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精霊の加護029 北府経由で雪山エリアへ

精霊の加護

Zu-Y


№29 北府経由で雪山エリアへ


 今日から3日掛けて北府に帰る。


 ギルドで北府行定期馬車の護衛任務がないか尋ねたが、北府からの護衛が往復なので要らないそうだ。

 仕方ないから定期馬車のチケットを取った。大人5人と子供ふたり、幼児は親が抱けば無料、席を用意するなら子供料金だそうだ。

 フィアは俺が抱いて行く、何たって軽いしな。それにどうせ俺にまとわりついて来るし。


 乗客は20名ちょっと。定期馬車は3台編成だったから比較的ゆったりと乗れる。8人の俺たちは一番の大口客で、馬車1台があてがわれた。

 北府から護衛して来たパーティは若い連中でおそらく10代ばかり。Sアタッカーの剣士と拳闘士、Lアタッカーの射手と魔術師、ヒーラーの神官、バッファーの支援術士とバランスがそこそこいい。タンクがいれば文句なしの編成だ。物理攻撃が男3人、術士が女3人である。


 出発前の顔合わせで、護衛パーティが客の所を回っている。挨拶まわり兼自分たちの売り込みだ。客とのコミュニケーションは大切だからな。

「よう、あんたら冒険者かい?」と射手。

「ああ。よく分かったな。」

「いや、その恰好はどう見たって冒険者だろ。」と拳闘士。

「護衛じゃなくて客なのかい?客で金払うより、護衛で金稼いだ方がいいだろうに。」と剣士。

「いやそうしたかったんだが、優秀な護衛が付いてるからいいってさ。」

「そいつは悪かったな。ばっちり守ってやるから安心しといてくれよ。」と射手。

「ああ。よろしくな。」


 黙ってた護衛の女の子たちも含めて6人が会釈して離れて行った。なお女の子たち3人は、うちの精霊たち3人を見て微笑んでいたが、人見知りな精霊たち3人は、俺の影に隠れて、護衛の女の子たちには見向きもしなかった。


 定期馬車の護衛パーティはDランク以上だから、この若さで平均Dランクってことは、かなりとんとん拍子にランクアップしたのだろうな。その証拠に物言いが自信満々だ。虚勢を張ってる感じではないから本当に自信満々なのだろうな。


 こう言う奴らは実は危ない。痛い目を見てないから物事をついつい甘く見る傾向があり、いつかとんでもない失敗をして、運が悪ければ命を落とすことにもなり兼ねないのだ。

 初心者のうちに痛い目を見ておくことは、教訓と慎重さを得る上で、実は結構重要なのだ。アルマチやホレルのようにな。

 俺はついつい、西府の頃を思い出していた。アルマチやホレルは元気でやってるかな?


 アルマチとホレルは、俺が西府でソロをメインで活動をしているとき、面倒を見てやった若手の初心者パーティだ。

 アルマチは、狂戦士アルフォンソと剣士マチルダのパーティで、ふたりともSアタッカーだからパーティ編成のバランスが悪い。そのせいで何度も窮地に陥っていたので、Lアタッカーの射手である俺が助っ人をしてやった。


 ホレルは、Sアタッカー兼タンクの軽歩兵ホルヘ、Lアタッカーの魔術師レベッカ、ヒーラーの神官ルイーザで、パーティ編成のバランスはイマイチ。ホルヘが突破されると残りの後衛ふたりが一気にやられる危険を孕んでおり、まさにその場面で全滅し掛けてたところを俺が救った。


 結局アルマチもホレルも俺の弟子みたいな感じになり、俺を通して知り合って、先頃合併した。この合併でできた新パーティはなかなかバランスがよいが、パーティ名だけがおかしい。絶対おかしい。ゲオルク学校とか、マジでハズいんで本当にやめて欲しい。


 スピリタスに加わる前は、西府の冒険者ギルドで受付をやっていたカルメンさんが、俺の考えを一発で見抜いた。

「ゲオルク、この子たちを見てると、ゲオルク学校の奴らを思い出すねぇ。」

「うん。でもあの名前はマジでやめて欲しい。」

「別にいいじゃないか。ゲオルクが慕われてる証拠だよ。それだけ親身に面倒を見てやったってこった。」

「そうは言ってもなぁ。」


 馬車の中では俺の両横にツリとクレが座って俺の手を握っており、フィアは右肩にちょこんと座っている。ツリとクレはずっと俺の手を弄んでおり、フィアは俺の髪の毛をひたすら弄っていた。まるで毛づくろいである。笑


 北府への行程の初日にトラブルが発生した。森で凶暴なオークの群れに遭遇したのだ。


 こいつらはなかなか巧妙で、正面から襲って来たオーク10体が、護衛パーティの迎撃に遭うとあっさり引いたのだ。負け知らずのパーティはそのまま追撃に移ったが、その隙に後ろから別動隊と言うか本隊の20体が定期馬車一行を襲って来た。前から挑んで来たのは囮隊だったのだ。

 団長から警告を知らせる警笛が響き渡る。

 逃げる囮隊を追撃していた護衛パーティが、団長の警笛を聞いて定期馬車一行のもとに戻ろうとしたところを、逆に囮隊に追撃を仕掛けられて護衛パーティは大いに混乱した。


 普通ならこれで定期馬車一行は確実にアウトだ。しかし定期馬車一行には俺たちスピリタスがいる。

 森の中なのでフィアの火の術は使えないから、クレの土の術で突進して来るオーク本隊の前に落とし穴を出現させて、およそ半数を落としてやった。ギリギリ踏みとどまって落とし穴への落下を避けた残りのオーク全員は、ツリの木の術で蔓を出して瞬時に拘束し、落とし穴の中でジタバタしているオークはフィアの火の術でトドメを刺してやった。

 本隊のオーク20体は、俺と精霊で一瞬にして無力化してやったのだ。


 追撃に苦戦していた護衛パーティには、お姉様方4人が助っ人に行った。

 後ろからの逆襲を受けて、隊列を乱していた護衛パーティでは、真っ先に後衛の魔術師、神官、支援術士の女の子たち3人が狙われていた。オークは女性を真っ先に襲う。反吐が出るが、慰み者にするためだ。


 カルメンさんが皆にバフの術を掛け、リーゼさんの風魔法が、護衛パーティの女の子たちに襲い掛かっていたオークたちを切り刻む。

 風魔法に怯んだオークにベスさんの槍の刺突が襲い掛かっている隙に、ジュヌさんが護衛の女の子たちの負傷を瞬時に癒した。リーゼさんの攻撃魔法と、ベスさんの槍による攻撃で形勢を逆転し、囮隊のオーク10体を殲滅した。


 結局終わってみると、囮隊の10体は、リーゼさんが5体、ベスさんが5体を退治し、本体の20体は、俺と精霊で11体を丸焼きにして、9体を拘束した。

 一方、護衛パーティの戦果はゼロ。負傷者をジュヌさんに癒されたことを計算に入れると、護衛パーティの戦果はマイナスである。


 天狗の鼻をぽっきりとへし折られて、護衛パーティの6人とも項垂れていた。初めての挫折だ。これを糧にすれば、こいつらはさらに伸びるだろうし、糧にできなければそれまでの奴らと言うことだ。


 オークは食材になるので、リーゼさんとジュヌさんが倒した10体と、俺が蔓で拘束した9体を屠って解体し、定期馬車に積んでもらった。丸焼きにした11体は、焼き過ぎててダメだった。残念。次からはもう少し焼き具合を考えよう。


 オーク肉の他に、魔石はしっかり30体分ゲットした。

 このオーク肉は、この後の宿場町で売り捌いたのだが、結構いい金になった。ほくほくである。


 オークの処理を終えると、定期馬車の団長が、俺たちに深々と頭を下げて礼を述べ、俺たちが支払った運賃を返却して来た。

「運賃は頂けませんし、あなた方の腕を見込んで北府までの護衛をお願いしたいのですが引き受けて頂けますか?」

「もともと俺たちは護衛クエストを希望していたのでな、護衛を引き受けることは構わないぞ。」

「そう聞いて安堵いたしました。お名前をお聞かせ頂けますか?」

「俺はゲオルク、パーティはスピリタスだ。」

「え?スピリタスですって!あのワイバーン3体を瞬時に屠ったスピリタスですか?」北府からバースに行くときのことだな。


「その話、尾鰭が付いてないか?確かに俺たちは数日前に、北府からバースに行く途中でワイバーン3体を倒したが、瞬時って訳でもないぞ。」

「ご謙遜を。やはり実力があるパーティは謙虚ですな。大言を吐く輩は、結局のところ、信用できません。今回の護衛パーティがいい例です。」

「団長、護衛だった奴らはどうするのだ?」

「彼らは、不必要な追撃を不用意にしたことで、馬車隊を窮地に陥れました。スピリタスの皆さんのおかげで被害は出てませんから、違約金は請求しませんが解雇します。ギルドにも報告するので、全員ワンランク降格となり、この護衛クエストは当分受けられなくなるでしょうな。」

「随分厳しいな。」

「当然です。護衛費用は安いですが、それ以上にこのクエストで得る評価は高いんですよ。火山エリアにとって湯治客は生命線ですからね。中途半端な護衛では困るのです。」

「確かにな。」


 護衛パーティは団長から呼ばれた。

「あなたたちは解雇します。ギルドにも報告しますので降格を覚悟して下さい。今後、私の定期馬車に乗って北府まで帰るつもりなら、客として運賃を請求します。どうされますか?」

「「「「「「…。」」」」」」

「ご返答を。」

「「「「「「…。」」」」」」

「お返事がないなら否と受け取ります。あなた方はご自由に。徒歩でついて来ることまでは拒みません。

 ゲオルクさん、参りましょう。」


 馬車の中では精霊たちが魔力の補給を要求してきたので、べろちゅー3連発になった。順調な馬車の旅は退屈である。何かあった方が刺激となるのだ。しかしその後、北府まで魔獣の襲来はなかった。


 北府ギルドで、定期馬車護衛の緊急クエスト受注と達成を報告した。護衛クエストの報酬に加えて、護衛で雇われる前に討伐したオーク30体についてが、ギルドのクエスト扱いで討伐認定されたので、この分も報酬が出た。オークの魔石30個もここで買い取ってもらった。


 途中の町でのオーク肉の買取額と合わせて、ひとり当たりの取り分が金貨2枚と大銀貨7枚になり、金貨2枚と大銀貨6枚と銀貨3枚がパーティ会計になった。皆、ほくほくである。


 つい先日ワイバーン3体を瞬殺したスピリタスが、今度はオーク30体を瞬殺したと言うニュースが、驚愕とともに北府ギルドの中を駆け巡るのは、翌日以降のことだが、翌日の朝イチで北府を発った俺たちは、その事実を知る由もなかった。


 さて、北府から雪山エリアへ行く手段を確保せねばならない。

 と言うのも、北府から雪山エリアへ行く定期馬車はないからだ。行商馬車を使うか、馬車をレンタルするか、あるいは徒歩か。


 雪山エリアは、冬は雪に埋もれてしまい、環境が厳しいので人口は多くないのだが、その厳しい環境が恩恵としてもたらす雪山エリア産出の天然氷は、品質が高くよく売れるので、天然氷を仕入れに行く行商馬車が多い。

 秋となった今は落ち着いて来ているが、夏場の氷を仕入れる行商馬車~通称氷馬車~は、北府を連日発着し、火山エリアへ湯治客を運ぶバースへの定期馬車よりも規模が大きくなる。


 ただし、東府の行商馬車が東府を出発して村々をひと通り巡って東府に戻るのに対し、北部の行商馬車である氷馬車は、雪山エリアの中心の町ディバラを経由するものの、それぞれの氷の産地となる村をピンポイントで往復する。

 北府発の氷馬車は、人口が少ない村々へ補給する物資が少ないので、荷台に余裕がある。このため運賃も安いし、そこそこの人数でもまとめて運んでくれる。しかし北府着の氷馬車は、天然氷を満載して来るので荷台に余裕はない。運んでくれる人数も少数で、運賃が跳ね上がる。

 要するに、氷馬車を使うと帰って来るのが大変なのだ。


 また、冷気の精霊がいる場所付近の村と、ゲオルギウスが特解痺草を探しに行った村が違えば、村から村へ移動があり、氷馬車は使えない。

 取り敢えず、北山エリアの中心の町ディバラまで氷馬車で行き、ディバラでレンタル馬車を借りることにした。


 皆で夕餉を摂って軽く呑んだ後、ベスさんは自宅へ帰り、俺たちは北府のいつもの定宿を取ってその日は解散。


 翌朝、氷馬車に乗って北府を発った。ディバラまでは3日の行程だ。

 氷馬車の商人は気さくな人で、道中いろいろな話を聞かせてくれた。実はこの商人から得た話が非常に有益な情報だったのだ!


 雪山エリアの中心都市は、雪山エリアの南寄りで、北府に近いディバラである。ディバラから北に1日の所にあるラスゴーと言う村の近くの高原では、麻痺を瞬時に治す薬草が取れると言う。これはゲオルギウスが探していた特解痺草の可能性が高い。

 さらにラスゴーから北に1日のセアリューと言う村では古の伝承で冷気の魔術師の故郷だと言う伝説がある。しかもここには精霊と話せる巫女がいるそうなのだ。

 そしてさらにセアリューの北に2日のハイラン高地と呼ばれる雪に埋もれた高地には、伝説のユニコーンがいると言う。このネタにはベスさんが食い付いた。流石、馬には目がない重騎士である。これは行かずばなるないな。苦笑


 途中の宿場町で2泊、徐々に寒さが増して来るとともに、見掛ける精霊は藍色ばかりになった。冷気の精霊が急増していると言うことだ。


 3日目にディバラに着いた。俺たちを乗せてくれた氷馬車の商人は、ディバラを経由して雪山エリアの東の村々で天然氷を仕入れるそうなので、俺たちはディバラの町で氷馬車の商人と別れた。

 それにしても寒い。まだ秋も半ばだと言うのに、もはや冬のような気候ではないか!息がうっすら白いぞ。やはり北部の中でも北に位置する雪山エリアだけのことはある。


 このディバラの町で1泊し、明日はレンタル馬車を借りて、雪山エリアの奥地へと進むのだ!


設定を更新しました。R4/2/27


更新は火木土の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2002hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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