表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

221/244

激闘! 退魔師試験!㉙


『これにて実技試験終了となります。受験生の皆様、お疲れさまでした』


「……お?」


 九尾の狐を吹っ飛ばした瞬間、景色が一瞬で切り替わった。

 俺達が立っている場所はジャングルの島ではなく、試験会場だったサッカースタジアムのコートである。

 周りを見ると、同じく困惑した様子で紫蘭とカスミ、晴嵐、南国部族風お面の女性が立っていた。

 スタジアム内には他の受験者の姿もあり、いずれも戸惑っている様子。途中で失格した例のDQNな連中はいなかった。


「試験終了だって……? おかしい、早過ぎるじゃないか」


 晴嵐がつぶやく。

 そう、確かに早い。実技試験終了まではまだ半日近くもあるはず。

 俺が首を傾げていると、教員のようなスーツを着た試験官が前に進み出てくる。


「えー、予定の時刻よりは早いですが、島の主が倒されてしまったことで異界が崩落してしまいました。これにより、途中になりますが試験は終了します」


「それじゃあ、合格はどうなるんだ?」


「不合格だったらパパに怒られちゃう……」


 試験官の説明に受験生から不安そうな声が上がった。

 試験官は手を挙げて受験生を落ち着かせて、穏やかな口調で説明を続ける。


「ご安心ください。現時点において生き残っている方は全員、『乙種』退魔師試験に合格となります」


「「「「「…………!」」」」」


 受験生から喝采の声が上がる。

 大部分の受験生が安堵に胸を撫で下ろしており、無事に試験を通ったことを喜んでいた。


「チッ……」


「もう終わりかよ……」


 一部、不服そうな顔をしているのは『甲種』を目指していた受験生だろう。

 『甲種』認定を目指しながら、必要なだけの功績を集めきれていない者達が悔しそうにしている。


「皆さんが集めたメダルは提出する必要はありません。そもそも、島を出た時点で全て消滅しているはずです。しかし……どのような怪異をどれくらい倒したかは試験官が集計しています。後日、運営委員会の方から改めて試験結果を連絡しますので、そのつもりで。ちなみに……他の受験生に対する必要以上の妨害行為を働いた方に対しても、別途お叱りがあるので覚悟していてください」


「「「「「…………!」」」」」


 その言葉を聞いて、一部の受験生がガックリと肩を落とした。

 やはりメダルの争奪戦はミスリードだったようだ。持っていたメダルはいつの間にか消えているようだし、晴嵐が予想していたようにメダルは合否に関係ないらしい。


「ん……?」


 そうかと思ったら、ポケットの中に固い感触。

 取り出してみると……掌の中で金色のメダルが輝いていた。


「これって……?」


 メダルには『1』と堂々と刻まれている。

 九尾の狐の獣毛のような金色のメダルは、もしかしなくても玉藻前を倒した報酬なのだろう。

 メダルは全て消えているという話だったが……どうして、これだけ残っているのだろう。


「……まあ、いいか」


 別に回収されないというのなら、記念品としてもらっておくとしよう。

 俺は金色のメダルを再びポケットにしまっておいた。


「それでは、これにて退魔師試験終了となります。皆さん、気をつけてお帰りください」


 長かった退魔師試験が終了して、残っていた受験生がスタジアムから出て行く。


「ふう……やれやれだぜ」


 長かった、本当に長かった……予定では10話くらいで終わるはずだったのに、30話近くかかってしまった。

 コミカライズも始まったことだし、ようやく落ち着くことが出来そうだ。


「いや……コミカライズってなんだよ……」


「月城様、お疲れさまでした」


「月城さーん、お疲れー!」


 謎の電波を受信していると、紫蘭とカスミが声をかけてきた。後ろには晴嵐と……南国部族のお面をつけた女性――ジーナの姿もある。


「月城様のおかげで最後まで生き残ることが出来ました。心より御礼申し上げます」


「本当に助かっちゃった! 月城さんがいなかったら死ぬところだったよー」


「お前は死ぬよりも恥ずい目に遭ってるけどな……ともあれ、みんな無事に試験を終えることができて良かったよ」


 特に最後の戦いは絶体絶命だった。

 全員、ゲームオーバーになることなく生き残ることができたのが奇跡のようだ。


「月城さん、僕の方からもお礼を言うよ。助かった」


「賀茂さん……」


 晴嵐が穏やかな表情で言う。

 初対面の時の剣呑な様子とはまるで違う。こうやって見ると、普通に女の子っぽく見える。


「貴方がくれた脇差がなかったら、僕達は敗北していただろう。本当に助かった」


「ああ、それは返さなくてもいい。そのまま持って行ってくれ」


 脇差を差し出してこようとする晴嵐に、俺は首を振った。


「いいのかい? これは相当な力を持った呪具だ。賀茂家だってそうは手に入らないような代物だと思うけど……」


「いいよ、こっちの方こそ良い経験をさせてもらった。お釣りをあげたいくらいさ」


 そう……晴嵐には大きなものをもらった。

 いつも男装している女子の身体に〇〇されて、××されるという経験をな!!!


「そうか……僕も良い経験になった。ありがとう」


 晴嵐は俺の言葉を良い意味で勘違いしたらしく、頭を下げてきた。


「私もありがとうございます。改めて、今回の御礼はさせていただきます」


「私もありがとねー。このセーラー服、大切に使うねー?」


 俺は3人と連絡先を交換し合って、別れることになった。

 彼女達と過ごしたのは3日間にも及ばない短い期間だったが、とても濃密で価値のある時間である。


「あ、拙者も混ぜてほしいでゴザルー」


 ……と、何故かジーナまでもが連絡先交換に混ざってくる。

 驚くべきことに、部族のお面をかぶってワラやらミノやらで編んだ服を着た彼女は、当たり前のようにスマホを持っていた。それもリンゴ社の最新機種である。


「何者だったんだ……あの女性は……」


 最後まで謎の多い女性だった。素顔すらお面で隠されて見ていない。


「秘密があるほど女は美しくなる……いや、そういう次元じゃなくないか?」


 ともあれ、今回の試験では多くの出会いがあった。

 『甲種』だの『乙種』だのという他人が決めた尺度の評価などよりも、それはずっと価値のあることのように思えた。


「あの……月城真砂さんでよろしいですよね?」


「へ……そうですけど?」


 しみじみとした気持ちで帰ろうとした矢先、試験官が声をかけてきた。


「えー……月城さんのお耳に入れたいことがあるのですが、今回の試験はお気づきの通り、島での行動を試験官および実行委員が監視していました」


「はあ、そうなんですか?」


「試験を監督している実行委員は『結社』の上層部によって選ばれた退魔師が就いているのですが、その実行委員の一人が月城さんにお話があるらしくて……」


「え……?」


 試験官が気まずそうな表情を横に向ける。

 試験官の視線を追っていくと……そこに立っていたのはスーツを着た一人の女性。


「あ……」


「やあ……真砂君。随分とお楽しみだったようだね?」


 ポニーテールの黒い髪。凛々しく涼しげな相貌。細くて長い手足。

 いつもの剣道着でもなく、巫女服でもなく、学校の制服でもない……かしこまった場のためか今日は女性用のスーツを身に着けている。


「さ、紗耶香さん……」


 そこに立っていたのは雪ノ下沙耶香。

 俺にとって後見人のような女性であり、公私ともにお世話になっている剣術少女である。


「真砂君、私が言いたいことはわかっているね?」


「……………………はい」


 底冷えのする笑顔で言ってくる紗耶香に、俺は抵抗することなくその場に正座をする。


 その日のお説教は5時間にもわたり、歴代最長記録を更新したのであった。






激闘 退魔師試験   完


ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ版 連載開始いたしました!
i000000


レイドール聖剣戦記 コミカライズ連載中!
i000000
― 新着の感想 ―
[一言] やっちゃった「アレ」かい!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ