精霊の加護007 回想:ゲオルギウス加入
初作品なので、不慣れですがよろしくお願いします。
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
精霊の加護
Zu-Y
№7 回想:ゲオルギウス加入
「ゲオルク君、そろそろ起きて。」
「あ、リーゼさん、おはようございます。」
眠気眼でベッドから出ると、マイサンはドラゴン化していた。朝の生理現象である。昨夜の営みのせいですっぽんぽんだったことに気付き慌てて隠すがもう遅い。
「あらあら、朝から元気ねぇ。」
「すみません。」
「いいわよ。男の子は仕方ないものね。朝餉にしましょ。」
流石リーゼさんは大人の女性の余裕。まったく動じないでむしろ微笑んでいる。一晩すっかりお世話になり、昨夜は夜遅くまでもの凄い御馳走だった上に、朝餉まで頂いた。
「今日は、ゲオルギウスに加入申請でしょ。早く行かないとね。」
「ゲオルギウス?」
「あら、ジョルジュさんのパーティよ。そう言えばゲオルク君もゲオルギウスよね。偶然ね。」
ゲオルギウスは大地の人と言う意味で、ポピュラーな名前のひとつである。トレホス王国の各地の方言でいろいろな呼び名に派生しており、東部ではゲオルク、中部ではジョルジュ、西部ではホルヘ、南部ではジョルジオ、北部ではジョージだ。異国ではゲオルギィとも言うそうだ。
リーゼさんと一緒にギルドに行き、しばらく待っているとジョルジュ達が来た。
「あ、皆さんおはようございます。」
「おう、ゲオルク、おはよう。昨日は無様な姿を見せてすまなかった。ルナの不意打ちが見事に入ってな。ルナはヒーラーだが、格闘もある程度こなすんでパンチはなかなかのもんだぞ。これから気を付けろよ。」
「あら、誰かさんみたいに失礼なことを言わなけりゃ何もしないわよ。」
「はい。分かりました。」俺はジョルジュの警告とルナの言い分に素直に頷いた。
「いい返事ね。」ニコッとしたルナは、実は凄くかわいくてドキッとした。昨日はガサツなイメージだったからギャップ萌えと言う奴だ。
「ルナさんって、笑うと凄くかわいいね。」
「え?」ルナが真っ赤になった。
「いつも笑顔にしてた方が断然いいよ。」
「ルナ、お前なに真に受けて照れてんの?顔が真っ赤…ぐへっ。」横にいたルナのクリーンヒットがジョルジュを襲う。もろに入ってジョルジュは吹っ飛んだ。そのまま動かないので伸びたっぽい。昨日と同じパターンじゃんよ。
「おい、ルナ。ちったぁ加減しろよ。またジョルジュが伸びちまったじゃねぇか。」
「ふん!」
「今のもジョルジュ君が一方的に悪いわ。」リーゼさんが腕を組んでジョルジュを冷たい目で見降ろしている。
「ちっ。完全に伸びてやがる。もういっか。実は昨日の夕餉でよう、ジョルジュもゲオルクの加入に賛成してんだわ。ルナ、俺たちで加入手続きをしちまおうぜ。」
「そうね。いっそリーダーもマイクに変更しとこうか?」
「いや、それはいくらなんでもまずいって。それに俺はリーダーって柄じゃねぇしよ。」
「じゃあこの加入申請書にゲオルク君とルナちゃんかマイク君が署名してね。」
こうして俺はゲオルギウスの一員になった。
「じゃぁ早速クエストやりましょ。取り敢えずゲオルクの肩慣らしに簡単な討伐クエストかしらね。ゴブリンあたりでどう?」
「いいんじゃねぇか。こないだ俺たち3人で余裕だっからな。少し簡単目のクエストでゲオルクを実践に慣らそうぜ。
おい、ルナ。ジョルジュを起こせよ。」
ルナがジョルジュに回復魔法のヒールを掛けると、ジョルジュが起きた。
「おう、ジョルジュ、やっと起きたか。ゲオルクの加入手続きは済んだからゴブリン退治に行くぞ。」
「ルナ、てめぇ少しは加減しろって、昨日も言っただろ!」
「ふん!だったら失礼なことを言うな。このバカ兄貴が。」
「なんだと?」
「お前らいい加減にしろって。」マイクが割って入った。
「あの、皆さん、改めてよろしくお願いします。」
「ああ、よろしくな。それともうパーティ仲間だから敬語はやめてくれ。呼び方も互いに敬称略で行こうぜ。」
ジョルジュが殴られた頬をさすりながら言った。
東府は森の中にある都で、東部公爵領の首府だ。東部公爵領は領内を流れる本流と呼ばれる大河によって育まれた豊かな森林に恵まれており、林業や狩猟の他、木工や動物の角などの工芸品で栄えている。
他の地方はと言うと、西部公爵領は一面に草原が広がっていて、開墾して農業や、そのまま草原に放牧しての畜産業で栄えている。
南部公爵領は大きな湾になっており、その先の群島も含めて豊かな海の恵みにより、漁業をメインに、真珠や珊瑚や螺鈿の工芸品で栄えている。
マイクの故郷の北部公爵領は金属や宝石の産地だ。鉱山資源による鍛冶や、産出する宝石の工芸品、火山による温泉で栄えている。
これら4つの公爵領の産出品はすべて、ジョルジュとルナの故郷の中部国王領に運ばれて来るので、中部国王領は商業が盛んだ。
国王様は、流通による経済の活性化が生み出す莫大な富を貯め込んで独り占めにすることなく、特産品を産出する公爵領へ等しく分配しているので、トレホス王国は国全体が非常に豊かである。
この富の分配によって4つの公爵領の産業は活性化し、さらに特産品を生み出している。
さて、俺たちはゴブリン退治のために東府の北の森に入った。ゴブリンの巣はおよその位置しか分かっていないそうだ。
あちこちに小さな精霊がいる。精霊は、大抵は小さな光の珠なのだが、このサイズではまだ話せない。精霊達に思念を送ると友好的な感情が伝わって来るが、そこまでしか分からない。やっとそこそこの大きさの精霊を見付けた。
俺は思念を送ると、やはり友好的な感情が来たので、話し掛けてみた。
「こんにちは。ここは豊かな森だね。」
『うん。』
「ゴブリンはいる?」
『ゴブリン、荒らす。嫌い。』
「それは困るね。」
『うん。』
「おい、ゲオルクいきなりどうした?」ジョルジュが訝し気に聞いて来た。
「嘘?あんた、精霊と話せるの?」ルナは精霊に気付いてるのか?
「ごめん、ちょっと黙ってて。」
「ゴブリンの巣を知ってる?」
『あっち。』方向のイメージが伝わって来た。
「距離はどれくらい?」
『近い。』具体的な距離のイメージが伝わって来た。
「ゴブリンはたくさんいる?」
『10、かな。』
「ありがとね。」
精霊がふわふわ漂っているが、ルナはそれを目で追っている。やはり見えるのだな。
俺は振り返って3人に伝えた。
「この先、300mくらいに巣があって、10体ぐらいいるってさ。」
「「「!」」」
「ゲオルク、あんたも精霊が見えるのね?しかも話せるなんて凄いわ。」ルナに両腕をがっちりと捕まれた。顔が近い。くっつきそうだ。
「ルナも見えるんだね。でも話せないの?」
「私は話せないわ。」残念そうに首を振る。
「おい、本当に見えるのか?」ジョルジュが聞いて来た。
「うん。とにかく精霊が教えてくれた通りに行ってみようよ。そうすれば分かるだろ?」
「そうだな。そこに巣があったら精霊の話は本当ってこった。」マイクが言って、ルナが激しく頷き、ジョルジュが半信半疑で同意した。
確かにゴブリンの巣があった。精霊の情報だと10体だが、巣のまわりには5体しかいない。取り敢えず、俺が弓矢で先制攻撃を仕掛けた。
矢継ぎ早に放ち3体は急所を射抜いて仕留めたが、2体は急所を外したので騒がれた。すると巣から残りの5体も出て来た。精霊の情報通り10体だ。
騒いだ2体は深手だ。ジョルジュとマイクが突進して行き、群れの中へ派手に乱入した。
ジョルジュは突入と同時に1体を一刀両断。返す刀で2体目にも横に薙いで切り伏せたが、3体目に剣で逆襲を受けて浅手を負った。すかさず、ルナがジョルジュにリペアを掛ける。リペアはケガを治す回復魔法だ。
マイクは大盾を構えてまず1体を槍の一突きで串刺し、2体目を盾で押し込むと同時に、ジョルジュに逆襲したゴブリンを後ろから槍で殴り倒した。
転倒したゴブリンにはジョルジュが馬乗りになってトドメを刺し、マイクは盾で押し込んだゴブリンをそのまま圧殺した。
深手のゴブリン2体が逃げようとしたが、1体はルナに撲殺され、もう1体は俺が弓矢で仕留めた。
その後、念のために他のゴブリンからの襲撃を警戒したが、やはり精霊の情報通りで10体だけだったようだ。
ゴブリンは魔物なので心臓近くに魔石がある。それを討伐証明部位として取り出した。
魔物の魔石には魔力が溜まっているので、魔道具の素材としての価値があるが、ゴブリンの魔石は小さく、魔石としての価値はそれほど高くはない。それよりも、討伐証明としての価値の方が大きい。
俺たちは一連の処理を終えて帰路に着いたのだが、このときを待ってましたとばかりにルナから質問が飛んで来た。
「ゲオルクも精霊が見えるのよね?」ルナが改めて念を押して来た。
「うん。ルナも見えるよね。目で追ってたもんな。」
「ほら、兄貴。言った通りでしょう?」
「ああ、そうみたいだな。」
「みたいって何よ。子供の頃から散々言ってるのに信じないでさ。」
「そりゃ見えないものを信じろったってなぁ。ルナがいかれたか、俺を騙してるか、妄想に耽った痛い子か、って思っても仕方ないだろ?」
「なんですって!」
「ルナ、ジョルジュの言う通りだよ。俺も誰にも信じてもらえなかった。俺以外で精霊が見える人に会ったのは、ルナが初めてなんだ。」
「私もよ。ゲオルクが初めて。」
「なぁ、俺はルナが精霊を見られるって話、初めて聞いたぜ。」
「変な子扱いされるから、マイクだけじゃなくて村を出てからは、誰にも言ってないわ。」
「俺は信じたな。実は俺の村にもそう言う人がいるんだよ。精霊婆さんって呼ばれてるんだけどさ、ゲオルクみたいに精霊と話ができてよ、精霊婆さんが精霊から聞いたって情報がまあ大体その通りなんでよ、俺の村では精霊を信じてる奴が断然多いぜ。」
確かにマイクは最初から精霊をあまり疑ってないような口ぶりだった。
「あら、それならマイクには言っとけばよかったわ。でも私は見えるだけよ。話し掛けても返事は来ないわ。その代わり、精霊の感情だけが何となく分かるのよね。」
「俺には精霊は光の珠に見えるけど、ルナはどう?」
「私にも光の珠に見えるわ。」
「俺の村の精霊婆さんもそう言ってたぜ。」
「あとさ、俺は緑色の精霊が多く見えるけど、ルナはどう?」
「東部に来てからはそうね。中部はどの色も同じくらいよ。それから東部では、中部より精霊がずっと多いわ。緑が多い分、精霊が多いのかもしれないわね。」
「なるほどね。緑の精霊は木の精霊だから東部では多いんだよ。
それとさ、小さな光の珠の精霊は話せないよ。感情を伝えて来るだけだな。嬉しいとか、楽しいとか、嫌だとかね。それから俺の思念を送ると反応するよ。」
「感情を伝えて来るのは私にも何となく分かるわ。でも思念を送るってのはピンと来ないわね。」
「大きい光の珠は話ができるよ。と言ってもふた言三言だけどね。幼児と話してる感じかな。」
「私はそれができないのよね。」
「あ、さっきの精霊だ。みんなちょっと待ってて。」
「こんにちは。また会ったね。」
『そうだね。』
「君が嫌いなゴブリンを退治して来たよ。」
『ありがと。ゴブリン、我儘なの。』
「君のお陰だよ。こっちこそありがとね。」
『君、いい人。』
「ゲオルクって言うんだ。」
『ゲオルク、好き。ありがと。』精霊が俺のまわりをくるくる回る。
「俺も君が好きだよ。ありがとね。」
「ねぇ。私も精霊が好きよ。」ルナが割り込んで来た。
『…。』精霊は行ってしまった。
「はぁぁ。やっぱりダメね。」
「あのルナ、言いにくいんだけど、精霊は俺と話してたとこに割り込まれたんで、機嫌を損ねたんだと思う。」
「え?そうなの?」
「うん。もう少し我慢してくれたら、俺がルナを紹介したんだけどな。」
「ごめんなさい。」
「でもさ、精霊が行っちゃったってことは、ルナの言葉を理解したからだね。」
「そうかしら?」しょ気てたルナがパッと明るい笑顔になった。この顔、凄くかわいい。
「ねぇ、ルナ。今の嬉しそうな笑顔、凄くかわいい。」
「え?」真っ赤になるルナ。
「ゲオルク、お前よくそう言う恥ずかしいことを平気で言えるな?」ジョルジュが突っ込んで来た。
「え?どうして恥ずかしいの?思ったことを言っただけなんだどいけなかった?」
「いや、もういい。」ジョルジュは呆れてるっぽい。なんでだ?
「天然か。凄ぇ秘密兵器だな。」マイクまでニヤニヤしている。なんで?
「ゲオルク、他にも精霊のことを教えて。」しばらくして復活したルナが、少しモジモジしながら聞いて来た。
「うん。とても大きい精霊もいるんだよ。俺が会ったことあるのはその子だけだけどね。普通に会話ができるんで俺の友達なんだ。」
「え?精霊の友達?」
「その子はひときわ大きい光の珠だったんだけど、人型にもなれるんだよね。人型になると4~5歳くらいの子供の大きさかな。でも実体化がまだ不十分でね。触れるときと素通りしちゃうときがあるんだ。」
「そんなの見たことないわ。」
「実体化ができたら俺と契約するんだって。」
「契約?精霊と?」
「うん。契約しようって言われた。そしたら一緒に旅もできるからって。」
「契約したらどうなるの?」
「精霊が森を出られるようになるから一緒に旅ができるんだよ。それから俺の魔力を使って俺の代わりに魔法を使ってくれるって。」
「それは失われた古の精霊魔法じゃないのか?」ジョルジュが割り込んで来た。
「兄貴、なにそれ?」
「お前が精霊精霊ってうるさいから俺も精霊のことをいろいろ調べたんだよ。精霊と契約して、精霊に魔法を代行させると、普通の魔術師とは桁違いの魔法を使えるそうだ。でも、その方法はずっと昔に失われてて、今では本当か嘘か分からない、いわゆる伝説の魔法だな。」
「ゲオルク、その精霊は今どうしてる?」マイクが聞いて来た。
「さぁ、森にいると思うよ。」
「逃がすな。すぐに契約しに行け。」
「いや、逃げないよ。それに、まだ向こうに契約する力がないんだよ。あと1~2年掛かるって言ってたな。」
話してるうちに東府に着いた。
なんだかツリと契約すると凄いらしいが、正直眉唾だ。だってツリはまだ魔法を使えないし、完全な実体化もできないからな。俺はそれよりも気心知れたツリと一緒に冒険の旅をするだけでいいんだけどな。
東府ギルドでクエスト完了とゴブリンの魔石の買取による報酬を得て、俺の取り分の大銀貨3枚をもらった。初めて稼いだ金だ。感慨深い。
ジョルジュ達が、俺が加入した歓迎の宴をしてくれると言うので、稼いだらリーゼさんを夕餉に連れて行くと言う約束を、明日に回してもらうようにお願いに行った。
「リーゼさん、ごめんなさい。今夜はゲオルギウスの皆さんが、俺が加入した歓迎の宴をしてくれると言うので、リーゼさんとの約束は明日でもいいですか?」
「ゲオルク君、わざわざ言いに来るなんて律儀ねぇ。それはパーティの繋がりを大事にするのが先よ。私はいつでもいいから、ゲオルギウスの皆さんと楽しんでいらっしゃい。」
「ありがとうございます。」
リーゼのこの気風の良さ、なんかマジで惚れそう。
それから俺たちはゲオルギウスが泊まっている冒険者用の安宿を紹介してもらい、俺もそこでひと部屋取ってゲオルギウスの皆から、呑みに連れてってもらった。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
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