41.目指せ、生産職。かーらーのー……①
ゴールデンウィークが明けて1週間が経ち、再び土日休みがやって来た。
俺はすっかり朝の早起きが習慣となっており、今日も日課であるデイリークエストの確認をする。
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デイリークエスト(NEW!)
・青汁を500ml飲め。
報酬:アイテム『ポーション』獲得
・募金箱に1000円入れろ。
報酬:アイテム『聖水』獲得
・本日中にスキル【薬草採取Lv1】、【鉱石採掘Lv1】修得
報酬:アイテム『銅の錬金壺』獲得
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「ん? なんだこのクエスト?」
クエストの内容を見て、俺は首を傾げた。
すでにデイリークエストのお馴染みである【身体強化】と【精神強化】はLv10にまで上がっている。
どうやらスキルのレベルは10が上限らしく、それからはデイリークエストの報酬は『ポーション』や『聖水』のようなアイテムが中心になってきていた。
おかげでアイテムボックスには特に使うアテもないポーションばかりが貯まっている。
しかし、本日3番目のデイリークエストは明らかになじみがないものであった。
「……たしかドラクエとかにそういうコマンドがあったな」
近年のドラクエに登場するコマンドに同じようなものがあった。
複数のアイテムを壺の中に入れて合成させ、新しいアイテムを生み出すというコマンドだ。
これを使わないと手に入らないアイテムもあり、合成のレシピを集めたりとかもゲームの醍醐味になっている。
「興味深いな。ぜひともこれは手に入れたいところだが……」
しかし、そのクエストの内容はなかなか不思議なものである。
スキルの修得自体がクエストの内容になっているのは初めてのケースだ。
「んー……【薬草採取】と【鉱石採掘】はたしかワールドクエストにあったよな」
俺はクエストボードを開いて、ワールドクエストを確認する。
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ワールドクエスト
・薬草を100本入手せよ。
報酬:スキル【薬草採取Lv1】修得(5/100)
・鉱石を100個入手せよ。
報酬:スキル【鉱石採掘Lv1】修得(3/100)
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実のところ、クエストボードを手に入れてから何度かこのクエストに挑戦したことがあった。
しかし、思うように進行することができず、当分はクリアできないだろうと保留していたものである。
「薬草と鉱石の境目がわからないんだよな。どこまでがこのクエストに含まれて、どこからが含まれないのかわからない」
例えば、薬草採取を例にとってみよう。
道に生えている草を摘んだりしてもカウントはされない。また、『薬草』ということでお店でハーブなどを購入してみたが、これもカウントされなかった。
しかし、ふと川の土手に生えていた自然薯を引き抜いてみたのだが、その時は薬草としてカウントされた。しかし、スーパーでサツマイモや山芋を買ってもカウントされない。
花屋で適当に花を買ってみたりもしたのだが、これはカウントされる花とされない花がある。
「チューリップはなぜか薬草としてカウントされたから、最悪、これはあと95本買えばいいんだけど……花って意外と高いんだよな」
中流家庭に生まれた高校生のお小遣いには厳しいものである。
鉱石についてはもっと判定が厳しい。
駅前にある雑貨屋で豆粒サイズのパワーストーンを買ったりしたのだが、これはカウントされない。
しかし、1000円くらいで売っていた天然石の原石を買ってみるとこれはカウントされた。
「クエスト達成に必要な鉱石があと97個。1個1000円として、97かける1000は……うっわ」
財布の中身の50倍くらいの金額になった。貯金を崩しても足りないかもしれない。
「お金のアテは……いや、なくはないのだけど……」
俺はチラリと勉強机に目を向けた。
机の引き出しの中にはある封筒が入れられている。それは数日前に朱薔薇聖――彼女の父親が持ってきたものだった。
『娘が大変、御迷惑をおかけいたしました。どうぞこちらを受け取ってください』
教会の牧師さんはわざわざ俺の家を訪ねてきて、丁寧に頭を下げて封筒を差し出してきた。
さすがに遠慮しようとしたのだが、牧師さんは押しつけるようにしてその封筒を置いて行ってしまった。
明らかに現金が入っていそうな茶封筒は非常にぶ厚く、もしも中身が一万円札であったのならば確実に百万以上は入っているだろう。
「……怖いから中身を確認せずに引き出しにぶち込んでいたんだけど、アレって本当に使っちゃってもいいのかな?」
いや、そもそも現金が入っているとは限らない。
ひょっとしたら『肩たたき券』が詰め込まれている可能性だってゼロではないのだが。
「聖ちゃんがマッサージしてくれるのなら役得だけど、牧師さんだったらシュールだよな。ある意味笑えるけど……」
いや、現実逃避をしても仕方がない。
意を決して引き出しから封筒を取り出して中を覗いてい見ると、入っていたのはやはり札束だった。
百万円の束が2つ。つまり200万円。
高校生にポンと渡していい金額ではないと思うのだが、あの牧師さんは何を考えているのだろうか?
「……示談金、あるいは口止め料かな? これって使っても違法じゃないよな?」
法律の知識がまったくないので、これが合法的な金なのかどうかは判然としない。
ショトクゼーとかゾウヨゼーとか払わなくてもいいのだろうか?
俺はしばし札束を握り締めたまま考え込んでいたが、やがてバッグへと茶封筒を投げ込んだ。
沙耶香からは聖に襲われたことは内密にして欲しいと頼まれているのだ。
しかし、この金が存在する限り、気になって聖のことを忘れることなどできないだろう。
いっそのこと、さっぱり使ってしまって聖に襲われたことも忘れてしまったほうがよいのではないだろうか?
「……しかし、君の下着姿は忘れない。たとえこの世の終わりがやってきても」
俺は固く心に誓い、クエストを達成するために外出をするのだった。
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