美少女+ゴツい武器=何故かテンション上がる ①
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「極東の地で吸血鬼の『神』が降臨した。どうやら、その情報は眉唾のものではないようです」
暗い部屋に女性の声が響き渡る。
明かりを落とし、窓を閉め切った部屋を照らしているのは蠟燭の火だけ。オレンジの炎は部屋全体を照らすには光量が足りず、言葉の主の輪郭をぼんやりと浮き上がらせるだけである。
「そして……討滅されました。現地の、日本の魔術結社によって」
「…………」
女性の説明に、部屋の中で複数の気配が身じろぎをする。
どうやら、部屋の中には女性以外にも数人の人間がいるようだ。いずれも姿は見えないが、どこか不機嫌そうな気配だけが蠟燭の明かりの下で揺らいでいる。
「吸血鬼の『神』か……よもや実在していようとはな」
「否。『神』と呼ばれるべきは父と子と聖霊のみである! 人の血をすする悪魔ごときが名乗って良い呼称ではないわ!」
「然り。けれど……まさか日本の魔術師に悪魔の首魁がやられるとは思わなんだ。東洋にも名のある術者がいるのだな」
複数の人間の声がちらほらと上がる。
声は男女入り混じったものだったが、声のトーンから察するに年配のものが多い。
「悪魔が滅ぼされたことは別に構わぬ。だが……問題は、それを成し遂げたのが我らが『異端審問会』ではないことじゃ」
しわがれた声が不機嫌そうに言う。
拙い光の下で顔は不明瞭だったが……忌々しそうに歪んだ老人の顔が闇の中に浮かんでいる。
「我らも吸血鬼共の首領が甦ることは予測していた。じゃが……あえて東洋に混乱をもたらし、我らが神の信仰を広めるために放置していた。それを極東の猿が自力で解決してしまうなど、笑い話にもならぬわ!」
「東洋人ごときに出し抜かれるなど恥ですわね……一部の者達は、我らが吸血鬼ごときを恐れて戦力を出し渋ったなどと影口を叩いているようです。遺憾なことですこと」
老人の隣で、別の女性が声を発した。
暗闇で密会している彼ら……その正体は『異端審問会』と呼ばれる魔術結社のメンバーだった。
悪魔や吸血鬼、モンスターを人類の敵として狩り出し、人々を守護することを教義として掲げている退魔師の集団である。
彼らにとって、吸血鬼の『神』は宿敵中の宿敵。絶対に自らの手で討ち滅ぼさなければならない絶対悪だった。
実のところ、異端審問会もまた日本で吸血鬼の『神』が復活するという情報は掴んでいた。
にもかかわらず……『神』の復活を阻止することもなく、復活した宿敵と戦うこともせず静観を決め込んでいたのは、あえて『神』と極東の魔術組織を戦わせるためだった。
極東の魔術組織――『結社』と名乗っている彼らに吸血鬼の『神』をぶつけて弱体化させ、救いの手を差し伸べることで日本における影響力を強めようとしていたのだ。
だが……結果は予想外。
日本の退魔師が自力で吸血鬼の『神』を討伐してしまい、異端審問会は見事にお株を奪われてしまった。
吸血鬼の殲滅を教義として掲げているにもかかわらず、為すべき使命を放棄した形になった異端審問会への風当たりは強い。
対立している組織など、これみよがしに槍玉に挙げて異端審問会の権威を堕とそうとしていた。
「これは由々しき事態である。神の使徒である我らが、教義に反する悪魔に臆しているなどという評価を許すわけにはまいかぬ。早急に手を打つ必要がある」
「ならば、如何する? すでに吸血鬼の長は滅ぼされているようだが?」
「だが……その者の器となった娘は生きていると報告を受けた。なれば、やるべきことは決まっていよう」
老人の言葉に、しばし沈黙が続く。
だが……老人の言わんとすることは何とはなしに察していた。
異端審問会の評価を回復させる面目躍如。汚名返上のためには、生け贄が必要となるだろう。
「器の娘を血祭りに上げる。そして……居場所がわかっている吸血鬼の眷属を一匹残らず狩り出すのだ! この世から吸血鬼という悪魔を絶滅させてやろう!」
老人が高々と言い放つ。
部屋の空気が揺れて、蠟燭の火が大きく揺らいだ。
異端審問会。
ヨーロッパの影で暗躍している宗教結社にして、最大の退魔師組織。信仰という行動原理に突き動かされた彼らの刃が日本に向けて放たれる。
その切っ先が向かうのは吸血鬼の『神』の器となっていた少女。
すなわち、月城真砂が可愛がっている(?)後輩――朱薔薇聖であった。
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