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22.六日目は両手に花を抱いて③

日刊ジャンル別ランキングで3位に入りました!

いつも応援ありがとうございます!


「はいはーい! お腹がいっぱいになったらゲーセンに行きまーす!」


 料理を食べて喫茶店を出るや、早苗がバビッと片手を上げてそんな宣言をした。


「本当は映画とかもっとデートっぽいところに行きたかったんだけど、春歌が『男の子と暗闇で一緒なんて恥ずかしいっ!』とか言ってるから今日はゲーセンということで」


「ちょ、ちょっと早苗! 余計なことを言わないでよっ!」


「えへへっ、さっきのお返しですー!」


 抗議をする春歌にニマニマと意地悪く答えて、早苗は再び俺の腕をとった。


「ちょっ、桜井さん!?」


「にゅふふふ、早苗でいいよ? 名字とか他人行儀じゃない?」


「うぐ……」


 先ほど早苗が俺に惚れているとか、そんな話を聞いたせいで妙に意識してしまう。

 腕を通して早苗の体温が伝わってきて心臓の鼓動が速くなる。


(精神強化スキルがなかったら緊張で吐いてたかもしれないな……落ち着け、俺の心臓)


 俺達は軽い足取りで歩く早苗を先頭に、駅の近くのゲームセンターに入った。

 ゴールデンウィークということもあってゲームセンターは若者であふれかえっており、人気ゲームの筐体には列ができているところもあるぐらいだ。

 軽い人ゴミとなりつつある店内に、早苗が困ったように眉尻を下げた。


「あちゃー、やっぱり混んでるなー」


「どうするの? やっぱり違うところにする?」


「んー、せっかく来たんだからちょっとだけでも遊んでこうよ。真砂君もいいよね?」


「ああ、俺は別に構わないよ」


 上目遣いで訊ねてくる早苗に頷きを返す。

 俺はゲームは好きだがどうもゲームセンターというのは苦手で、1人では店に入るのにも気後れしてしまう性質だった。

 2人が一緒ならば好都合。せっかくだから気になっていたゲームを見せてもらおう。


「じゃあまずは……あっちのシューティングゲームかな? ちょうど今は空いてるし」


 早苗が指さしたのはボックス型の体感シューティングゲームである。


「ええっ! でもアレは二人用じゃ……」


 半個室のゲーム筐体に、春歌が思わずといったふうに声を上げた。

 チラチラと俺のほうを見やり、目が合うと恥ずかしそうに視線をそらす。


「詰めれば3人でも入るって。ほらほら、入った入った!」


「ちょ、早苗っ!?」


 グイグイと早苗に背中を押されて、俺と春歌はカーテンで仕切られた薄暗いボックスの中へと入ることになった。


 たしかに席を詰めれば筐体の中には3人が座ることができる。

 しかし、これは何というか……


「う、む……」


「えへへ、やっぱりちょっと狭いかな?」


「うー……近すぎる……それに暗い」


 席順は俺が真ん中。右に早苗、左に春歌が座っている。

 密着するように座ったせいで2人の体温はもちろん、息遣いすらもはっきりと感じられてしまう。

 家族以外の女性とこんな距離で接するのは初めてこのことだ。

 俺は緊張で固まってしまった。


「はい、それじゃあ100円入れるよー」


 早苗がクマのイラストが入った小銭入れを取り出して筐体にコインを投入する。

 そのゲームはバギーに乗って戦場を駆けながら、現れる敵を銃で撃っていくというよくある設定のものだった。

 しかし、どうにも左右の2人が気になってゲームの世界にのめり込むことができない。


「あっ、あっ、あっ……ああんっ!」


 早苗はゲームに夢中になっているらしく、敵の攻撃を受けるたびに悩ましげな声を上げている。

 密着しているせいでときおり熱い吐息が俺の首筋にまでかかり、ぞわぞわと背中に鳥肌が立ってしまう。


「…………」


 春歌は緊張をしているのか、終始黙ったままだった。

 そんなに辛いのならば早苗がゲームに集中している隙に外に出ればいいと思うのだが、真面目な委員長はゲームすら途中で投げ出すことができないようである。


 こうして身体を寄せ合って改めて気がつくことなのだが……春歌は大人しい性格とは裏腹にかなりグラマラスな体形をしている。

 ゲームが進むと筐体が振動をして臨場感を出してくるのだが、そのたびに彼女の二の腕やら太ももやらが俺の身体にあたってくる。

 ときおり銃を構える腕が異常に柔らかい物体を突いてしまうのだが……俺はあえてその正体から意識をそらした。


(この2人は性格だけじゃなくて身体つきまで対照的みたいだな。藤林さんは性格に似合わない巨乳で、桜井さんはどちらかというとほっそりとしたスレンダーな感じで)


 そんなことを考えながらゲームに集中できるわけもなく、俺は何度も敵にやられては小銭を投入してコンティニューを繰り返す。


「ふー、真砂君ってわりとゲーム下手なんだね?」


「……ほうっておいてくれ」


 財布の中の100円玉がなくなるまで極楽浄土……もといシューティングゲームをプレイして、ようやく俺達はゲーム筐体から外に出た。

 ミスばかりする俺を揶揄ってくる早苗に溜息を返しながら、俺はすっかり軽くなってしまった財布をポケットに突っ込んだ。


(あんな状態で集中できるかっての……いや、肌のほうはかつてないほど敏感になってたけど)


 左右の2人の少女の感触に集中しすぎたせいでゲームのほうはすっかりおろそかになってしまった。

 はっきり言って、どんなストーリーだったのかすらも思い出すことができない。


「けっこう遊んじゃったわね。もうこんな時間」


 スマホを取り出している春歌の手元を見ると、どうやら1時間もゲームをプレイしていたようである。完全に時間の感覚を失っていたようだ。


「……俺、ちょっとトイレ行ってくるよ」


 俺は変に昂ってしまった気持ちを落ち着けるべく、2人から離れた。

 トイレに入るや洗面台で顔を洗い、ふーっと長く息を吐く。


「……女の子と過ごす休日がこんなに緊張するものだとは思わなかったよ。世のカップル達はよくもまあ心臓がもつもんだ」


 今さらではあるが、初デートで2人の女子を相手にしているのだから心臓が張り裂けそうになるのも当然なのかもしれない。


 春歌と早苗。2人はタイプは正反対だが、どちらもかなりの美少女である。

 春歌は普段からメガネと三つ編みという委員長スタイルで武装しているため気づかれづらいが、目鼻はかなり整っているし、年齢よりも2つ3つ大人びて見える美人だ。

 対する早苗は年齢相応に元気がよく、さっぱりとした美少女だ。ストレートに好意をぶつけてボディタッチを繰り返してくる彼女からは「こいつは間違いなく俺に惚れている!」と勘違いをさせられてしまうような雰囲気がある。


「やれやれ俺のLukは初期値のままだったんだけどな? えらく恋愛運が急上昇してるじゃないか…………は?」


 と、そんな独り言を口にしたところで頭の中にピコンと電子音が響いた。


――――――――――――――――――――


緊急クエスト NEW!


『乙女の危機を回避せよ!』

 春歌と早苗がタチの悪い男に絡まれている。

 このままでは連れ去られて、暴行を受けてしまう。

 男達を撃退して、乙女を救出せよ!


制限時間:5分

報酬:?????


――――――――――――――――――――


「はあああああっ!?」


 目の前に表示された文章に思わず声を上げて、俺は用も足さないままにトイレから飛び出した。



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レイドール聖剣戦記 コミカライズ連載中!
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― 新着の感想 ―
[一言] そのフラグは折らないと誰も幸せになれないね
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