19.五日目は教会でセーブを⑥
そして、妹の小言をもらうこと30分。
餃子をたらふく腹に入れた俺は自室に戻ってクエストボードを開いた。
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緊急クエスト
・黄昏の襲撃者を撃退せよ CLEAR!
夕闇の中に現れた襲撃者の正体は吸血鬼の眷族だった。
はたして吸血鬼の目的は何だったのか?
真実は夜の訪れとともに闇の中へと消えてしまった……
報酬:スキル【聖属性攻撃Lv1】
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「なんというか……結局なにもわからず仕舞いなんだな。後味が悪い……」
俺はむうっと表情をしかめた。
クエストの説明文にはどうして自分が『レッサーヴァンパイア』に襲われたのか、何も記載されていなかった。
理由もわからず向けられた悪意に、消化の悪いものを胃に詰め込んだような気分の悪さに襲われる。
ちなみに、ワールドクエストには『ヴァンパイアを倒せ』というクエストがあったものの、これは達成したことにはなっていなかった。
どうやらレッサーヴァンパイアはワールドクエストにおける『ヴァンパイア』とは別物として扱われているようである。
「とりあえず報酬を確認してみるか」
さっそく手に入れたばかりのスキルを発動させてみた。
【聖属性攻撃】は物理攻撃に『聖』の属性を付与するスキルのようだ。
俺の両腕をモヤのようにうっすらとした白い光が包み込む。
「マンガに出てくる『オーラ』とか『気』とかみたいだな。これが聖属性なのか?」
ぶんっ、とパンチをすると拳の動きに合わせて光の流線が走った。
聖属性というと、レッサーヴァンパイアを倒した聖水と同じ効果のはずだ。
もしも万が一、億が一にもまたアレと遭遇することになったときには役立ちそうなスキルである。
「……できれば使う機会がないといいんだけどな。また吸血鬼と遭遇とかやめてもらいたいもんだ」
ポツリとつぶやきながら、なんとなくであったがこのセリフがフラグになるような気がしていた。
俺はぶんぶんと首を振り、頭によぎった嫌すぎる未来予知を消し去った。
「……まあいい、いいとしておこう。何はともあれ、教会でのクエストは達成。明日はどうしようかな?」
今日一日で【身体強化】と【精神強化】をLv5にまで上昇させ、さらにスキル【祈祷Lv1】と【聖属性攻撃Lv1】を修得することに成功した。
おまけに、この世界には俺の常識では測ることができない怪物が存在することを身をもって痛感させられた。
「……前に進んでいるのか、後ろに下がっているのか、わかったもんじゃないな。いったいいつからこの国はこんなにファンタジーになったんだか」
ゴールデンウィークが始まってから5日間で、随分と自分の常識が塗り替えられてしまった気がする。
この調子だと、残る2日間の休日に何が起こるのかわかったものではなかった。
「あと2日で世界の終わりとか始まるんじゃないよな? ああ、ダメだ。こういうのを口にするとフラグになっちまう」
ガリガリと頭を掻きつつ、もう今日は風呂に入って寝てしまうことにした。
あの吸血鬼もどきのせいで余計な体力と気力を使ってしまい、脳と身体が休息を求めている。
自分がどうしてレッサーヴァンパイアに襲われたのかとか、奴とあの教会になにか関わりがあったのかとか、そんなものを考える気にもならない。
俺は答えの出ない思考を打ち切り、着替えを取り出そうとしてタンスに向かった。
「ん?」
……と、ちょうどそのタイミングで机の上のスマホが振動した。
教会に入る時にバイブレーションモードにしたのだが、そのままになっていたようである。
どうせ広告だろうと画面を確認すると、MINEに着信があったみたいだ。
メッセージの送り主は……
「『藤林春歌』……? ん、藤林さん!?」
それはゴールデンウィークの初日に顔を合わせたクラス委員の名前だった。
どうして俺のIDを知っているのだと疑問がよぎったが、すぐにクラスのグループに登録していることを思い出す。
連絡網としてグループマインにメッセージが送られることはしばしばだったが、春歌から個人的な連絡を受けるのは初めてのことだった。
『明日か明後日、どっちか空いてる?』
「はあ? なんでまた俺の予定を……」
俺は半分パニックになりながら、『どっちもヒマ』と短く返信した。
もっと書かなければならないことがある気もしたのだが、彼女いない歴=年齢の俺に突発的な女子からの連絡に冷静に対処する術はなかった。
『だったら、明日一緒に出かけようよ』
「は?」
『約束通りデートしてあげる』
「はあ!?」
『いっぱいサービスしてあげるから、楽しみにしててねー♡』
「ハアアアアアアッ!?」
立て続けに送られてくるメッセージ。
その終わりは、ニコニコと笑いながらハートを飛ばしてくるネコのスタンプで締められている。
俺はその文面に記されたあまりの内容に、思わず絶叫を上げてしまう。
月城真砂。16歳。高校二年生。
ゴールデンウィーク6日目にして、生まれて初めて女の子とデートをすることになったのであった。
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