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精霊の加護054 メタとの契約

精霊の加護

Zu-Y


№54 メタとの契約


 翌日、ベンさんから描いてもらった地図と、廃坑になって使われていない、鉱夫運搬用のトロッコレールを辿って、ブレナの町から1時間の山道を登り、坑道の入口まで来た。


 入口で金属の精霊に念話を送ってみる。

『金属の精霊さん、いる?』

『トニー!久しぶり。随分長いこと、来なかったね。』

『トニーじゃないよ。』

『え?じゃぁ、トニーの孫?ベン…だったかな?』と言うことはトニーって精霊爺さんのことか?

『ゲオルクだよ。』

『そう…、確かに、トニーとは、気配が違う。』


『ねぇ、金属の精霊さん。名前を教えて。』

『メタだよ。』

『メタって言うんだ。よろしくね。』

『よろしく、ゲオルク。』

『メタに会いたいんだけど、そっち行っていい?』

『いいよ。でもメタが、そっちに、行こうか?』

『そうしてくれると助かる。坑道には入ったことがないんだよ。迷子になったら困るからね。』


『ふふふ。ゲオルク、迷子?トニーと一緒。』

『トニーと一緒って?』

『トニーも最初、坑道で迷った。』

『そうなんだ。じゃぁ、入口で待ってるよ。』


 入口で待っていると、すぐに金属の精霊が出て来た。第一形態の女の子だ。

「やぁ、メタ、こんにちは。ゲオルクだよ。そして仲間の精霊の、ツリ、クレ、フィア、チル、ワラ、ウィン。」

『こんにちはー。メタだよ。』

『『『『『『こんにちはー。』』』』』』

「早速だけどさ、俺と契約して旅に行かないか?」

『旅?うーん、でもトニーと、約束した。トニーが、孫のベンを、連れて来るから、待っててって。』

「ひょっとして30年位前かな?」

『うん。ずーっと、来ないんだ。』


「俺の友達のベンは、お爺さんから『精霊に会わせてやる。』って言う約束をしてたんだけど、会わせてもらう前に、お爺さんが死んじゃったって言ってた。」

『そう…、トニー、死んじゃったんだ。やっぱりなぁ。』

「え?やっぱりって?」

『孫を、連れて来るって、約束したとき、トニーは、病気だった。そのうち、会いに、来られなく、なるから、代わりに、孫を、連れて、来るって。』

「メタはずっと待ってたんだ。」

『うん。』

「トニーとは契約しなかったの?」

『トニーは、魔力が、足りなかった。ゲオルクは、魔力が、物凄く、多いね。』

「じゃぁ、ベンを連れて来ようか?」

『いい。ゲオルクと、契約して、メタが、行く。』


 メタはふわふわと漂って来て、俺の頭を両手でがっちり捕まえるとそのままぶちゅーっと濃厚なキスをして来た。契約の儀式だ。俺はメタを抱き抱えて契約が完了するまで待った。

 メタの体が黄色く光って契約が成立した。第一形態のメタとの契約が完了したので、俺の魔力量の上限は1万増えて、23万になった。


 その後、精霊たちとの情報共有の儀式が始まる。黄色く輝くメタの所へ、6人の精霊たちがやって来て、緑色、橙色、赤色、藍色、青色、紫色にそれぞれ輝き出した。

 メタを含めた7人で手を取り合って、くるくる回り出し、7人はメタを中心に交互にキスをして、それぞれが特大な光の珠になり、いつも通り、俺のまわりをくるくると回った。

 そして人型に戻ると、精霊たちの情報共有は完了している。


『メタは、ゲオルクとの、思い出を、皆から、教わった。』

『ツリが教えたー。』『クレもー。』『フィアもー。』『チルもー。』『ワラもー。』『ウィンもー。』

『クレたちは、メタの思い出を教わったー。』

『メタは、トニーと、孫のベンを、待ってたー。』

『メタは、旅の前に、ベンに会うー。』

『メタは、トニーに、さよなら、言うー。』

 精霊たちは、互いの思い出の共有から、互いに理解を深めて、さらに互いの本音を代弁している。


「メタ、トニーとベンのことをスッキリさせて、俺たちと旅に出よう。」

『うん。そうする。楽しみ。』


 ところでだ、裸のメタに貫頭衣を着せねばならない。例によって衣類の嫌いな精霊のメタはごねる。これは仕方がないのだ。いつものパターン、と言うか、もはやほぼ儀式である。苦笑

『やー、それ嫌ーい。』

 いやいやをするメタを何とか宥めて、貫頭衣を頭からすっぽり被せ、腰のところで紐を結んだ。

「これでよしと。皆と一緒だろ?似合ってるぞー。」

『この紐、やー。窮屈ー。』

「裸はダメなんだよ。すぐ慣れるからさ。」

『ぶー。』むくれ顔もかわいい。笑


 さて、それではメタの精霊魔法を試そう。ますは金属片を、異国の武器の手裏剣のように飛ばす。いい感じだ。

 続いて雷撃だ。これはかなりの威力だ。ちなみに雷は電気なので、通電性のいい金属のカテゴリーに含まれる。

 魔力切れを起こしたメタに、ぶちゅーっとキスによる魔力供給を繰り返して、様々な金属の精霊魔法を試した。何度も試し撃ちをするうちに、いい感じに慣れて来た。


 精霊魔法を十分に試したところで下山だ。第二形態のツリ、クレ、フィア、チルは、手を繋ぐか服の裾を摘まむかで付いて来る。第一形態のワラとウィンは両肩に座っている。そして今回仲間になったメタは頭の上にちょこんと座って帽子になった。笑


 ブレナに帰ると、まずはジャックさんを訪ねた。

「ひとり増えてますね。上手く1日で契約できたみたいですね。」

「ジャックさん仕入れは?」

「終わりましたよ。明朝出発しますが乗って行きますか?」

「お願いするよ。ところでこれからベンさんとこへ行かないか?」

「ああ、いいですよ。精霊に会わせるって約束でしたね。」


 それから、ジャックさんと一緒にベンさんの家に行った。

「よう、ベン。いるか?」ジャックさんが声を掛けると、

「おう、ジャックか。上がれ。」昨日と同じやり取りだ。笑

「ベンさん、お陰様でメタと契約できましたよ。」

「あ、ほんとだ。ひとり増えてる。この黄色い子だな。」

『トニーと、似てる。』メタはベンさんに、普通に話し掛けた。やはりベンさんも精霊を見る力があるのだ。

「「え?」」ジャックさんとベンさんがハモった。


 俺はメタから聞いたトニーさんとの約束をベンさんに話した。


「そうだったのか、メタには長い間待たせて、悪いことをしたなぁ。」

『いい。トニーは、病気だったから、仕方ない。』

「それにしても30年も待っててくれたのか。」

『うん。トニーに、さよなら、言う。』

「おお、じゃぁ爺さんの墓参りに行こう。」


 それから俺たちは精霊爺さん=トニーさんの墓参りに行って、メタはトニーさんに別れを告げた。その後、ベンさんの家に戻り、俺たちはトニーさんの追悼会をすることにした。追悼会と言ってもトニーさんを偲んで、3人で呑むだけなのだが。


 俺は、バース伯爵様から頂いた、30年物のアードベクを出した。ちょうどトニーさんが亡くなった年に仕込んだ物なんだよね。

 フィアと契約した帰りにバース伯爵様に頂いて、ハイラン高地へスノウを探しに行く途中で、お姉様方と呑んだときに封を切ったのだが、ベスさんが勿体ないと言うので、皆で1杯ずつだけ呑んでしまってたんだよね。


「おー、アードベクか?爺さんの好きだった酒だ。ゲオルクさんは、なんで知ってんの?」

「そうでしたか。でも、偶然ですよ。俺もこれ、好きなんで。」

「ゲオルクさん、これ、30年物じゃないですか?市場にはほとんど出回らないやつですよ。」

「そうなの?でも貰い物なんだよ。」

「30年物をくれるって、どんな方です?」

「婚約者の御父上。」バース伯爵様なんだけどね。一応、伏せとこう。

「凄いお方ですねぇ。」

「ま、そんなことどうでもいいじゃん。今夜は3人で呑もうよ。」

「そうですね。」

 ベンさんはグラスを4つ持って来た。ひとつはトニーさん用だ。

「皆、ロックでいいよね?チル、氷。」

『はーい。』カランカラン。4つのグラスで氷が音を立てた。

「おお、便利だな。」「ゲオルクさん、精霊魔法で氷って…。」ふたりの反応が対照的で面白い。


「「「カンパーイ。」」」


 しばらく呑んでからジャックさんが、

「ゲオルクさん、蒸し返すようで悪いんですが、この30年物の仕入れルートを確保したいんですよ。下さった方をご紹介頂けませんか?その方からでなくても、その方の仕入れルートをお聞きできれば、手に入れる可能性はあるかもしれません。」

「うーん、でも息子さんがねだったときは断ったそうだから無理なんじゃない?」

「そこを何とか。」

「おい、ジャック。ゲオルクさんが困ってるじゃねぇか。無理言うなよ。」

「ベン、そう言うけどなぁ。聞くだけ聞いてみたっていいだろ。」

「娘の婚約者が気に入ったから奮発したんだろうよ。」


「バース伯爵様です。」

「「は?」」ふたりがハモった。

「だから、30年物をくれた人ですよ。」

 ふたりがポカーンとしている。


「あっはっは。ジャック、諦めろ。平民が会える訳がない。」

「じゃぁ、ゲオルクさん、いや、ゲオルク様も貴族様で?」

「違いますよ。平民です。まぁ、婚約者は貴族ですが。」

「あー、じゃぁ、まさかとは思いますが、ゲオルクさんの婚約者って北府騎士団のワルキューレ?」

「北府騎士団のワルキューレ?何、それ?」

「バース伯爵様の二の姫で、北府騎士団の副長を務められたエリザベス様ですよ。もう退団されてますが、傍若無人な騎士団の中で、唯一、民の立場に立って下さった女神様です。私も一度、民に無体を働いた騎士団員を懲らしめてるところを見ました。」


「ふーん、俺はブレナから出たことねぇから知らねぇが、大層なお姫様だねぇ。ゲオルクさん、逆玉じゃん。」

「ベンさん、逆玉って…。知り合ったときのベスさんは冒険者でしたからね、貴族とか、そう言うのは知らなかったんですよ。後から分かってびっくりしましたけど。

 ジャックさん、そういう訳なんで、仕入れルートは他をあたってよ。」

 すると放心していたジャックさんが呟いた。

「はぁぁ、エリザベス様はご結婚されてしまうのか…。」え?そっち?


 その後、俺たちは痛飲した。当然のことながら、30年物のボトルは空になった。


設定を更新しました。R4/4/24


更新は火木土の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2002hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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