精霊の加護028 バースの打ち上げ花火
精霊の加護
Zu-Y
№28 バースの打ち上げ花火
リバプからバースへは、馬車で1日の行程なので、夕方にはバース伯爵様のお屋敷に着いた。
バース伯爵様のお屋敷では、なんと伯爵様に出迎えられた。と言うのも、実は俺たちが到着するちょっと前に、御正室様と御側室様も湯治から戻られていたのだ。伯爵様が御正室様と御側室様を出迎えた直後に俺たちが到着したので、そのまま出迎えてくれたらしい。笑
しばらくして、俺たちは謁見の間に呼ばれた。正面に伯爵様、両隣に御正室様と御側室様が座っている。
「父上様、ただいま戻りました。御正室様、母上様、お久しゅうございます。」
「うむ、大儀。
で、ゲオルクどの。そちらのお方かな?」
ベスさんの挨拶を、ひと言で受け流して、早速俺に話を振る伯爵様に、ベスさんはもとより、御正室様も御側室様も眉をしかめた。
「はい。フィアです。」取り敢えずこの場は返事をするしかないよな。
「おお、フィアどのと申されるか。ん…?」
御正室様が、横から伯爵様の袖を引いている。笑
「なんだな?今、ゲオルクどのと話しておるのだ。」御正室様が何かこそっと話すと、
「おお、そうであったな。
ゲオルクどの、許されよ。改めて紹介しよう。これなるがわが正室クラリス、そしてわが側室リンダじゃ。リンダはベスの生母でもある。
こちらがゲオルクどのじゃ。聞いて驚くなよ。ゲオルクどのは伝説の精霊魔術師よ。」
「「え?」」御正室様と御側室様が驚きの声を上げた。何も聞いてなかったようだ。と言うか、帰って来たばかりで聞いてる暇もなかったんだろうな。
「ゲオルクでございます。」俺が挨拶すると、御正室様と御側室様が微笑んで頷いた。見事に驚きから立ち直っていた。流石だ。
「ベス、お仲間の皆さんを紹介せよ。」伯爵様がベスさんに振った。
「はい。順に、リーゼロッテどの、ジュヌヴィエーヴどの、カルメンシータどのです。そして、ツリ、クレ、フィアです。」
リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさんが挨拶すると、御正室様と御側室様は、俺のときと同じように笑顔で頷いた。しかしながら、当然ではあるが精霊3人は挨拶をしないどころか、関心すら示さない。ひたすら俺にまとわりついている。
「早速だが、ゲオルクどの、フィアどのの精霊魔法を見せてもらえるかな?」
「伯爵様、ここでご披露するのですか?何分属性は火ですので…。」
「そんなに強力なのか?小さい火の玉を出して消すぐらいかと思っておったのだが。」
「それでくらいでよろしいのでしたら。」俺がフィアにイメージを送ると、俺の頭の上に顔の大きさくらいの火の玉が出て、すぐ消えた。
「おお~、素晴らしい!」「「…。」」伯爵様は大喜びで、御正室様と御側室様は若干引いていた。
「ゲオルクどの、先程『それくらいでよろしいのでしたら。』と申していたな。いったいどれくらいの術を披露しようと考えていたのかな。」
「はぁ。庭からから空に向かって打ち上げようかと考えておりました。」
「面白い。庭へ参ろうぞ。」
まわりが止める間もなく、伯爵様は席を立って俺たちの所に歩いて来た。
「旦那様、お待ち下さい。」横で控えていたセバスさんが泡を食っている。護衛が伯爵様の後を追って来てまわりを囲んだ。ここは謁見の間だから、食堂とは違い、護衛もいるのだ。御正室様と御側室様はその場でおろおろしている。
「大丈夫だ。ゲオルクどのは身内ゆえな。」と言ってから、伯爵様がしまったと言うように、頭を掻いている。
俺がベスさんの婚約者と言うことは、まだ内々の話で公になっていない。ひょっとすると今のは確信犯かも。伯爵様は、言いたくてうずうずしてるようにも見受けられるしな。
結局庭では、伯爵様、御正室様、御側室様を取り巻くように護衛が囲んで、俺は離れたところに控えさせられた。
苦虫を噛み潰したような顔のセバスさんが、いかにも不機嫌そうに、
「ゲオルク様、始めて下され。」と言った。
流石に伯爵様の身の安全を考えれば、このセバスさんの反応は、無理からぬものではあるよな。
とは言え、どうもこのセバスさんと言う人は、俺のことがあまり気に入らないらしい。ふむ、それならば派手に度肝を抜いてやろう。
フィアにイメージを送るとフィアは満面に悪戯っ子の笑みを浮かべた。あ、心を読まれた。笑
次の瞬間、フィアがかなり大きな火球を派手に上空へと打ち上げ、空高くで破裂させた。ドーン!俺が送ったイメージよりもかなりでかい。フィアめ、やりやがったな。苦笑
伯爵様は大喜びだったが、御正室様と御側室様は抱き合って腰を抜かしているし、護衛たちは大慌てだ。流石にセバスさんは護衛たちを一喝して、すぐに統制を取り戻していた。
その後、大音響に度肝を抜かれた伯爵様のお屋敷の他のスタッフが、何事だと飛び出して来て、ちょっとしたパニックになったが、こちらもセバスさんが上手く取りまとめた。セバスさんは非常に優秀だ。
しばらくすると中心街から衛兵隊が血相を変えて駆け付けて来た。後から聞いたことだが、伯爵屋敷が何者かに爆破されたとか、内乱が起きたとか、いきなり奇襲を仕掛けられたとか、様々な噂が流れたようだ。
衛兵隊にもセバスさんが対応しているが、流石のセバスさんも、衛兵相手では手こずっているようだ。仕方ない、俺が責任を取るか。
「ですから伯爵様は無事ですし、ここでは爆発はしておりません。」対応するセバスさんに、衛兵隊の隊長らしき人が食い下がっている。
「しかしだな、セバスどの、私はこの目で爆発を見たのだ。」
「あー、隊長さんですか?すみませんね、俺はゲオルクと言います。伯爵様に招かれて来ていまして、さっきの爆発は俺の仕業です。」
さっと、衛兵が俺を取り囲む。
「ゲオルクと言ったな。事情を聞かせてもらえるか?」
「はい。実はバースの観光の目玉を増やせないかと伯爵様からご相談を受けまして、打ち上げ花火を提案したんですよ。」
「打ち上げ花火?なんだそれは。」
「火の精霊魔法です。火球を真上に打ち上げて上空で爆発させるのです。先程は少々魔力を放出し過ぎまして、お騒がせしました。」
「うーむ。」よし、隊長が考え込んだ。半信半疑と言った所だな。もうひと押しだ。
俺はフィアにイメージを送った。
「フィア、さっきの1/10でいいぞ。それ以上強くするなよ。」
『はーい。』
小さな火球が上空に打ちあがった。キュルキュルルー、ポンッ。
「なるほどな。しかしさっきのはこんなものではなかったぞ。」
「そうですね。いまのはさっきの1/10の魔力です。伯爵様にぜひ採用して頂こうと思いまして…、その力を入れ過ぎたと言うか、入れ込み過ぎて術の加減をしくじりました。」俺は頭を掻いて見せた。隊長は疑いから納得へシフトしつつある。
「しかしそのような計画は聞いておらんが。」
「そりゃそうですよ。何たって観光の目玉ですからね。噂になって他へ情報が漏れたらまずいじゃないですか。皆さんもこのことを口外したら、伯爵様からお咎めを受けますよ。口外無用ですからね。いいですか?」
「相分かった。」隊長は納得したようだ。
「大体セバスさんがはっきり仰らなかったのだって、皆さんを巻き込みたくなかったからですよ。極秘情報は知らなきゃ口外できませんからね。
いずれにせよ皆さんは極秘情報を知ってしまった訳です。うっかり漏らさないように気を付けて下さいね。特に酒場で一杯呑んだときとかは要注意ですからね。」
「うむ、確かにその通りだな。ご忠告かたじけない。
それからセバスどの、お心遣いを無にしてしまったようで誠に申し訳ない。」
「いや、隊長。よいのです。」
衛兵隊は中心街へ帰って行った。バース中心街は混乱していたが、しばらくすると衛兵隊が混乱を収めたそうだ。
「ゲオルク様、とっさの機転、このセバス、感服致しましたぞ。」
「いえ、俺が蒔いた種ですから。」
せっかくセバスさんが好意的な眼差しで見てくれたと言うのに、フィアが、
『ゲオルクー、お腹すいたー。』と言って、ぶっちゅーとやって来た。
セバスさんの好意的な眼差しが、みるみると白い眼に変わって行く。じきにフィアが赤く輝いた。まったくフィアったら、もう少しタイミングを考えて欲しいな。苦笑
夕餉はいつもの如く、伯爵様から食堂へ招かれた。今宵は、伯爵様の他、御正室様、御側室様も同席されているが、ふたりは先程の精霊魔法で腰を抜かしているので、俺と目を合わせたがらない。さり気なくスルーしているのが手に取るように分かる。一方、伯爵様は頗る上機嫌だ。
「ゲオルクどの、火の精霊魔法は実に見事であった。」
「ありがとうございます。」
「それからとっさの機転で衛兵隊の隊長を丸め込んだそうだな。あの融通の利かぬ頑固者を数分で丸め込むとは大したものよ。気難し屋のセバスも感心しておったわ。」
「恐れ入ります。」
「それにしてもベスよ。そなたが一番の大手柄ぞ。よくぞこんな良い男を見付けて来たものだ。やはり早々に婚約発表をしてはどうかな。」
「旦那様、今、何と仰せられました?」御側室様=ベスさんの母上様が反応した。
「ん、そうか。ふたりにはまだ話してなかったな。ベスがゲオルクどのを将来の婿として連れて来たのだ。」
「ベス!どう言うことです?」御側室様の口調が詰問調になった。
「母上様。父上様の仰る通りです。ゲオルクどのとは先頃出会って意気投合し、婚約しました。それゆえ父上様と御正室様と母上様に紹介すべくお連れしたのです。」
「何を言うのです。あなたにはしかるべき嫁ぎ先を父上様がお考えなのですよ。」
「わしはすでにゲオルクどのを婿として認めておるから問題ないぞ。」
「旦那様!」
「よいではないか。ゲオルクどのは何と言っても伝説の精霊魔術師なのだぞ。記録に残っておる精霊魔術師の出現からは数百年ぶりだ。そのことで王国は魔法学院を中心に大騒ぎになっておる。その精霊魔術師がわが家の婿どのだ。痛快ではないか!」
「旦那様、ベスの結婚相手をその様な理由でお決めになるのですか?」
「そうだ。女だてらに騎士団に入団したお転婆娘が、惚れた男を連れて来たのだぞ。ベスは、並の男では乗りこなせんじゃじゃ馬よ。政略結婚になど使って見よ、早々に離縁されてその家とは疎遠になるわ。」
「しかし、侯爵様のご次男様よりお話があったではありませんか?」
「ふん、あの腰抜けになど、ベスは勿体ないわ。」
「…。」御側室様が黙ってしまった。あの腰抜け、と言う伯爵様の評価に、同意なのだろうか。
「ゲオルクどのはな、ベスが気に入ってわしも気に入ったのだ。セバスも一目置いた。そなたは何が気に入らんのだ?」
「旦那様、そこまでお気に入りならなぜ早々に婚約を発表せぬのですか?」御正室様が話に入って来た。御側室様への助け舟だな。このふたりは本当に仲が良いようだ。
「そのことよ。ゲオルクどのがAランクになるまで待てとベスが申すのだ。」
「Aランクですか?ほとんどの者はなれぬそうですが?」
「わしはあっさりなると思うがの。ゲオルクどのの面構えがそう申しておる。」
「ゲオルクどのとやら。ひとつ聞きますぞ。ベス以外のお仲間も、みな妙齢な美人揃い。まさかとは思いますが皆に手を付けている訳ではありますまいな?」
流石、御正室様。鋭いところを突いて来やがる。こうなったら取り繕っても仕方ねぇな。
「はい、Aランクになったら全員口説き落とすつもりです。」
「わはははは。薄々そうかと思っておったが、この場で躊躇いもなく白状しおった。」伯爵様が豪快に笑った。
「なかなか肝が据わってますわね。」御正室様がニヤッと笑った。
「ベスも旦那様もそれでいいなら仕方ありませんわね。」御側室様が溜息をつきつつ同意した。
その後の会話は一気に穏やかになった。なんか試験でもされていたような気がするな。
夕餉の後は例によって伯爵様がアードベクの30年物を持って来させたのだが、中身の減り具合で毎晩俺と呑んでたことが、御正室様と御側室様にバレてしまった。
ふたりから小言を言われて、一生懸命言い訳をしている伯爵様が何ともかわいい。結局1杯だけと言うことで許してもらった。
その1杯を呑み干すと伯爵様は、御正室様と御側室様を伴って引き上げて行った。一瞬、3Pか?などと不謹慎なことを考えてしまう俺。
そしてその場はスピリタス呑みになった。
「さっきは御正室様の追及に、誤魔化すことなく全員口説くと言い切ったね。あたしゃ、ゲオルクのそう言う正直なとこ、好きだよ。」
「そうね。私も嬉しかったかな。」
「あの場でジタバタしても始まらないしね。って言うか聞かれた時点でバレてると思ったよ。」
「そうですわね。ゲオルクさんの正直さにご褒美を差し上げましょう。何か御所望はありますか?」
「そりゃもうご褒美と言ったら…。」ジーッとメロンボールを見つめる俺。
4連ぱふぱふの後、しばらく楽しく呑んで、今夜の呑み会は早めのお開きとなった。明日は北府に向かって出発するからな。
部屋では精霊たちが一緒だ。両隣にツリとクレ。腹の上にフィア。ま、軽いからいいけどね。
設定を更新しました。R4/2/20
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2002hk/
カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。