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激闘! 退魔師試験!⑯


 人形の記憶を頼りにジャングルの中を進んでいき、たどり着いたのは十畳ほどの大きさの沼である。

 濁った水には大量の藻が浮かんでおり、水の中に生き物がいるのかどうかさえわからない。


「あれって……紫蘭ちゃんの人形だよね?」


「…………」


 そんな沼のほとりには粉々になった日本人形が散らばっていた。

 見るも無残な有様。辛うじて無事だった顔の一部から、作り物の眼球が冷たい視線をこちらに向けてくる。


「どうやら、ここに目的の怪異がいるようですね……おびき寄せましょう」


 紫蘭が両手をパンパンと打ち鳴らす。

 リズムよく、神社で柏手を打つようにして両手を合わせると……沼の中央から波紋が生じる。


『ペケ』


 奇妙な鳴き声とともに緑色の頭部が沼から現れた。

 爬虫類と人間を合わせたような顔。頭部には円形の皿がのっている。


「か、河童……!」


 カスミが顔を青ざめさせる。トラウマを刺激されたらしい。

 だが……まだ終わりではなかった。次々と同じような河童が沼の中から顔を出す。


『ペケ』


『ペケペケ』


『クケケケケ』


『ペッケー』


「……カスミさん、来ますよ」


「わ、わかった!」


 沼から出てきたのは身長1メートルに満たないサイズの小河童である。

 対して強そうには見えないが……数が多い。

 すでに10体。まだまだ沼から出てきている。


「来てください、私の人形たち!」


『カタカタカタカタッ!』


 紫蘭が手鏡をかざすと、そこから日本人形が飛び出してきた。

 現れた日本人形は7体。3体が壊されて数が減ってしまっている。


『カタカタカタッ!』


『ペケー!』


 小河童と日本人形が衝突する。

 数は小河童のほうが多いが、スピードやパワーは日本人形が上。

 日本人形は両手で包丁やナイフを持って、小河童の身体を斬り裂いていく。


「わ、私だってやる時はやるんだからねっ!」


 そして、カスミも健闘していた。

 カスミが両手で印を組んで前に突き出すと、そこから霊力の波動が撃ち出されて子河童を吹き飛ばす。

 うん、単なるお色気要員ではなかったらしい。

 一応、戦う力を持っているようだ。


『ペケー!』


 小河童が次々と数を減らしていく。

 危なげない戦いぶりである。この調子ならば、2人が勝利することが出来そうだ。


『ベケーッ!!!』


 しかし、そんな希望を打ち砕くように丸太のように太い両腕が沼の中から現れた。

 両腕が戦っていた日本人形を掴み、グシャリと力任せに潰してしまう。


「出ましたね……大河童」


 身長3メートルの体躯。筋骨隆々とした(たくま)しいボディ。

 群れを率いるボスにふさわしい威圧感は、大河童が小河童とは比べ物にならない戦闘能力を有していることを如実に伝えてくる。


『ベケーッ!!!』


 高々と吠えるだけで沼の水に大きな波紋が生じて、木々が揺れる。

 大河童が太い腕を振るうと、紫蘭が使役していた日本人形がまとめて砕け散った。


「やはり普通の人形では歯が立ちませんね。出し惜しみはしません。本気でやらせていただきます」


 紫蘭が手鏡を持った右手を大きく掲げた。

 すると鏡がひときわ強く輝き、大きな人影が出現する。


「おお!?」


 現れた『それ』を目にして、俺は思わず声を上げた。

 鏡から出てきたのは身長2メートルほどの大きさの人形である。

 艶やかな花魁の衣装を身に着けた美しい人形であったが……その袖からは左右3本ずつ、6本の腕が伸びていた。

 おまけに通常の人間とは異なる位置に関節があり、異様なほどに手足が長い。

 6本の腕はそれぞれ日本刀を握っており、不気味極まりない形状は人形本来の目的である『愛でること』を度外視されている。


「改造式退魔人形――『蜘蛛御前』!」


『御照覧アリンスー』


 それは怪異を殺すための人形。

 傀儡術の達人。人形使いである雛森紫蘭の切り札だった。


『ベケエエエエエエエエエエエエエッ!!!』


『舞ヲ踊リンスー』


 大河童が吠え、蜘蛛御前が奇妙な掛け声を上げてぶつかり合う。

 蜘蛛御前が6本の腕から斬撃を放つ。大河童が鱗で覆われた身体を斬り裂かれながらも、憤怒の形相で蜘蛛御前を殴りつける。


『御客様ノ、オ成リデアリンスー』


『ベケエエエエエエエエエエエエエッ!!!』


 両者とも傷つきながらも、一歩も引くことなく戦っていた。

 怪物同士の喰らい合い。互角の攻防が目の前で繰り広げられている。


「すごっ……! いいもの、見せてもらったぜ……!」


 俺は少し離れた場所で感嘆の声をもらす。

 同じ退魔師でも紗耶香とは随分と戦い方が違う。

 こういう戦闘法もあるのだと、教えらえれている気分である。


「人形を操るだけなら俺にだって出来なくはないけど……これほどの性能を出せるかな? いいや、無理だね」


 紫蘭の戦いぶりには一朝一夕で真似できない研鑽があった。

 俺だってゴーレムを生み出したり、操ったりするくらいはできるが……紫蘭のそれとは格が違う。

 あの蜘蛛御前という人形は特別な技術を使い、何年も何十年もかけて呪いを込めて生み出されたのだろう。

 それを紫蘭が絶妙な操作でコントロールしている。

 人形使いの一族。恐るべしだ。


『一緒ニ、踊リンスー』


『ベケエエエエエエエエエエエエエッ!!!』


「いつ、どっちが倒れてもおかしくはない……この戦い、どうやって決着がつくんだ?」


 激しさを増す戦い。

 猛獣の共食いのような戦闘はいっこうに終わる気配を見せない。

 はたして、この戦いを決定づける最後の要因はなんなのだろうか?


「ふやああああああああああああああああっ!?」


「へ……?」


 だが、そんな熾烈な戦いは唐突に終わりを迎える。

 そのきっかけとなったのは……まさかの人物。セーラー服おっぱいさん、もといセーラー服メイドさんとなっている遠藤カスミだった。


「そ、そんなところ触らないでくださあああああああい!」


「えー……やっぱりかよ……」


 その光景を見て、俺は肩を落とした。

 紫蘭の援護をしていたはずのカスミであったが……彼女は残っていた小河童に襲われていた。

 すでに身に着けていたメイド服はビリビリに破かれている。下着は着けていなかったため、肌色満載の身体がかなり際どく露出していた。

 1メートルほどのサイズの小河童がカスミに抱き着き、胸に顔を埋めている。別の小河童が水かきのついた手で尻をペシペシ叩いている。

 何匹もの小河童にもまとわりつかれ、よってたかって身体を弄ばれている。


「うん……やっぱり怪異を魅了するフェロモンが出てるよな? どんな運命なんだ、この子は」


 よくぞまあ、こんなセクハラされまくり系女子がこれまで生きのびてこれたものである。

 凌辱系エロゲのような事件に巻き込まれて、とんでもないラストを迎えていないのが奇跡のように思えた。


『ベケッ!?』


 だが……そんなカスミの姿に色めき立ったのは大河童である。

 強敵とぶつかり合っていたはずの大河童が鼻の下を伸ばし、カスミの艶姿に見入っていた。

 恐ろしげな顔面が好色に緩んでいた。まさにエロ河童である。


「今です! 蜘蛛御前!」


『御客様ノ、オ帰リデアリンスー』


『ベケッ!?』


 そんな隙だらけの姿を、紫蘭も蜘蛛御前も見逃さなかった。

 だらしなく緩んだ大河童の身体に6本の刀が突き刺さる。


『ベ、ケ……』


 猛威を振るっていた大河童があっさりと、あっけないほど簡単に倒れていく。


 大河童と蜘蛛御前による死闘。

 決まり手は……まさかのエロトラップなのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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