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9 断った提案再び


「そうだ、シューリ様。

 なにか用があったのでは?」


「ああ、そうだった。

 つい忘れるところだったよ」


 本題……。なにか用があってきたのか。とはいえ私には関係のない話だろう、そう思って入れてもらった紅茶を口にした。あ


「ベリア嬢、我が家の養子になる気はないか?」


 ……、は!?


「シューリ様!?

 何をおっしゃっているのですか!?」


 ああ、よかった。ここに仲間はいたようで、私が何かを言う前に間に入ってくれた。


「他の家に妙な横やりを入れられる前にと思ってな。

 支援という形にしようかと思っていたが、今日見て気持ちが変わった」


 変わらないでくださいよ……。魔法学園には入りたい。だから支援していただけるのはありがたい。けど、けど! 


「無茶言わないでくださいよ……。

 それに父から聞いた話ですが、彼女はミツサール卿のその申し出も断りました」


「ふむ、もしかして貴族の子は嫌なのか?」


「い、いやです。

 私は平民として、目立たないように暮らしたいので!」


 い、言ってしまった。かなり失礼なことをした気がする。でも、強引なのがいけないと思うの、うん。


「平民として目立たなく?

 はははは、君にそれは無理だろう」

 

 なっ‼ 人の願いをそんな爆笑するなんて失礼じゃない。でも、これは譲れない。もうイオおじさんの申し出を断った時点で私の気持ちは固まっているのだ。


「ドルグ家の名を与えられるなど、普通なら一も二もなく飛びつく話なのだがな。

 やっぱりベリア嬢は変わっている。

 ……なら、当初の予定通り我が公爵家が君を支援することにしよう。

 それくらいならばいいだろう?」


「支援は、ありがたいです」


 うん、それは間違えない。小さくなってしまった声でそう返事をすると、シュトバリィーン様は満足げにうなずく。なんだろう、なぜだろう。なんだか負けた気がして悔しい。でも何も言い返せないでいると、これをとペンダントを渡された。


「これは?」


「我が家の家紋が入ったものだ。

 なにか困ったときにこれを見せれば大抵のことは解決するだろう」


 ひっ、なにこれなんかすごいものでは? というか大抵のことは解決するって、公爵家の権力にさすがとしかいいようがない。でも私がこれを持っていたらその時点で目立つのでは……?


「あの、いりません」


 断った瞬間にシュトバリィーン様、そしてメルディケ様が驚いたように軽く目を見張った。すみません。でも、もらいたくない……。


「どうしてだ?」


「だ、だって……」


 どう言い訳をしたらいいのだろう、うっと言葉に詰まっているとシュトバリィーン様が軽くため息をつくのが聞こえた。


「明確な理由がないならばもらっておけ。

 それで威張っていいと言っているのではない、何か困ったときのために持っておけと言っているんだ。

 自分の身を守ることができる手段はひとつでも多い方がいい」


 シュトバリィーン様の言葉に、いや視線にびくりとなる。その時ふいに思いだした。この人は貴族、そのなかでも王族に次ぐ権力を持つ人なのだ。平民である私のことなど、どうとでもできる、貴族。


「そんな怯えた顔をしないでくれ。

 俺は自分のもつ権力を理解しているつもりだ」


 どうしよう……。でも、この人が言っていることも正しい。学園内での問題ならば、きっとこの方がくれる公爵家の支援は解決できるだろう。まあ、基本的にはそんなことをする予定はないけれど。


「……わかりました。

 ありがたく頂戴します」


 いまだに差し出されているペンダントを受け取ると、シュトバリィーン様は満足げにうなずいた。うう、本当にこれでよかったのかな。いまだに迷いはあるけれど、まずいと思ったら使わなければいいんだよね、うん。


「学園内で困ったことがあったら頼ってくれ、と言いたいところだが俺は今年から上級に移る。

 少し会いにくくなるか。

 ……、そうだな急ぎの用だったら弟を介して連絡をしてくれ」


「お、弟様ですか?」


「ああ。

 弟はリィベルティと言う。

 下級2年になるな」


 うん、ひとまずうなずいておこう。また出てきた新しい名に困惑していることは顔には出さない。でも、変に絡まれたらどうしよう。そんな考えが見透かされたのか、大丈夫だ、と言われた。


「過剰に干渉しないように伝えておく。

 君の考えていることは何となくわかるようになってきた」


 ふっと微笑むシュトバリィーン様。あああ……、なるほど。きっと世の中の人はこの笑顔にやられるんだ。そんなことを考えていると、ようやく話が終ったのかイオおじさんが迎えに来てくれた。……あれ、なんだか知らない人が増えている。


「あの……」

 

 そちらの方は? と聞こうとしてハタと気が付いた。待って、今ここでいる可能性のある人なんて一人しかいない。今日ここについた後に来たのはシュトバリィーン様だけ。その方は公子だと言っていた。つまり、この人は。


「君が噂のベリア嬢だね。

 私はノルトネーディア・ドルグ。

 グミディード王国第4騎士団の団長であり、公爵でもある」


「お、お会いできて光栄です」


 やっぱり! 少しだけ聞くのではなかったと後悔するも遅い。ここはおとなしく挨拶しておくべきだろう。そう思い、ひとまず頭を下げる。あれ、今日何度も頭を下げている気がする……。気にしては負けだよね。


「君には期待しているよ」


 期待、そんな言葉をかけられたのは初めてだ。なんだかそわそわする気持ちになってくる。そのとき、シュトバリィーン様がジト目でこちらを見ていることに気が付いた。


「あの、何か?」


「いや、俺の時とは反応が違いすぎないか?」


「そ、そんなことなですよ」


 うん、マカロンに夢中になっていた気がするのは気のせい、気のせい。ごまかすようににこりと微笑むと一瞬固まった後に顔を背けられてしまった。


 そのあとは公爵様がまず見るからに豪華な馬車に乗っていった。そのあとにようやく乗ってきた馬車が玄関の前までやってくる。その馬車に乗ると途端に眠気に襲われる。すぐにそれに気が付いたイオおじさんに眠っていいよ、と優しい声で話かけられたらもう限界。すぐに瞼を閉じて寝てしまった。そうして妙に長かった子爵家の訪問はようやく幕を閉じることとなったのだ。


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