24.六日目は両手に花を抱いて⑤
ナンパ男達をぶちのめして美少女2人に押し倒されてプレスされた。
うん、柔らかい。
そんでもってあったかい。ぬくぬくだ。
とかなんとか2人の感触と温もりを堪能しているうちに、ゲームセンターの入口の自動ドアが開いて2人組の警察官が入ってきた。
さすがに強引すぎるナンパに店員か客の誰かが通報したようである。
まあ、あれはナンパというよりも痴漢とか誘拐とかに近かったから、当然といえば当然だろう。
「あー、ひょっとしたらコレやばいかも」
正当防衛だったとはいえ、俺は5人の男を容赦なく叩きのめしてしまった。
さすがにお叱りがあるかと思って、2人の少女を連れてその場から離れようとする。
「ダメよ、月城君」
「わわっ!」
人ごみに紛れて逃げようとしたが、春歌にがっしりと腕をつかまれて止められてしまう。
「月城君は悪いことなんてしてないんだから、コソコソとしなくてもいいの!」
「えーと、そりゃそうだけど……」
「私達がちゃんと事情聴取に応じないと、この人達にちゃんとした処分が下らないでしょう? 中途半端なことをしたら、また他の女の子が被害に遭うかもしれないじゃない!」
「……はい、すいません」
正論すぎる春歌のお説教に、俺はしゅんと黙り込んでその場に立ち尽くした。
というか、春歌がいまだ腕に抱き着いていて身動きが取れない。
こうやって密着してわかるのだが、春歌は意外と着やせをするタイプのようである。
店に入ってキョロキョロと左右を見回していた警察官だったが、ようやくこちらに気がついたようで足早に駆け寄ってくる。
「通報されたのはどなたですか」
「あ、俺です。わざわざすいません」
春歌達が絡まれるのを遠巻きに眺めていた若い店員が名乗り出て、警察官に事情を説明していく。
どうやら奴らの強引なナンパぶりも、先に手を出したのが奴らであることも、天井の防犯カメラにばっちり映っていたようである。
5人を倒したのが細身でヒョロい身体つきの俺であると知って警察官は随分と驚いていたようだが、2,3質問をされただけで特にお叱りもなくあっさりと解放された。
ナイフを持った男に立ち向かったことに対しては「危ないことをしないように」と注意を受けてしまったのだが。
「ほらね、お巡りさんだって悪い人じゃないんだから、悪いこともしてないのに叱られたりしないわよ!」
「そうみたいだな……何故だかわからないんだが、悪いことをしていなくても警官を見ると怒られそうな気がするんだよなあ」
「ふふっ、実は私もなんだー。先生とかお巡りさんって、ちょっと威圧感あるよねー」
簡単な事情聴取を終えて、俺と春歌、早苗は連れ立ってゲームセンターから出た。
すでに逃げる必要などなくなったのだが、なぜか春歌は俺の腕を握ったままであり、いつの間にか反対側の腕に早苗まで抱き着いている。
2人の美少女を左右に侍らせた俺に対して、道行く人――特に若い男が嫉妬の目を向けてくる。
「なんかもう夕方になっちゃったねー。あーあ、明日でゴールデンウィークも終わりか―」
早苗が俺の腕をギュウッと抱きしめながら唇を尖らせる。
ちなみに、こうして抱き着かれた感触から推測するに、早苗はわりとスリムな体形のようだった。
どうしても反対側の春歌と比べてしまい、ちょっとだけ物足りない感触だ。
「もっと真砂君と遊びたかったなー。明日も遊んじゃおっか?」
「明日は病院で検査でしょう? ちゃんと行きなさい!」
「むう、事故に遭わなかったらもっと遊べたのにー」
「あれくらいのケガで済んだんだから喜ばないと。それに、あの事故がなかったら月城君とも知り合っていなかったんじゃないかしら?」
「うーん、それはそうなんだけどさー」
俺を挟んで、春歌と早苗が話をしている。
どうでもいいが、いつまで2人は俺の腕をつかんでいるのだろうか?
心地の良い感触だから文句はないのだが、さすがにちょっと歩きづらい。
「そうだな、やっぱりゴールデンウィークが終わるのは寂しいよな。今年は随分と濃い連休だった気がするよ」
俺はのんびりとした口調で早苗に同意する。
帰宅部で彼女いない歴=人生の俺が2人の美少女と同時にデートをして、おまけにチンピラ5人を彼女達の目の前で叩きのめしたのだ。
ある意味では、昨日吸血鬼に襲われたことよりインパクトがあった気がする。
「まあ、いいか。どうせ学校で会えるからね」
「ふふ、私なんて同じクラスよ?」
「むー! 春歌だけずるい!」
そんな2人のかけ合いを聞きながら、俺達は待ち合わせにも使った近所の公園にたどり着いた。
春歌と早苗は幼馴染ですぐ近所に住んでおり、俺の家はこの公園を挟んで反対側の地区にあった。
だから今日はここで解散。
2人のおっぱ……もとい、ハグともおさらばである。
「それじゃあ、月城君。また学校でね」
「絶対会いに行くからねー。浮気しちゃダメだよー!」
「浮気って……まあいいか。2人とも車に気をつけて」
「あはは、それは事故った私には皮肉だよー」
まるで犬が尻尾を振り回すようにバタバタと両手を振ってくる早苗。その隣で、春歌も控えめに手を振っている。
こうして、ゴールデンウィーク6日目が終わり、俺の初めてのデートもまた幕を下ろしたのであった。




