美少女+ゴツい武器=何故かテンション上がる ⑦
聖に向けて放たれる特大のエネルギー弾。
もちろん……俺だって、座して静観しているわけではない。
「させるかよ!」
「先輩!?」
聖とエネルギー弾の間に割り込み、両腕を構えてエネルギー弾を受け止める。
「真砂レシーブ!」
エネルギー弾を受け止める俺であったが……予想外の衝撃に襲われた。
「…………!」
熱量もすごいが、込められた魔力がとんでもない。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」
身体強化系統のスキルをフル稼働させて、魔法で腕をガードして……全力でエネルギー弾の軌道を逸らそうとする。
このまま、直撃したら死ぬ。
俺だけならば死なないかもしれないが、後ろにいる聖は。そして、この公園のご近所がまとめて吹き飛びかねない。
「うおりゃっせいっ!」
あらゆる力を駆使して、全力で頭上に弾き飛ばす。
エネルギー弾が夕暮れの空に吸い込まれていき、お星さまになって消えていった。
〇 〇 〇
場所は変わって……日本のはるか上空。飛行機でさえいけないような高さの場所を飛んでいる飛行物体があった。
銀色に輝く金属のボディ。円盤状でプロペラもなく浮遊している『それ』は、誰かに発見されたら未確認飛行物体として認定されることを避けられないだろう。
科学かオカルトか……いかなる技術で飛行しているのかも判断不明な『それ』の内部には、複数の乗組員の姿がある。
「ふっふっふ、とうとう我らが組織の復活の時がきたのじゃ!」
高々と宣言したのは、黒いドレスに身を包んだ少女だった。
小学校を卒業するかどうかという外見の少女の前には、黒ずくめで統一された男女が立っている。
彼らはいずれも身じろぎすることなく沈黙して、少女の言葉の続きを待っていた。
「敵対者の襲撃によって組織が瓦解して二十年……ようやく、雌伏の時が終わった! 我はここに『銀の黄昏』の復活を宣言する!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
黙り込んでいた黒ずくめが一斉に喝采の声を上げた。
彼らの名前は『銀の黄昏』。とある事情によって潜伏していたカルト集団である。
空を飛んでいるこの飛行物体は、彼らの技術と資金を費やして生み出した決戦兵器。ステルス機能によってレーダーには映らず、肉眼でも見ることのできない空の要塞だった。
「この決戦兵器――『アン・ド・シャトレーヌ号』があれば、いかなる敵にも膝を屈することはない! これより、世界中に呪いをまき散らして、狂気と混乱の坩堝に放り込んでやるのじゃ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
幼い外見にそぐわぬ口調で言ってのける少女であったが……実のところ、その言葉は偽りや誇張ではない。
彼らが長い時間をかけて造り出した兵器『アン・ド・シャトレーヌ号』はいかなる手段でも観測できない隠密に長けた乗り物。ミサイルや戦闘機で撃ち落とすことも不可能に近い。
この乗り物を使用して、あらゆる国の主要都市に爆弾や毒物をバラまいたとすれば……世界はまさしく狂気と混乱に陥ることだろう。
「世界に混乱をもたらし、その隙をついて聖遺物を奪取。我らが崇める神を復活させるのじゃ!」
「栄光は我らの手に!」
「古き支配を再び地上に!」
「神々が治める楽園をこの手で築かん!」
少女の言葉に応え、黒ずくめが右手を天井に向けて突き上げる。
長い雌伏の時間を終えて、ようやく始まる反撃の時。士気は最高潮だ。
「ふっふっふ……我らは目覚めたぞ。そして、もう二度と眠ることはない……!」
少女は野心と憎悪に瞳を燃やし、やってきた復讐の時に心を躍らせる。
「まずは日本の首都である東京を火の海にするぞ! 『アン・ド・シャトレーヌ号』発進!」
少女の命令に応えて、飛行船が東に進んでいく。
彼らが目指す場所は最初に落とすべき都市。日本の首都である東京である。
秘密結社『銀の黄昏』。
邪悪なる神を祀っているカルト集団による破壊と殺戮が、何も知らず平和に暮らす人々に刻一刻と迫っていた。
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
「へ……?」
しかし、突如として船が大きく揺れた。
天地をひっくり返したようにアン・ド・シャトレーヌ号がひっくり返り、少女は天井に叩きつけられる。
「な……何じゃ!? 何が起こっているのじゃ!?」
「総帥! 砲撃です! 地上より何者かの砲撃を受けました!」
「な、何じゃとおおおおおおおおっ!?」
黒ずくめの部下からの報告を受けて、少女が愕然として叫ぶ。
アン・ド・シャトレーヌ号は不可視の飛行船。地上から攻撃を受けるなんてありえない。
「いったい誰が……まさか、この船を補足することができたというのか!?」
「メインエンジンを撃ち抜かれました! 飛行状態を維持することができません!」
「ふあっ!?」
船体が大きく傾き、そのまま地表に向けて墜落していく。
少女は今度は天井……もとい、さかさまになって床に向けて浮き上がり、またしても身体を叩きつけられる。
「つ、墜落します!」
「まさか、我らの野望がこんなにも簡単に……嘘じゃああああああああああああああっ!」
少女は涙ながらに絶叫するが、墜落を止めることはできない。
幸か不幸か……不可視の飛行船は青い海にめがけて落ちていく。
秘密結社『銀の黄昏』
邪神を復活させて世界を支配しようと目論んでいるカルト集団。
人知れず復活を果たした彼らであったが……またしても、人知れず壊滅させられることになるのだった。
〇 〇 〇
「なんか今、変な映像が頭に浮かんだような……?」
意味がわからない。
わからないのだが……自分は知らないうちに世界を救ってしまったような気がする。
うん、絶対に気のせいなのだろうけど。
「それは良いとして……痛いな。こんなにダメージを喰らうのは久しぶりかも……」
セラちゃんが放ったエネルギー弾を受けて、俺の両腕は半分炭化してしまっていた。常人であれば日常生活を送ることができないレベルの負傷である。
「怪我は魔法で治せるけど……どうしたものかな、この状況は」
魔法で腕を治癒しながら……俺は目の前に浮かんでいるセラちゃんを見上げた。
「攻撃を防御されました。パターンを変えて、再度排除を試みます」
セラちゃんの背中には三対六枚の光り輝く翼が生えていた。
半透明の翼は鳥のものではなく、どちらかというとトンボによく似ている。
ただし、絶えず青く輝いており、そこからとんでもないレベルのオーラが放たれているのだが。
「セラ! 攻撃をやめろ、マスターの命令だぞ!」
「マスターから命令を受諾します……失敗。最優先コードを優先。吸血鬼の『神』を排除します」
「ダメか……!」
セラちゃんの様子を見る限り、俺の命令は通用しないようだ。
マスターに認証されたとか言っていたが……マスターの命令よりも上位の命令が彼女の内部に刻まれているのだろう。
「先輩、何ですかあの人は!?」
「お前の客だろうが……やれやれ、参るね」
こうなった以上、もはや穏便には済ませられないだろう。
俺は本気でセラちゃんと戦う覚悟を決めて、治療を終えた拳を構えたのであった。




