも思ったしな。」

「師匠、俺たちもバレンシーにお供してもいいっすか?」

「あんたたち、ランクはFのままかい?」カルメンさんが聞いた。

「はい。」

「Fランクだと、国境の町への遠征は、ちょっときついんじゃないかしら。」ジュヌさんが心配している。

「そうね、国内ならまだしも、国境のバレンシーはね。それに帝国とは一触即発の状態だし、万が一、攻め込まれたりしたら危険だわ。」

 リーゼさんも反対したが、アルマチとホレル~絶対にゲオルク学校とは呼んでやらない~は食い下がる。


「でも俺たち、こないだキングシンバを狩りましたよ。」

「え?そりゃ凄いじゃないか。大したもんだな。」

「まぁ、5人掛りでようやく1頭ですけどね。」

「よし。お前らの成長も見たいし、連れてってやろう。ただし条件がある。」

「何でも聞きます。」

「ゲオルク学校と言うパーティ名を変えろ。こっちが恥ずかしくなる。」

「「「「「えー!」」」」」


「ゲオっち、いいじゃんよ。慕われててさ。」

「そうっすよ。それにそもそもゲオルク学校って名前を最初に考えたのはカルメンさんなんすから。カルメンさんに悪いっすよ。」

「ああ、そう言えば、そうだったねぇ。ゲオルク、勘弁してやんな。」

「えー?」

「後でぱふぱふしてやるからさ。」こそっと耳打ちされた。

「…じゃぁ生ぱふでなら。」

「しょうがないねぇ、まったく。商談成立だ。」


「ぱふぱふって何ですか?」レベッカが聞いて来た。

「君らではまだ無理。もうちょっと育ってからだな。」

「え?私たち、結構背が高い方ですよ。」天然なルイーザよ。育つのはそこじゃないんだが…、まぁ曖昧にしておいた。苦笑

 その横でマチルダは、カルメンさんのメロンボールに視線を向けたので、気付いたっぽい。最初に聞いて来たレベッカは、相変わらず???な表情をしていた。


 それから俺たちは、バレンシーとの行き来の間にこなせそうなクエストをいくつか、複数パーティの共同受注で受けた。

 その後、レンタル馬車2台を10日間借り、スノウとナイトを引き連れて、昼過ぎには西府を発って、ひたすら西へと進んだのだった。


設定を更新しました。R4/5/22


更新は火木土の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2002hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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