前奏
「次の休み、遊園地に行こうぜ」
その提案に、読んでいた新聞から顔を上げてソイツを見る。緑の瞳が真っ直ぐにこちらを見ていた。
「何で遊園地なんだ」
「お前好きだろ?遊園地」
大きくため息をつけば、不満そうな声が上がる。じろりと睨み付ければ、観念したように口が開かれた。
「…最近、流石に疲れてきてるだろ?だから、ご褒美と楽しみが欲しい」
「はぁ?」
「だから水族館も行こうぜ!」
「……金は全部お前持ちな」
「!おう!!任せろ!」
何が楽しいのかニコニコとするソイツに、ため息をついてからもう一度新聞に目を落とす。
新聞には、■■■■との■■が依然均衡していることと、■■■■■の研究が更に進んだということが大々的に書かれていた。
ちらりとそれを見たソイツが、何かを考えるように俯く。
「…遊園地、行くんだからな」
「あぁ」
「…生きて行くんだからな」
「あぁ」
「………■■は、絶対死ぬなよ」
「あぁ…お前もな」
「…おう」
それは、約束とも誓いとも呼べない程のやり取りではあったが。
「………死ぬなって、お前が言ったんだろ」
硝煙と血の臭いが混ざった戦場で。敵国の兵士が振り下ろした剣により、ソイツの腹から止めどなく血が流れる。
刺された胸から、その生温い赤が
「……止まれよ」
止まることなく
「…っ、止まれって」
流れて
「なぁ…!死ぬなって!!」
その体から、体温が、徐々に、けれど確実に冷たくなっていくのを
「な、ぁ…頼む、から……」
オレはただ、見ていることしか出来なかった。
「死ぬんじゃねぇよ…■■……」
その名前すら、今は思い出せない。ただ唯一覚えていたのは、約束をしたという事実と、
「■■■■■■■■■■■」
──パァン
一発の銃声だけだった。
失敗作へと送るレクイエム、第一章─アンデッド製造所編─これより開演。