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8 新しい訪問者


「それにしても、君は魔の森で保護されたのだったか?」


「え、ええ」


 先ほどまでの空気を切り替えるように、座りなおしてからメルディケ様そう切り出した。魔の森。あそこがそう呼ばれていることは知っているけれど、どうしてそう呼ばれているんだっけ……?


 また何かを言おうとメルディケ様が口を開いたとき、急に部屋の扉がノックされた。


「失礼いたします、メルディケ様」


「どうした?」


「その、シュトバリィーン公子がいらっしゃいました」


「シューリ様が?」


 えっと、まって。また新しい人が出てきた? さすがにそろそろ名前がわからなくなりそう。シュトバリィーン公子っていったい誰?


「いかがいたしましょうか?」


「いかがって……、ひとまず僕が行くよ。 

 すまない、ベリア嬢。

 お菓子でも食べて待っていてくれ」


 そういうとメルディケ様は行ってしまう。さすがに止めることもできなくて、そのまま見送ることに。お菓子……、食べていいと言っていたよね? 正直ずっと気になっていたのよ。


「ベリア嬢、どうぞ、紅茶をお入れします」

 

 食べたい、けど本当に食べていいのかな。そう戸惑っていると女性が一人出てきて、そう言ってくれる。カップに紅茶を注いだ後、何かお取りしましょうか? と言ってくれた。ずっと気になっていたものがあって、せっかくなのでそれを取ってもらうことにした。


 ……かわいい。これは何だろう。ウサギとかネコとか、動物のイラストの形を模したそれは見た目だけでも楽しめる。食べるのはもったいない気がするけれど……、えい。

 一口口にすると、外側はさくりと軽やかな食感。だけど弾力もあって、それに中の固めのクリームもおいしい。


「く、くくく」


 !? 誰!? 振り返るとそこにはメルディケ様、それと先ほどまではいなかった男の子が。その人がくっくと笑っている。失礼では?


「ごめんごめん。

 一人でお菓子相手に百面相しているから」


 い、一体いつから見ていたの!? ……よし、もう気にしない。うん、お菓子美味しい。


「それが気に入った?

 マカロン、と言うお菓子なんだ。

 よければ包んでお土産に持って帰って」


「いいのですか?」


 メルディケ様優しい。これをあとでゆっくり味わえるのは嬉しい。もぐもぐと食べ始めた一つをゆっくりと口にする。かわいいしおいしいなんて……。二人はそんな私に何かをいうこともなく、席に座った。


「あの、それでその方は……?」


 いつか紹介してくれるだろう、そう思っていたのに特に何もない。さすがにこのまま無視していることもできなくて私はようやく切り出すことにした。


「ようやく気になったのか。

 僕はシュトバリィーン・ドルグ。

 ドルグ公爵家の嫡男だ」


 公爵……つまり貴族。えっと、爵位ってたしか……。今公爵って言った?


「公爵様!?」


「なんだ、爵位は知っているのだな」


 もう一度、ついまじまじと目の前の男の子を見てしまう。肩辺りで切りそろえた銀の髪はサラサラで、顔立ちも女顔。瞳の色も水色だから冷たい印象を抱きやすそう。ってそうじゃなくて。


「も、申し訳ございません」


 とりあえず謝ろう! この方がのぞきみて笑うということをしていたのは許せないけれど、なんだかまずい気がする。ばっと立ち上がってひとまず頭を下げる。いつまでたっても何も言ってもらえず、これはもしかして許せないほど怒らせた……?


「ベリア嬢、顔をあげていいよ」


「……君は本当に平民なんだな」


 メルディケ様の許可をもらって顔を上げると、そうそうにそんなことを言うシュトバリィーン様。あまり意味はわからないけれどなんだかいい気分ではない。でもおとなしくしています、はい。


「そういえば、魔の森のほうで保護されたのだったか」


 魔の森。そうそう、そういえばメルディケ様ともその話をしていたのだった。


「はい、そうです」


「ふーん。

 それなら、ハンブリグサ帝国ではなくこちらで保護されてよかったな」


「……なぜですか?」


「あそこは今、贄姫が奪われたといって騒がしいからな。

 落ち着かないだろう」


「贄姫……、ですか?」


「ああ。

 魔王にさらわれただなんだ騒いでいるな。

 もともとあそこは魔王の恩恵によって地位を築いてき、勝手をしてきた国。

 それでここにきて姫を攫われただなんだ……」


 はあ、とため息をつくシュトバリィーン様。メルディケ様も何とも言えない顔をしている。これに関してはかなり思うところがあるらしく、シュトバリィーン様の口は止まらない。


「それにそんな姫が本当にいるのかも怪しい。

 姿画はおろか、容姿の特徴、それに名も言えないなどどうなっている!?」


「名を言えない、ですか?」


 今までただシュトバリィーン様の話を聞いていてたメルディケ様はここで初めて口を出した。自国の姫であるはずの名を言えないなんて、おかしいどころの話ではない。シュトバリィーン様は怒りを抑えるようにぐっと手を握りしめた。


「実在していない、ならいいのだがな」


「ああ、それで贄姫と言われているのですね」


 そこで二人は黙り込んでしまい、しんと重い空気になってしまった。でも何をどういったらいいのかもわからなくて、私も何も言えなかった。


「まあ、とにかく!

 そんなふうに騒がしい帝国ではなくこちらに来て正解だったよ」


「あ、ありがとうございます」


 どう返せばいいのかわからないけれど、ひとまずそう返しておいた。それにしてもこの人はどうしてここに来たのだろう? メルディケ様が驚いた様子を見ても、予定になかったことはわかる。聞いていいのかわからず戸惑っているとその思いが通じたのかどうか、メルディケ様が口を開いてくれた。


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