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激闘! 退魔師試験!⑩


 無人島らしからぬしっかりとした朝食を摂りながら、俺は紫蘭とセーラー服おっぱいさんから事情を聞いた。

 彼女達が一緒に行動していたことに深い意味はない。ただ、島に落とされた時に偶然近くにいて、一緒に行動するようになっただけである。


 俺にとってこの試験は苦にもならない時間つぶしだったが……大多数の受験生にとってはそうではなかったらしい。

 突如として見知らぬ無人島に放り出されて自給自足を強いられ、おまけにいつ妖怪変化が襲ってくるともわからない。

 さらにメダルを狙った他の退魔師からも襲われる危険性があるとなれば、肉体だけではなく神経もまいってしまうだろう。


「島にやってきてワケもわからず、すぐにお化けに襲われて……紫蘭ちゃんが助けてくれなかったら、どうなることかと思いましたよう……」


 セーラー服おっぱいさん……改めて、遠藤カスミが涙目で肩を震わせた。

 自己紹介してわかったことだが、カスミは退魔師の家系の人間ではなく一般人出身らしい。

 幽霊が見える体質のせいで人外にまとわりつかれて困っており、近所の神社に相談したところ、退魔師の才能を見出された。

 最初は自分の身を守るために退魔師として修行してきたのだが……術を覚えて力を付けていくうちに怪異に苦しめられている人達を救いたいと思うようになり、退魔師試験を受けることを決意したそうだ。


「犬の怪異に捕まり、全身を舐められているカスミさんを見つけた時にはどうなることかと思いました。とても……その、いやらしい声を出していましたし、見なかったことにした方が良いのかと悩んだのですが……」


「ちょ……紫蘭ちゃん! それは言わない約束でしょう!?」


 頬を赤らめた紫蘭の発言に、カスミが両手をブンブンと振った。


 なるほど、犬の怪異に舐めまわされて喘いでいるところを紫蘭に助けられたというわけか。

 さすがはセーラー服おっぱいさん。見えないところでも良い活躍をしている。

 妖怪専門のフェロモンでも出ているのではないかと疑わしくなるほどだ。


「そういう経緯で私とカスミさんは一緒に行動していたのですが……今朝、野営のために張っていた結界が強力な怪異に破られてしまい、敗走を余儀なくされたのです。怪異から逃げているうちにこちらの屋敷を発見して、思わず近づいたところを警備の式神に襲われてしまいました」


「うー……犬の次はネコさんに襲われて、もうダメかと思いましたよう……」


「猫じゃなくてライオンだよ……なるほどね、苦労したんだな」


 俺は2人に同情の目を向けた。

 男である俺と違って2人は女性。身だしなみだって気になるだろうし、さぞや辛かったに違いない。


「この家で良ければ好きに使ってもらって構わないよ。どうせ部屋も余ってるからね」


「よろしいのですか? 私達に手を貸しても貴方に利はないと思うのですが……」


「可愛い女の子と共同生活できるのは立派な役得だろう? どうせあと2日きりのことだし、そんなに気にするなよ」


 申し訳なさそうな顔をしている紫蘭に軽く手を振り、彼女達に滞在の許可を出した。

 先ほどは素晴らしいものを見せて……いや、俺が作ったゴーレムが迷惑をかけてしまったことだし、空き部屋に泊まらせるくらい何て事はないだろう。


「ところで……君らはメダル集めはやっているのか? 俺はあまり興味はないから3枚しか持ってないんだけど」


 俺は昨日、遭遇した妖怪変化を倒して手に入れたメダルをテーブルに置く。

 どれも『1/100』のメダル。ワンパンで倒せるような相手ばかりだった。

 俺が置いたメダルを見て、紫蘭もコクリと頷く。


「私達も何枚か所有しています。100枚には程遠いのですが……おそらく、これが『甲種』認定を受けるための条件なのだと思います」


「俺も同意見だ。とは言っても、俺のように『甲種』になることに興味のない奴には関係ないだろうが」


 俺は3枚のメダルを指ではじき、紫蘭の方に移動させる。


「欲しければあげるよ。どうせ俺には必要ないものだからね」


「……よろしいのですか? こちらとしては願ったりなのですが」


「構わないよ……というか、メダルを欲しがるということは君は『甲種』を狙っているんだな? 意外と野心家だったりするのか?」


 紫蘭は見るからに大人しそうな容貌をしており、そこまで上昇志向が強い人間には見えない。

 しかし、メダルを欲しているということは上を目指しているのだろう。人は見かけによらないものである。


「我が家は明治時代から続いている退魔師の家系ですから。一族から高位の退魔師が輩出されれば、それだけで家にとって名誉なことです。一般の家系から退魔師になった方々には馴染みはないと思いますが……退魔師の一族にとって、御家の名誉は命よりも大切なものなのですよ」


「ふうん? そういうものかな?」


「私は別に要りません! というか、『乙種』の認定もいらないので早く外に出たいですっ!」


 カスミがビシリと手を挙げた。

 一般人出身である彼女にとっても、『甲種』の認定はどうでも良いことのようだ。


「退魔師の家系にとっては重要なこと……ということは、他にも『甲種』認定を狙っている受験生はいるのかな?」


「おそらくは。強い術者がいるほど御家の地位や発言権も増しますから、受験生の少なくとも半数以上は積極的にメダルを集めているはずです」


「なるほどね……となると、やはり争奪戦になるか。メダルが全部で何枚あるかは知らないけど、全員が『甲種』になれるほどにはないだろうね」


「はい……とはいえ、私も譲るつもりはありません。雛森家の名誉がかかっていますので」


 はかなげな美貌の巫女がまっすぐな瞳で宣言する。

 必ず、争奪戦に勝利して『甲種』認定を得てみせると。

 俺にとってはどうでも良い試験だが……紫蘭にとってはそうではないようだ。確固たる意志と信念を抱いて参加しているらしい。


「お家の名誉、伝統に歴史……俺とは背負っている物が違うということか」


 その感情は理解しがたいものだったが……それでも、大切な何かのために頑張っている人間には好感が持てる。

 拠点や食料くらいは提供しても良いと思えるくらいには。


「あのー……さっき脱衣所から見えたんですけど、この家ってお風呂がありますよね?」


 紫蘭の横に座っているカスミが控えめに訪ねてきた。


「あるけど?」


「だったら、貸してもらえませんか? 汗とか泥とかで身体が汚れちゃって……お化けに舐めまわされたりもしましたし」


「ああ……河童に乳も揉まれていたな」


 俺は苦笑して、カスミに頷きかける。


「お湯を沸かしてあげるから、2人とも入っていくといい。メダル集めはそれからでも遅くはないだろう?」


「やったあ! 紫蘭ちゃん、お風呂に入れるよ!?」


「カスミさん……そうですね、昨晩は警戒して眠れませんでしたし、少しだけ休ませていただきましょう。この御恩は必ず返させていただきます」


 カスミに抱き着かれながら、紫蘭がちゃっかりとテーブルの上のメダルを巫女装束の袖にしまう。

 はかなげな容姿とは裏腹に、意外としたたかな娘さんなのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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