♪すてきなボンボニエールおばさんの贈り物♪
♪すてきなボンボニエールおばさんの贈り物♪
作: 大丈生夫 (ダイジョウイクオ)
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Scene.01 飴ちゃん
シルヴィーは教会からの帰り道、秋も深まる村の小道を歩いている。
北風に飛ばされた落ち葉がかさかさかき回されている。
いつもの小道は絨毯のように落ち葉に埋もれている。
さくさくと踏みしめる音が好き。
白樺の小道を抜けるとそこにボンボニエールおばさんの喫茶店はある。
いつものように近づく―――あ、おばちゃん。
おばさんはデッキの枯葉をほうきで集めている手を止めるとシルヴィーに手招きする。
「あら、シルヴィー、お帰り。今日は早かったのね。」
「ええ、おばちゃん。こんにちは。」
そう言うと、何やらカバンから取り出す。
それはシルヴィーが学校でかいた一枚の絵だった。
「これね、私が描いたの。それで皆んながステキねって言ってくれたの。」
「どれどれ見せて。まぁ、これは遊園地ね。真ん中に白馬のメリゴ-ラウンド。」
「そうよ。今一番行きたいところを想像して描いたの。」
「あら、ほんとう。ステキね!」
「気に入ってくれた?良かったらこれあげる。」
「そんな、折角描いたのに悪いわ。」
ボンボニエールおばさんがシルヴィーの様子を伺う。
少し寂しげにも見える。
「いいの。又何時でも描けるから。」
シルヴィーがモジモジしている。
「そう・・・じゃ折角だからお店に飾らせてもらうわね!いつでも観れるように。」
「うれしいっ!おばさんアリガトウ!」
シルヴィーがにっこり微笑む。
少し思案したようなボンボニエールおばさんはエプロンのポケットからこそこそと取り出す。
「じゃ、今日の飴ちゃんはこれね!」
「おばちゃん、アリガトウ。」
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Scene.02 ス・テ・キ
シルヴィーはボンボニエールおばさんに挨拶すると家路に着く。
夕方になり宿題を済ませると窓辺はすっかり暗くなっていた。
夕飯を済ませ、少し寒い外の空気を吸いに出る。
庭から見上げると、三日月がお空につるりときらめく。
そんな秋の夜更け。
「そうだ、飴ちゃん。」
シルヴィーはポケットに大事に忍び込ませていた飴ちゃんを取り出す。
そして月と星のお空を見上げると頬張る。
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と、どうしたことでしょう、シルヴィーの身体がまるで宙を浮くと、勢い良く枯葉を携えた大風が突然吹き出す。
そしてそのままシルヴィーを連れ去るように運んでいってしまった・・・・
「あれ、ここは何処?」
何時の間に気を失っていたのか、シルヴィーはソファーに寝そべっている。
部屋の天井にはランプが仄かに燈っている。
壁際には暖炉が揺らめいて部屋を暖めている。
シルヴィーは静かに身を起こす。
と、部屋の木戸が開くと、年の頃シルヴィーと同じ5歳くらいの男の子が現れた。
「ああ、よかった。庭で倒れてたから心配した。」
シルヴィーはこの子の家の庭で倒れていたのか・・一体何故?
「ここは何処なの?」
「僕の家。一人暮らしなんだ。」
「え、そんなにチッチャいのに。」
「君だって小さいじゃないか。君は?」
「親と同居よ。悪い?」
「悪くなんか無いさ、うらやましい。」
と少年は言うとうつむいた様子で暖炉の薪をくべる。
薪の炎がメラメラと赤さを増す。
「僕、孤児なんだ。」
シルヴィーはハッとしたように眼を伏せる。
悪いこと言っちゃったなぁ。
「いいよ、気にすんなって。でも此処へ何しに来たの?」
「それがね、私にも解らないのよ。」
「そうか、不思議なこともあるもんだな。まぁいい、今日はもう遅いから泊まっていくがいい。」
そしてシルヴィーに手を差し出す。
「僕の名はフロリアン、ヨロシク。」
二人は握手をする。
そう告げるやフロリアンは何か照れくさそうに部屋の外に出て行ってしまった。
シルヴィーはことの事情を把握できないまま、揺らめく炎を見つめている。
こんなことになるなんて。
夕食を持参してフロリアンが戻ってくる。
窓の外は真っ暗だ。
「これ、僕の手料理。食べな。」
「ええ、いただきます。」
パンプキンスープが身体を温める。
アツアツに煮えたポトフがやわらかくて美味しい。
「美味しい~ホントウにフロリアンが作ったの?」
「ああ、ボンボニエールおばさんに教わったんだ。」
「あれ、おばちゃん知ってるの?」
「ああ、教会に行く途中でいつも飴ちゃん貰ってる。」
「あら、私もよ。でも、あなたに会ったの初めてね。何処の学校?」
「え、行ってない。」
「何で?」
「働いているから。」
そうか、身寄りが居ないから独りで生活しているのね。
シルヴィーののどが詰まり、咳き込む。
「おや、大丈夫?」
「ええ、コホン。」
「こんなに寒い夜に外で倒れていたから風邪を引いたのかもしれないな。今日は早いとこお休み。」
「うん、ありがとう。」
フロリアンの優しさに落ち着きを取り戻すシルヴィー。
夜も更けてゆく頃ベットに入る。
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Scene.03 ブルースカイ
シルヴィーが眼を覚ますとカーテンから木漏れ日が燦々と差し込んでいた。
寝室を出ると昨日のリビングへと向かう。
既に朝食は用意されていた。
傍らに何やら書置きがある。
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シルヴィー、おはよう。
僕は仕事に行ってくる。
家の前の道を行くと教会がある。
お昼は教会で一緒に食べよう。
フロリアンより
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テーブルの上のフレンチトーストを切り分ける。
そしてオレンジジュースと一緒に流し込む。
もう9:00頃かしら。
日曜日なのに仕事なんて大変ね。
シルヴィーはお腹が膨れたので散歩に出かけることにした。
外は清清しく秋晴れが続いている。
空気はまだ肌寒い。
良く寝たせいで足取りも軽い。
教会のある方向へと歩き出す。
間もなくボンボニエールおばさんの喫茶店が見えてくる。
「あら、これって・・・」
シルヴィーは咄嗟に何かに気付かされる。
そういえば、フロリアンの家って?
喫茶店までの道のりがまるでそっくり。
あの家の場所は私の家の・・・
でも私の家より古くって小さいし。
じゃ、私のお家はどこへ?
シルヴィーは気が遠くなるのを憶える。
ふらつく足取りでやっとのことで喫茶店にたどり着く。
「いらっしゃい。あら何処の子かしら?まぁここに座って。」
その女性に促されて席に着く。
そこに私の知っているいつものボンボニエールおばさんは居ない。
「あのう、ボンボニエールさんは?」
「え、私がそうよ。しかしどこかで会ったかしら?あなたは?」
可笑しなことを言う若いその女性が問いかける。
「わたし、シルヴィー。ジョセフ小学校一年生。」
「あら、そう。知らないわねぇ、その学校何処かしら?」
「教会の向こう。林を抜けたところ。」
「あら、そんなものないけどねぇ・・・不思議ね。」
「じゃ、そこに何があるの?」
「ええ、遊園地よ。」
「遊園地?」
「そうよ、真ん中に白馬のメリゴ-ラウンドのある。」
え、それって・・・もしかして私の描いた絵の世界?
シルヴィーは白昼夢の中に居るように虚ろな目になる。
「あら、この子熱でもあるのかしら?どれどれ・・・大丈夫ね。」
尚も虚ろなままのシルヴィー。
心配したいつもと違う若いボンボニエールお姉さん。
入れたてのロイヤルミルクティーを差し出す。
お砂糖タップリで甘い。
「はい、これ飲んで暖まって。」
席の向かいに心配そうに腰を下ろすと頬杖をついて覗き込む。
眼の色はスカイブルーでおばさんそっくり・・・これって?
シルヴィーは飲み終わるとお礼を言ってお辞儀する。
また教会へと続く小道の枯葉を踏みしめて行く。昨日と同じ道のように。
やがて「コルシカ大聖堂」に到着する。
ここコルシカ島で一番大きい礼拝堂が鎮座する。
中へ入ると今日もミサが執り行われている。
静かに席に着くとパイプオルガンが響き始める。
神父がお祈りの言葉を話し始める。
やがて厳かな時間が過ぎると、訪れた人々は庭の芝生の上に設営されたオープンキッチンへとなだれ込む。そう、ビュッフェの支度は既に整っていた。
そこへ時間を見据えたようにフロリアンが到着する。
「やぁ、シルヴィー。夕べは良く眠れた?」
「うん、お陰でね。」
「じゃ、ランチにしようか。」
「そうね。」
二人はビュッフェに並ぶと皿に次々と料理をよそっていく。
バケットも抱えてテーブルに着席する。
「ああ、もう腹ペコだよ!」
待ち構えたようなフロリアンが食べ始める。
「今日はご主人に言って午後は休みにしてもらったんだ。」
「そう、もしかして私のため?」
「っていうか、友達が出来たってご主人が行ったらこれくれた。」
「なぁに、これ?」
シルヴィーはチケットを受け取るとそこに描かれている絵に驚く。
それは、まさにシルヴィーの描いたそれであった。
こんなことってあるの?こんな不思議なことって・・・
「これは遊園地のチケット。メリゴ-ラウンド乗り放題だって!」
嬉しそうにモグモグしながら笑みを浮かべるフロリアン。
ああ、この絵にあるステキな世界がここにあるなんて・・・。
「ああ、もうダメ、満腹だ!」
「私もおなか一杯。」
「じゃ、早速行こうか、遊園地。」
「ええ、行きましょう。」
フロリアンはシルヴィーの手をギュッと握る。
シルヴィーの頬がポッと赤らむ。
教会を出る人込みに紛れて林を抜けていく。
その先に巨大なアーチと観覧車が見えてくる。遊園地だ。
本当にシルヴィーが夢に見た世界がそこに存在していたのだった。
「はいよ、行ってらっしゃい。」
口髭の受け付けのおじいさんがチケットを切る。
「さぁ、行こうか。」
尚もシルヴィーを引っ張る胸躍るフロリアン。
浮き足立つように引っ張られていく。
そして白馬のメリゴーラウンドがゆっくりと回転している。
早速白馬に跨るフロリアン。まるで王子のように背筋を伸ばす。
シルヴィーも跨る。
静かに上下しながら回転してゆくステキな世界。
「私、ここに来たかったのよ・・ずっと。」
「え、何か言った?」
「うん、いいの。」
「楽しいかい?」
「うん、とっても。」
「よかったぁ。」
「うん、良かった~」
二人は夢のような時を過ごす。
どれ位の時間が経ったであろうか秋の夕暮れはあっという間に訪れる。
「さぁ、帰ろうか。」
「そうね。今日はアリガトウ。」
「いえいえ、こちらこそ。お姫様!」
フロリアンはそう告げるとシルヴィーに腕組みする。
そして仔馬のようにスキップを始める。
シルヴィーもそれに合わせる。
やがてボンボニエールさんの喫茶店が見えてくる。
秋の天気は変わりやすく小雨が振り出していた。
窓際で外を気にするボンボニエールさんが二人に気付くと出てくる。
「さあさ、お入り。丁度良かった。」
彼女は二人を招き入れると席に座らせる。
そして奥から二人のために作っておいたものはテーブルに置いた。
「ハイッ、出来立てのマカロンよ、さぁお上がり!」
二人はかわいらしいマカロンを頬張る。
「それでフロリアン、例のもの出来てる?」
「ええ、もう完成していますよ。」
「例のものって?」
何の話かわからず聞き入るシルヴィ。
「あのね、明日「自動車競走大会」があるのよ。それでね、私も出場するの。」
「え、それってレース?」
「そうよ。こう見えても私上手なのよ、運転が。それでね、フロリアンの勤め先の工場にメンテナンスに私の車を入れてあるの。」
尚もモグモグしながらフロリアンが口走る。
「すげぇんだぜ、この人の腕前。それでね、この人うちの工場のオーナーである若社長のことが好きなんだぜっ、ね!」
それを遮るようにボンボニエール。
「あら、やだ。そんなこと言っちゃダメよ、んもう!」
「ほうら、照れちゃって!」
3人はにこやかに笑う。
「それにしても酷い雨になってきたわねぇ。そうだ、今日は二人ともウチに泊まっていきなさいよ。ね。」
お言葉に甘えて二人は泊まる事にした。
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Scene.04 スカーフ靡かせて
翌日は夕べの雨がウソのように晴れ渡っている。
3人は朝食をそそくさと済ませるとフロリアンの工場へと向かう。
そう、ボンボニエールさんの車を取りに行くために・・・
朝日が紅葉したイチョウの木々を照り輝かせている。
今日はレースに丁度良い日和だ。
やがてフロリアンの通う工場が見える。
既にボンボニエールさんの車はガレージの表に出されてあった。
真っ赤なボディーのプジョーのカブリオーレに、例の若社長がワックスがけしている。
「あ、おはよう。さ、もう仕上がっていますよ!」
若社長はボンボニエールさんに軽くウインクする。
と、彼女は頬を赤らめ下を向く。
「やれやれ、朝からこれだから、もう!」
フロリアンが二人をからかう。
赤いカブリオーレは軽いクランキングで一発始動。
そしてボンボニエール姉さんはシートに滑り込み、傍らのグローブとゴーグルを装着する。
革のキャップを被ると一人の女性レーサーの風貌となっていった。
スラリとした背高の若社長とフロリアンが見守る中、シルヴィーを載せると颯爽としたハンドルさばきで工場を後にする。
カブリオーレは枯葉を巻き上げながら「自動車競走大会」へと突っ走る。
やがて会場に到着した。
会場には既にたくさんの人だかり。
出場者の車列に続いて行く。
コルシカ島きっての年に一度の一大イベントの始まりだ。
ボンボニエール姉さんはシルヴィーにも皮手とキャップ、ゴーグルを手配し、そしてレースは始まった。
団子状態で連なる車たち。
海へと続くワインディングロードーを豪快に土煙を上げてゆく。
シルヴィーの隣には真剣な面持ちの姉さんが右へ左へとハンドルを切っている。
カブリオーレに吹き込む風が彼女の真っ白なスカーフをたなびかせる。
かっこいいわよ、お姉さん!
そして丘を越えると視界がパッ開け、広い水面が輝きを放つ。
「あっ、海!」
「そうね、海よ!」
二人は潮風の中へと凄いスピードで突進して行く。
辺りの車が後ろへと消え去って行く・・・
「シルヴィー、グローブボックスに飴ちゃんがあるから、お上がり!」
「うん、アリガトウ。お姉さん。このご恩、一生忘れない・・・」
飴ちゃんを頬張るシルヴィー。
「何よ、大げさね。さぁカーブよ。踏ん張って!」
ボンボニエール姉さんが急ハンドルでカーブに差し掛かる。
鮮やかな手さばきでカウンターを当てながらドリフト状態で駆け抜ける。
お見事!
「じゃ、元気でね、シルヴィー!」
ボンボニエール姉さんは何故かそう言うや、急に目の前に広がる海の水面から閃光が二人を輝かせる。
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いつのまにか眼を瞑ってしまったシルヴィー。
閃光は次の瞬間、カーテンから差し込む陽の光となって差し込んでいる。
「シルヴィー、早く起きなさい。」
と、お母さんが呼んでいる。
咄嗟に飛び起きる。あら、ボンボニエール姉さんは?
そっかぁ、夢見てたのね。
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今日は日曜日。
さっきまでの感覚だけが残っている。
本当に夢だったの?
気にかかるシルヴィーが向かったのは喫茶店。
そう、おばさんの居る。
そして辿りつく。
いつもと変わらぬ風景。
けれど夢?の中の喫茶店より大分古ぼけていることに今更気付く。
「ああ、良く来たね、昨日はアリガト!」
昨日と何も変わらぬ様子のボンボニエールおばさん。
カウンターの壁には額に入ったシルヴィーの遊園地の絵が飾られている。
そしてその横には写真も掛かっている。
良く観るとそれは・・・
そのセピアの写真の人物は・・・なんと若社長とフロリアン!
それにしてもどうして今まで気付かなかったのか・・・
なんと戸棚の上にはうっすらとほこりの被ったゴーグルとキャップ・・・
これは・・・・
ボンボニエールおばちゃんは出来たてのマカロンをテーブルに。
そう、あの時と同じように。
と、喫茶店の扉が開く。スラリとした背高の老紳士が現れる。
何処と無く見覚えのある面影が。
「おはようございます。ボンボニエール!」
「あら、これはこれは。それでどう?」
「はい、至って快調ですよ。あの頃のように!」
「そう、良かった。」
そう言うとボンボニエールおばちゃんと老紳士は外へと出て行く。
シルヴィーは気になって窓際へと向かう。そして・・・
喫茶店の前には、先ほどまで競争していた、あの真っ赤なカブリオーレが輝いていた。
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~ Fin ~☆~☆~☆~☆~☆~☆~




