48.目指せ、生産職。かーらーのー……⑧
「カ、アアアアアアアアアアアア……!」
ジュージューと肉が焼けるような音がして、周囲のスケルトンが一斉に浄化される。
吸血鬼でさえもあっさりと倒してしまった聖水の威力は絶大である。雑魚キャラのスケルトンなど物の数ではなかった。
「デイリークエストを真面目にやっておいてよかった!」
俺はクエストの報酬である聖水を振りまきながら走り、女剣士さんの横に並んだ。
「すごい……高位の浄化アイテムを持っているなんて、君はひょっとして神殿の大司祭なのかい!?」
「そんなんじゃあないよ! それよりも、早くあのでっかいのをやっつけよう!」
「う、うん、そうなのだが……アレは再生能力も強くて光の魔法じゃなければ倒せないんだ……」
「光属性の魔法は使えないけど、これだったらやれるだろ!」
俺は最後の1本である聖水を取り出して、巨大骸骨の頭部めがけて投擲した。
アンデットに絶大効力がある聖水が入ったビンは、狙い通りに巨大骸骨の頭蓋骨へと向かって行く。
しかし――
「ガアアアアアアアアアアアアッ!」
「っ……!」
巨大骸骨が大きく口を開いて雄叫びを上げる。巨大なアギトから放たれた怒声は空気を震わして、衝撃波となって襲ってくる。
聖水のビンが吹き飛ばされて地面に落ちる。俺と女剣士さんは身体を低くして、必死に衝撃波から身を守る。
「ぐわっ……しまった!」
「ビンが……」
聖水のビンは地面に落ちて割れていた。最後の聖水が無駄になってしまったようである。
「これは……不味いかもな」
この場から生きて帰れるかどうか。その質問に対する答えは『イエス』である。
すでにダンジョン探索の残り時間は2分もないし、帰還ボタンを押せばいつでも帰ることができる。この場所から脱出することは簡単なことだ。
しかし、逃げられるのは俺一人であり、女剣士さんは取り残されることになってしまう。
初対面の女性。名前も知らない見知らぬ彼女であったが、見捨てていくのはやはり後味が悪い。
「……やれるだけやってみるか!」
「お、おい! 君っ!」
俺は覚悟を込めて、巨大骸骨に向けてダッと走り出した。女剣士さんが慌てて声をかけてくるが、それを無視して飛び込んでいく。
「バレット!」
巨大骸骨めがけて無属性魔法を打ち出した。透明の弾丸が頭蓋骨に突き刺さる。
巨大な頭蓋骨にヒビが入って骨片が散った。しかし、その小さな傷はすぐに再生して消えてしまった。
「チッ……やっぱりダメか!」
今度は拾った大腿骨を巨大骸骨の脚に叩きつける。
しかし、剣の代わりにした大腿骨のほうが砕け散ってしまい、ロクにダメージが通らなかった。
『ガタガタガタガタッ!』
「うわあっ!?」
巨大骸骨が足で蹴りつけてきた。咄嗟に後ろに跳んで直撃は避けたものの、床の骨が飛んできて身体を打ち付けられる。
「痛っ……! 筋肉もないくせに骨野郎め……!」
「君っ、無茶だ! あいつにそんな攻撃は通用しない!」
「だからって無抵抗でやられるわけにはいかないだろう! 君は雑魚のスケルトンを頼む!」
「ダメなんだ! あれは光の力がなければ倒せない!」
「そんなことを言っても……」
スケルトンと戦っている女剣士さんが言い返そうとして、ふと言葉を止める。
光の属性……つまり『聖』属性だったら俺はとっくに持っているじゃないか。
ほとんど使ったことがなかったので忘れていた。
「馬鹿か、俺はっ!」
「あっ……!?」
俺はベルトに装着していたサバイバルナイフを抜き放ち、巨大骸骨を斬りつけた。
『ガアアアアアアアッ!?』
白い光を纏った斬撃が走り、巨大骸骨の右足が大きく裂ける。
発動させたスキルは【聖属性攻撃Lv1】。かつて緊急クエストで吸血鬼をやっつけたときに入手したものである。
サバイバルナイフに白い光が宿り、斬りつけられた箇所もいっこうに再生する様子はない。どうやらこの攻撃が弱点で間違いなさそうである。
「よしっ! このまま押し切る!」
巨大骸骨が手足を振りまわして暴れ狂う。巨体の怪物が暴れるのはそれだけでも脅威だったが、俺は縦横無尽に走り回って敵をかく乱する。
巨大骸骨はその大きさだけあってパワーは相当なものだが、動きは単調なものである。走り続けていれば攻撃にあたることもない。
俺は巨大骸骨の攻撃を躱しながら幾度も斬撃を見舞っていく。
『ガタッガタガタッ……!』
聖属性の攻撃によって巨大骸骨にも徐々にダメージが蓄積されてきたようで、徐々に弱っていくのがわかった。
いい加減に時間もない。そろそろトドメだ!
俺は大きく跳躍して、巨大骸骨の頭部へとナイフを突き立てようとする。
『ガタガタガタガタアアアアアアアッ!」
「うわあっ!?」
しかし、巨大骸骨もタダではやられてくれない。
俺に向けて大口を開き、再び咆哮の衝撃波を放ってきた。
「シールド!」
俺は咄嗟に魔法を発動させる。
それは無属性魔法がLv2になって覚えた魔法。目の前に魔法の盾を生み出す『シールド』の魔法である。
盾は一度攻撃を食らえば消えてしまうようだが、今の状況であればうってつけだ。目の前に現れた半透明の壁が巨大骸骨が放った衝撃波を受け止める。
「うりゃあああああっ!」
『ガッタ……!』
俺は巨大骸骨の頭蓋骨へとサバイバルナイフを突き立てた。ドクロの両目からパッとまばゆい光が放たれ、次の瞬間、巨体がバラバラに崩れ落ちる。
ボスがやられた途端、他のスケルトンも残らず白骨死体に戻って倒れていく。
「勝ったああああアアアアアアッ!」
粉々になった大量の骨の残骸の上に立ち、俺は勝利の雄叫びを上げた。
クエストボードを手に入れてから何度も危ない目に遭ってきたが、ボスキャラと戦って勝利したのは初めてのことである。
勝利の喜びも一際大きなものだった。
「本当にジェネラル・スケルトンに勝ってしまうなんて……君はいったい……」
「あー……」
そうだ。女剣士さんのことを忘れていた。
俺が巨大骸骨と戦っている間、スケルトンを引き付けてくれていた彼女は、剣を鞘にしまってこちらに歩み寄ってきた。
さて、何と説明したものだろうか。
ここがどこなのか。そして、彼女は何者なのか――聞きたいことは山ほどあるのだが、逆に同じ質問をこちらがされたら何て返してよいのかわからない。
そもそも、魔法の鉱石が大量に眠っていて、おまけに動く骸骨までいるこの洞窟は本当に地球のどこかなのだろうか?
「えーと、俺は……」
俺は言い訳の言葉も思いつかないままに口を開くが、しかし、すぐにそれが杞憂であることに気がついた。
目の前の風景がぼやけていき、次の瞬間、得体の知れないダンジョンから日本にある路地裏へと転移したのだ。
「あー……1時間、経ったんだな」
どうやら時間切れのようである。
俺にとって初めてとなるダンジョン探索は、ボスの撃破と謎の美女との出会いによって幕が下ろされたのであった。
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