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4 歓迎


「隊長、奥様がお見えになりました」


報告に来たのは見覚えのある隊員さん。隊長、つまりミツサールさんの奥様? どうしてここに?


ミツサールさんにここに案内しろ、ということばに隊員さんは直ぐに女性を連れてきた。きっちりと結われた髪、服は動きやすそうなドレス。女性というと思い浮かべられるのは華奢で儚げなお母様だけ。お母様は髪はおろしている事が多かったし、服装ももう少しふわりとしたドレス。髪色も目の色も母とは全く違う女性。


「まあ、その子が保護したという子ですか?

ふふっ、とても可愛らしい」


でも、私を見つめるその瞳だけは一緒だと、そう思った。


「ああ、ベリアだ」


「よろしくね、ベリア。

私はイオズナ・ミツサールの妻、サラーナと言います」


「サラーナ、さん」


「さん、だなんて。

おばさまって呼んでくれればいいのよ」


私の言葉にふふふっと微笑むサラーナさん。って、いやいや!微笑みに目を奪われていたけど、それってかなり失礼なことなのよね……?


「そうだな、俺の事をおじさまでいいぞ。

イオおじさまとでも呼んでくれ」


そんな、ミツサールさんものってこないでよ……。止めて欲しかったのに。どうしよう、と最後の頼みであるルルスラさんの方を見る。ルルスラさんはしっかり私の意志を受け取ってくれたみたいで、ため息をついた。


「お二人共、ベリアを困らせないでください。

でも……、お二人が良ければそう呼ぶのもいいのではないですか?」


……! 味方だと思ったのに、まさかルルスラさんも私を裏切るなんて!ううっ、そんな期待にみちた目でこっちを見ないで……。おじさまとかおばさまとか、言われると嫌なものでは無いの? 本での知識だけれど。


「さ、サラーナおばさま、イオおじさま……?」


「可愛い、最高です」


 わっ、急に抱きしめられた! 二人もなんだかうつむいてしまっているし。一体どういう状況……!?


 少しそのままでいるとやっと三人が動き出してくれた。よかった、私このままだとどうしたらいいかわからなかったもの。


「ひとまず我が家に行こうか。

 子供たちに会わせよう」


「ええ。

 今ならイミルも帰ってきているしちょうどよかったわ」


「早く家に帰ってゆっくり休もう」


 そういうと行こうか、と手を差し伸べてくれる。その手を思わず取るとい、イオおじさま、は嬉しそうに笑った。


「さあ、いらっしゃい。

 あなたを歓迎するわ、ベリア」


 歓迎。また言ってくれた。もう私の居場所はないんだと思っていた。でも、こうして無条件に受け入れてもらえるとなんだかまた居場所を得られる気がしてしまう。自分のこと、何も話していないのに。思わず触れた指輪がわずかに暖かくなった気がした。


 玄関に入るとすぐに使用人と思われる人達が出迎えてくれた。その中に二人、私と同じくらいの女の子と、そして年上の男の子がいる。この人たちがお二人の子供?


「紹介するわね。

 長男のイミル、こちらは長女のクーリナよ」


「お二人によく似ていますね……」


 姿かたちはもちろん、なんというか見ている人に安心感を与えるような空気感がよく似ている。思わずほっとしていると、にクーリナと呼ばれた少女が一歩前に出た。にこりと笑って口を開くとその子の印象がくるりと変わる。


「初めまして!

 私はクーリナ・ミツサールよ。

 クーリナって呼んでね。

 あなたのお名前は?」


「あ、えっと、ベリアです……」


「クーリナ。

 彼女はあなたと同い年なのよ」


 同い年、その言葉を聞くと途端に少女、クーリナの目が輝いた。でもすぐにその瞳が曇る。えっと、この一瞬で一体何が?


「せっかく同い年なのに、もうすぐ別れないといけないの?

 ……そうよ、ベリアも一緒に来たらいいのよ、魔法学園に!

 ベリアは魔力を持っている?」


 ……魔法学園? どうしよう、唐突な話についていけない。誰か説明をしてもらいたい、そう思って視線を泳がせると彼女の横に立っている男の子、イミルと呼ばれていた人と目が合った。あ、苦笑している。


「クーリナはその話を急に進めるところを直さないとな。

 ベリアが困っているよ」


「あ、ごめんなさい、お兄様。

 ベリアもごめんなさい」


「あ、いいえ」


「改めて、よろしくね、ベリア。

 僕のことはイミルと呼んでくれ」


「クーリナさんとイミルさん……」


「あら、私のことは呼び捨てでいいわよ」


 え、こんなに立派な家に住んでいる人を呼び捨て? さすがにそれは気まずい、そう思って周りに助けを求めたのに皆助けるどころか優しい目でこちらを見ている。あの、このご家庭の方はなかなか強引な方なのね……?


「ひとまず部屋に案内しよう。

 話はそれからゆっくりすればいい」


 俺も休みたいしな、と付け加えるイオお、おじさま。そうだよね。やっと家に帰ってこられたんだもの、休みたいに決まっているよね。そこから見守ってくれていた使用人の方がすぐに動き出してくれた。


「こちらがベリア様にお使いいただく部屋でございます。 

 どうぞご自由にお使いください」


「えっ!?

 こんなに立派な部屋を使っていいのですか……?」


「ええ、旦那様がお嬢様のためにご用意させたお部屋ですから」


 私のために……。今日街に帰ってきて、それでもう準備ができている? あまりにも早い。


「ふ、ふふふ」

 

 どうしてかはわからない。でもミルサール家の方々が私を歓迎してくれていることはとても伝わってくる。それがなんだかおかしくて。あの家を出たときは、孤独になることを覚悟していた。でも、すぐにこんなにも暖かい人たちに会えるなんて。それは、まるで両親が導いてくれたみたいで。


「べ、ベリア様?」


「あ、ごめんなさい。

 なんでもないんです」


 自然に涙がこぼれてしまった。大丈夫、これは悲しい涙じゃないよ。だから安心して、お父様、お母様。初めての世界。二人の想いに答えるためにも、ちゃんと向き合ってみせるから。いつか、あの人に堂々と会いに行くために……。



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