20.六日目は両手に花を抱いて①
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翌日。
ゴールデンウィークの6日目。
俺は待ち合わせ場所として事前に指定されていた公園に、約束の時間よりも30分も前に到着した。
これでデートの話が藤林さんのイタズラだったのなら赤っ恥もいいところなのだが、真面目な委員長さまがそんなことをしないと信じたいところである。
ちなみにデイリークエストは早朝、早起きして達成しておいた。
いつも通りに筋トレと精神修行で【身体強化Lv6】、【精神強化Lv6】を獲得した。残る一つは残念ながら条件を整えることができずに放置したままになっている。
「やばい、もうじき待ち合わせの時間だ。【精神強化】で補えないくらい緊張してきた。服はこれで変じゃないよな?」
公園のベンチに落ち着きなく座りながら、俺は自分の服装を見下ろした。
俺が着ている服は飾り気のないシンプルなデザインのシャツに黒のスキニーパンツという何とも無難なものである。
ちなみに、この服を選んだのは俺ではなく妹の真麻だった。
女の子とのデートで着ていく服なんて、当然ながら想定外すぎて選ぶことなどできない。俺は仕方がなしに妹に泣きつくことにしたのだ。
真麻にはクエストボードのことをぼかしながらゴールデンウィーク初日の事故について説明をしたものの、ますます『お兄に彼女ができた』説を強めることになってしまった。
(ちょっとシンプルすぎる気がするけど……いや、どうせファッションのことなんてわからないんだ。ここは真麻のセンスを信じよう)
簡素すぎるコーディネートに不安を覚えながら、俺は胸に手をあててバクバクと高鳴る心臓を押さえつける。
「あ、ちゃんと時間前に来てる。感心感心」
「えっと……こんにちは、月城君。急に呼び出したりしてごめんなさい」
「へ……?」
時間は午前10時50分。待ち合わせ時間の10分前。
ベンチに座っている俺の前に2人の少女が現れて、声をかけてきた。
一人は俺をデートに誘ってきた張本人。藤林春歌その人である。
今日はゴールデンウィークの初日に会った時と同じく、三つ編みを解いてメガネも外している。
私服姿は俺と同じくシンプル系のコーディネートで、水色のワンピースの裾は長くて膝下まで隠れている。
問題はもう一人の少女だ。
『CRAZY WOMAN』などと英字の入ったシャツに短パン、黒のタイツといういかにも元気娘といった服を着ている少女が藤林さんの隣に立っていた。
明るい笑顔で声をかけてくる彼女の顔と名前を思い出すことができず、俺は思わず固まってしまった。
「えーと、君は……誰だっけ?」
「あ、まずは自己紹介が先だよねー。私は桜井早苗。春歌とは小学校からの親友だよー」
「早苗……あ、そうか」
間延びした声で告げられた名前を聞いて思い出した。
ゴールデンウィークの初日に事故に遭っていた少女。ポーションを飲ませて助けた女の子だ。
「この間はありがとね? おかげで助かったよん」
「いや、当然のことをしただけだから構わないよ。それよりもケガのほうはいいのかい?」
「うん、全然平気だったみたい。1日だけ検査入院をしたけど、脳とかにも異常はなくてすぐに退院できたよ。車の破損のわりにケガが少ないって警察の人は不思議そうにしてたけどねー」
「ふうん、ケガがないようだったらなによりだ」
どうやらポーションの効果があったようである。
女の子の身体にケガが残らなかったのはとても良いことだが、さすがにほぼ無傷というのは効力が強すぎるような気もするのだが。
(俺が何かしたとは思ってないみたいだけど……気をつけないとな)
「それで、今日は二人してどうしたのかな?」
「えっと、月城君にこの間のお礼をしようと思って……その、デートとかは初めてでよくわからないのだけど……」
おずおずと口を開いて説明をしてくれたのは藤林さんだった。
上目遣いにこちらを見てくる彼女の頬はほのかに赤くなっており、時折恥ずかしそうに顔をうつむける。
うん、かわいい。
委員長って、こんなに美少女だっただろうか?
普段のやぼったいメガネと三つ編みを外しただけで3倍くらいは魅力的に見える。
「そうそう、たっぷりサービスしてあげるから期待しててねー」
早苗がそんなことを言って俺の腕に抱き着いてきた。
彼氏にするような気安いボディタッチに、俺の胸がドキリと跳ねる。
うん、かわいい。
この気軽に身体を触ってくるあたりが、「この娘、俺に気があるんじゃね?」とか男に勘違いさせてしまうタイプだ。
いわゆる小悪魔系というやつである。
(というか、初心な少年にそんなことをしないでくれよ。惚れてまうやろ)
「ああ……そっか、わかったぞ。さては昨日のMINEを送ってきたのは君だろ?」
俺がふと気がついて尋ねると、早苗が片目をつぶってペロリと舌を出した。
「あ、バレちゃった? だいせいかーい!」
「……早苗ってば私のスマホを勝手に使って月城君を誘ったりするんだから。本当に焦ったわよ」
「だって私は真砂君のIDを知らないんだもん。それに、お礼をしなきゃいけないのに、春歌がいつまでたってもメッセージを送れないのが悪いんでしょ? 恥ずかしがっちゃってこの子は」
「だ、だって、男の子に個人的に連絡するなんて初めてだから……」
親しげに言い合いをする春歌と早苗。
二人の姿はいかにも親しげであり、心の壁を作らない会話のやり取りから長年の付き合いを感じさせられる。
(女の子同士の友情か。見てて微笑ましいなあ)
春歌と早苗は随分と性格が異なるようだが、二人で話している姿はまるで年の近い姉妹のように親しげだった。
お互いがお互いに気を許しているのが、傍目にも伝わってくる。
微笑ましげに俺が2人を見守っていると、視線に気づいたのか早苗がクルリと回転して「バビッ!」と人差し指を立てた。
「そういうわけで、今日は2人でたっぷりとお礼をしてあげるから期待しててねっ!」
「ええと、デートというのは大げさだけど、プランは早苗と2人でちゃんと考えてきたから」
「ああ、期待してるよ。二人みたいな可愛い子と休日を過ごせるなんて、俺は本当に幸せ者だな」
「うわ……」
「うっ……」
俺の心からの言葉に、なぜか春歌と早苗がひるんだような顔になる。
「月城君ってけっこう……」
「うーん、隠れたらしだね」
いったい2人で何を話しているのだろうか?
コソコソと内緒話をしている少女達に、俺は首を傾げたのだった。




