精霊の加護039 東府へ
精霊の加護
Zu-Y
№39 東府へ
翌日、定期馬車で王都を目指して出発した。
定期馬車の最後尾車両に乗り、その後にスノウが付いて来る。ベスさんは最後尾車両のさらに最後尾からスノウと絶えず会話していた。ほんとに仲がいい。
スノウは、元はベスさんの愛馬で、北府騎士団時代は戦友だったのだが、作戦中に事故死してしまった。ユニコーンに転生したばかりのスノウはまだ1歳馬で、重装備のベスさんを乗せるには小さい。普通の馬なら、あと1年もすれば十分に成長するだろうが、ユニコーンは聖獣だから、ひょっとすると精霊のようにあるとき、急に大きくなったりするのかもしれない。
なお、ユニコーンと言うことがバレるといろいろ厄介なので、幻惑の術で角を隠している。
数日の馬車の旅で、定期馬車は王都に着いた。
早馬便で伝言を残していたから、残りのふたりが着いているならギルドで合流できるはずだ。いなければ、到着まで数日王都で待てばいい。
早速ギルドに行くと、リーゼさんとカルメンさんは、予想通りそこにいた。
「ゲオルク君、こっちよ。」
「おや?そちらは、新顔だね?」
「リーゼさん、カルメンさん、こちらは南府でスピリタスに入ってもらったベアトリーチェさん。Sアタッカーの刀剣士でDランク。
ビーチェさん、Lアタッカーで魔術師のリーゼロッテさんと、バッファーで支援術士のカルメンシータさん。ふたりともEランク。」
「僕、ビーチェだよ。よろしくね。」
「リーゼよ。よろしく。」
「あたしゃ、カルメンだ。Sアタッカーが欲しかったんだ。しかもワンランク上とは頼もしい。よろしくな。」
「ゲオルク君、もしかして、ビーチェとアレよね?」
「アレと言うと?」惚けてみた。
「ゲオルク、何を惚けてんだい。どうせビーチェも頂いちまったんだろう?」
「そんなあからさまに。」
「ゲオルクが惚けるからだろう?」
「皆さんと似たような境遇だったんだよ。潜在能力が高いのに魔力の上限が低くて夢を諦め掛けてたんだ。放っとけないよ。」
「ビーチェは、ゲオルク君のタイプよね?」
「え?僕、ゲオっちのタイプなの?」
「そうね、ゲオルク君は巨乳じゃないとダメなの。」
「違う!巨乳だけじゃない。美人で面倒見がいい姐御系、これも譲れない。」
「あ、なるほど。じゃぁ、皆、ゲオっちのタイプじゃん。」
「その通り。」俺は言い切った。
「ゲオルクどの、威張るところではないと思うぞ。」
「ほんとですわね。」
皆がほのぼのとした笑いに包まれた。それからリーゼさんとカルメンさんにワラを紹介した。
俺は、その日のうちに乗り継ぎで東府行の定期馬車に乗り、東府に向かおうかと思っていたが、ビーチェさんが王都は初めてだと言うので、王都に1泊することにした。
宿を取ってから、王都のスイーツ店に行き、甘味を堪能して、レストランで夕餉を摂った。王都の料理は、ソースに工夫を凝らした非常に優雅なものだ。中部のワインが料理にとてもよく合う。
店員によると、最近はシャンパ村のワインが人気らしい。その話を聞いて、なぜがジュヌさんが頗るご機嫌だった。シャンパ村のワインは、ジュヌさんの好きな銘柄なのかな?
夕餉の後、宿の俺の部屋では宴会が始まった。
宴会に先駆けて、俺は南府からの指名依頼の報酬の大金貨4枚を分配した。ひとり金貨6枚と、半端の4枚はパーティ会計に入れた。
「ゲオルク君、これは貰えないわ。私たち、南府にすら行ってないもの。」
「そうだね。何もしてないからね。」
「それは違うよ。まず指名クエストはパーティで受けた。そして4人ともパーティの任務で各地での調整をしていた。あちこちでの調整を皆に任せたからこそ、俺は先に南府へ現地入り出来た。その結果として、依頼達成が早まった。皆は十分、依頼達成に貢献しているさ。」
「しかしな、ゲオルクどの。貢献度が違うのではないか?」
「わたくしもそう思いますわ。現場にいたおふたりの方が、貢献度が高いのではなくて?」
「僕はその場にいただけだから貢献はしてないよ。」
「いちいちクエストごとに貢献度を計算するのは手間だし、貢献度の評価基準は人によって変わるから、なまじ貢献度を加味したら、不満が出るだろ?だからスピリタスは皆で山分けにしてるんだよ。これでいいのさ。」
最終的に皆も納得して分け前の話は終わり。続いて互いの報告。
西府では、カルメンさんが俺の名代として、ギルドから表彰だけを受けて、所属の依頼は断って来たとのことだった。
それと、アルマチとホレルが連れて行けとせがんだそうだが、今はまだ足手まといになるから、もっと修行してからにしろと言って来たとか。流石カルメンさん、言うべきところはビシッと言うなぁ。
東府では、大司教様もルードビッヒ教授も、そう言う事情なら南部優先で仕方ないと言ってくれたそうだが、ルードビッヒ教授は、南部が片付いたらすぐに来いとのことだそうだ。
また、東部公爵様には大司教様が取り成してくれるそうだが、やはり東府に来たらすぐに公爵様へ拝謁する段取りになるだろうとのことだった。
それと、ギルドからの所属依頼には丁重にお断りをして来たそうだ。
あちこち大変だったねと言うと、1日で終わったわよとのことで、流石リーゼさんだと感心した。
俺は、ワラと契約した経緯を語った。やはりここでも、それは王国への宣戦布告に等しいと言うことになり、仕掛けて来た相手とは事を構えることになるだろうとの見立てだった。
正面からの戦争以外にも、経済制裁や国交断絶などの手段もあり、大陸の中央に位置する王国が流通を切れば、王国を挟んだ帝国と教国の行き来も遮断されると言う。
王国は、東部、西部、南部、北部の各公爵領からの特産品を、王家が治める中部に集めて取引することで莫大な富を得ており、さらに、王家はその莫大な富を生産地に分配している。この施策のために、生産地の生産力はさらに向上し、王国全体が非常に豊かになっている。
帝国も教国も王国との交易を断たれたら、経済的ダメージは相当なものだし、また、帝国と教国の商いはすべて王国経由となるため、中継地である王国を敵に回すと、帝国・教国間の流通は遮断され、結果的に孤立させられる。
1年2年は持ち堪えても、数年に渡ればじわじわと確実に疲弊するだろう。
「それにしてもゲオルク、よくやった。大手柄じゃないか!どれ、ご褒美にぱふぱふをしてやろう。」キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
カルメンさんを皮切りに、夢のような5連ぱふぱふが続いたのだった。
翌日、俺たちは東府行の定期馬車が出るまでの時間、王都を散策していた。巨乳美女5人と美少女精霊5人を連れた俺はどうしても人目を惹く。人目を引けば、冒険者の中で品の悪い連中に絡まれることもある。
「おい、随分見せ付けてくれるじゃねぇか?」
テンプレの3人組に早速絡まれた。3人は俺たちの前に立ち塞がる。
「おおう、女は皆、上玉じゃねぇか。」
「ねぇちゃんたち、俺たちと遊ぼうぜ。」
「一応警告しとくけど、回れ右してダッシュで逃げた方がいいよ。」
俺は形だけ警告してやった。
「なんだと、コラ!」「舐めてんじゃねぇぞ。」
『ゲオルク、やっていい?』
「いいぞ。」
テンプレ3人組は、突然地面から生えて来た蔓に雁字搦めにされ、転がった。
「おい、何しやがる。」「外せ、コラ。」「てめぇ、殺すぞ。」ギャーギャーうるさい。
リーダー格の奴は、ツンツンのモヒカン頭が目に付く。ふむ。フィアと目が合うと、フィアがニターッと笑った。次の瞬間モヒカン頭が発火し、リーダー格の奴が熱さに転げまわる。芋虫みたいだ。笑
ザッパーンの水を被って火は消えたが、自慢のモヒカン頭は黒コゲのチリチリで台無しである。こうなると丸刈りにするしかないだろうな。
「ツリ、フィア、ワラ、サンキュー。」3人に魔力補給のキスをする。
テンプレ3人組は、絡んじゃいけない相手に絡んだことを悟ったようだ。あからさまに眼を逸らした。
「おーい、さっきの威勢はどうした?」
「「「…。」」」
「ふむ。素直に侘びが言えるように、もう少し体に教えてやるか?」
「「「すみませんでした。」」」
「あら?あなたたちは…。」
「「「…。」」」
「ジュヌさん、知り合い?」
「ええ、王都ギルド所属の冒険者ですわ。やんちゃな人たちで、お断りしましたのに、随分しつこく誘って来ましたのよ。」
「へぇー、そうなんだ。」
と言って、テンプレ3人に移した俺の視線は、それはそれは冷ややかなものだった…らしい。そんなの自分じゃ分からないよね。
この話は、この後の東府行の定期馬車の中で、道中の暇潰しに散々聞かされることになるのだった。
俺の不快感に反応した精霊たちが、臨戦態勢を敷いて不気味なオーラを発し出すと、テンプレ3人組は顔色を変えて股間を濡らした。
「ゲオルクさん、行きましょう。」ジュヌさんのひと言で俺はわれに返り、テンプレ3人組を放置して、その場を後にした。
この一部始終を面白半分で眺めていた冒険者が何人かいて、この話はその後、尾鰭端鰭が付いて王都ギルドに語られたそうだ。
もちろんテンプレ3人組はその後まもなく王都ギルドから姿を消したとか。他に拠点を移したか、それとも引退したか…。
テンプレ3人組に絡まれたのはいい暇潰しになった。
昼過ぎに、中央広場で東府行の定期馬車に乗り込んで出発し、スノウが定期馬車の後に付いて来た。
定期馬車は数日掛けて東府へ到着した。
設定を更新しました。R4/3/20
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2002hk/
カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。