激闘! 退魔師試験!③
「なっ……!」
「妖怪……!?」
突然、上に現れた巨人を見て受験生の数人が立ち上がった。
中には、懐から御札のようなものを取り出している受験生もいる。
巨人を迎撃するべく鋭く上を睨みつける受験生であったが……彼らが行動に移すよりも先に、試験官の声が響く。
「はい。席を立ちあがった受験生は不正行為によって退場になります。直ちに試験会場から出て行ってください」
「は……?」
立ち上がった受験生が目をパチクリとさせるが……それを見て、俺を含む他の受験生は筆記試験の本当の狙いを悟った。
(……そういうことね。度胸試しか)
試験官に聞こえないようにボソリとつぶやく。
冷静に気配を探ってみると、スタジアムの上から見下ろしている巨人――袈裟を着た大入道が実体ではなく幻か何かであるとわかった。
つまり、突然の事態に慌てることなく、冷静に状況を見定めることができるかどうかが試されているわけだ。
「そんな……!」
「まだ1問も解いてないのに、あんまりだ!」
「試験を不合格だなんて……父上に怒られてしまう!」
受験生から嘆きの声が上がる。
俺にとってこの試験は深い意味のない記念受験のようなもの。どうしても合格しなくてはいけない理由はない。
だが……霊能力者の家系の人間にはそれなりに意味のあることのようだ。
「勘違いしないでください。筆記試験に不合格でも『結社』に登録できないわけではありません」
抗議する受験生に試験官が口を開く。
「ここにいる皆さんは全員が知っていると思いますが……『結社』に所属している退魔師は『甲乙丙丁』の4つのランクに分けられています。最下級の『丁』の加入条件は人外を見ることができること。スタジアムの周囲に張られた人払いの結界を超えることができた時点で条件は満たしています」
「…………」
うん。俺は知らなかったのだが。ランク分けのことも、スタジアムに結界が張られていたことも。
どうでもいいが……甲乙丙丁ってわかりにくいランク分けだな。1級、2級とかABC表記にしてくれないだろうか?
「はい、退場を指示された方は速やかに外に出てください。他の方は筆記試験を再開してください」
おっと……俺もテストに集中しなくては。
改めて試験用紙に視線を落とすと、意外なことにそこまで難しい問題ではなかった。
事前に赤本で勉強していた内容で十分にカバーできている。オカルトに精通している人間であれば、対策なしでも合格できるかもしれない。
「うっ……!」
「いやっ!」
「気持ち悪っ……!」
「ん?」
試験会場のあちこちから上がる悲鳴の声。
カンニングと勘違いされないように周囲を窺うと、頭上の巨人以外にも異形の怪物が出現していた。
それは身長2メートルの赤鬼であったり、首が異様に長い女であったり、無数の目玉がついた肉塊であったり、人間を丸のみにできそうな大虎であったり……。
様々な怪物が試験会場となったサッカーグラウンドに出現しており、筆記試験を受けている受験生にちょっかいをかけていた。
脅しつけるように机の前で仁王立ちしていたり、肩の上に乗ってケラケラと笑っていたり、妨害の方法はさまざまである。
受験生の邪魔をしている妖怪変化は数こそ多いものの、頭上の巨人と同じく実体は感じられない。どうやら、これらも幻影のようだ。
「いやあ……やめてえ……」
『ペケケケケケッ!』
俺の隣に座っている女子がくぐもった悲鳴を上げていた。
同年代くらいでセーラー服を着た女子だったが……どうやら、河童に後ろから抱きしめられて胸を揉まれまくっている。
これはあくまでも幻であるため、触られたとしても感触はないだろうが……それでも、不愉快であることには違いあるまい。
(なるほど……この妨害に負けないように試験を解けということだな)
この試験の本当の目的は知識を試すことではない。異常な事態に対処する精神力を試しているのだ。
妖怪変化に妨害を受けながら簡単なテスト問題を冷静に解く。これにより、退魔師として怪異に立ち向かっていくことができるかどうかを試験しているに違いない。
(まあ、俺には関係ないのだが)
広々としたサッカーコートには無数の妖怪変化が跳梁跋扈しているが、俺には全く近寄ってこなかった。
正確には俺に対しても妨害しようとしている。
だが……俺が座っている席の半径1メートルほどの距離に近づくと、妖怪は途端に消滅してしまうのだ。
魔法や術を使っているわけではない。自分でも何でこうなっているのかよくわからないのだが。
ちなみに、妖怪の嫌がらせを阻止しているのは俺だけではない。
少し離れた席に座っている何人かの受験生……俺が試験開始前に目を付けていた3人はしっかりと妖怪の妨害を防いでいた。
まず、ブレザー姿の美少年。
少年の背中から2メートルほどの龍のような生き物が現れており、近づいてくる妖怪変化を撃退していた。
白い龍からは強いオーラが放たれている。こんなものを使役しながら淡々と試験を受けているのだから、少年の実力の高さが窺える。
続いて、巫女姿のはかなげな少女。
彼女の周囲にはドーム状のバリアーのようなものが展開しており、妖怪変化の接近を防いでいる。
結界に守られた状態で静々と問題を解く姿は清楚そのもの。まるで一枚の絵のように美しい姿だった。
最後は南国っぽいお面を被った謎の女性。
謎の民族衣装を着た彼女の周りにも無数の妖怪が集まっており、牙を剥いて威嚇したり、身体に触れて気を引こうとしている。
だが……彼女はそれに対してまるで反応する様子はない。
何をされても無反応で鉛筆を動かしており、他の受験生のように悲鳴を漏らしたり、驚いて動揺したりもしていない。
「あうう……ワカラナイ。日本語、難しいヨ……」
だが……普通にテスト問題に苦戦していた。
どうやら、見た目と服装通り日本人ではないようだ。
日本語で書かれたテスト問題に頭を抱えており、妖怪変化とは関係なく項垂れていた。
(おっと……俺も集中しないとな)
他の受験生を気にしている場合ではない。
俺もそろそろ、テスト問題を解かなくては。
テスト用紙に向き直った俺の隣の席では、先ほどと変わらず女性受験者が河童のセクハラに悲鳴を上げている。
「やあ……んっ……スカート覗かないでえ……」
「…………」
「ダメえ、そんなところに手を入れないでくださあい……」
いかん。
妖怪変化よりもこっちに気を取られてしまいそうだ。
隣から聞こえてくる艶めかしい声に集中力がゴリゴリと削られる。どうしても意識が持っていかれてしまい、テスト問題が頭に入ってこなかった。
「ああん、いやあん……」
(何という罠だ……これが退魔師試験か……!)
俺は見当違いなことで戦慄に背筋を震わせながら、鉛筆を動かしてどうにかテスト用紙を埋めていくのであった。
本作のコミカライズが開始いたしました!
コミカライズ版のタイトルは『クエスト無双~俺だけ使えるチートスキル~』になります。
「booklista STUDIO」というサイトで公開していますので、良かったら読んでみてください。
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