激闘! 退魔師試験!①
気づいている方もいるかもしれませんが……この作品、コミカライズしてたりして。
詳細は後書きで↓↓↓↓↓
冬が迫り、町に寒々しいが吹くようになった、とある日の出来事である。
その日、俺は珍しい人に呼び出されて駅前にある喫茶店にいた。
スタ〇やコ〇ダのようなチェーン店ではない。今時は珍しい、個人経営の純喫茶である。
「いらっしゃい」
カランコロンとドアベルが鳴って、カウンターの向こうにいる年配のマスターが軽く会釈をしてくる。
店内に客の姿はほとんどない。すぐに俺を呼び出した探し人は見つかった。
「月城さん、こちらです」
「あ、どうも」
奥にあるテーブル席に座っているのは黒いスーツ姿の女性。
それなりに顔立ちは整っているものの、全体的に地味めで記憶に残りづらいタイプ。
ひょっとしたら……それは意図してそういう印象を相手に与えるように服装や言動に気を遣っているのかもしれない。
「お久しぶりですね……小野さん」
彼女の名前は小野。
日本の退魔師を統括する『結社』のエージェントである。
相棒の立花と組んで様々な超常現象を調査しており、俺とも何度か怪異に立ち向かったことがあった。
ちなみに、テーブルに座っているのは小野一人。相棒の立花の姿は見えない。
「今日は1人なんですね。珍しい」
「月白さんはすでに立花が式神であると見抜いているでしょう? タネが割れている以上、隠れ蓑を使う意味はありません」
そうなのだ。
相棒として行動している立花の正体は小野が使役している式神であり、おまけに使い捨てで何人も同時に召喚したりできるらしい。
あえて自分の印象を薄くして、式神の陰に隠れる。
なるほど。陰陽師といい呪術師といい、相手を騙してなんぼの業界のようだ。
「最後にあったのは、月城さんが私の胸を揉んだときですね? あの節はお世話になりました」
「うそおっ!? そんなことあったっけ!?」
まったく記憶になかった。
これも小野の印象操作なのだろうか。胸を触った記憶すらも消し去ってしまえるとは、油断ならない相手である。
「油断ならないのは貴方です。親しくもない女性の胸や尻を触るのは普通に犯罪だと覚えておいてください。忘れているかもしれませんが……私は一応、警察官ですよ?」
「……すいません」
お説教をされてしまった。
ひょっとして、俺は叱られるために呼び出されてしまったのだろうか?
「さて……それはともかくとして、本題に入りましょう」
「あ、良かった。ちゃんとした用事があったんだな……」
「当然です。私も説教のために男子高校生とお茶をするほど暇ではありませんよ」
小野が視線で座るように求めてくる。
俺は小野の向かいの席に座り、カウンターの向こうにいるマスターにカフェオレを注文した。
「さて……今日、貴方に来ていただいたのは『結社』の入職試験に参加していただきたかったからです」
「入職って……え? 俺って、結社に就職するんだっけ? いつからそんな話に?」
俺は驚いて目を瞬かせる。
何度か結社と一緒に仕事をしたことはあるのだが……厳密に言えば、俺は結社のメンバーではない。
親しく付き合っている先輩――雪ノ下沙耶香を通じて間接的に付き合いがあるくらいである。
「はい。月城さんは雪ノ下家の預かりになっており、『結社』に登録された術者ではありません。しかし、それでは今後不自由があるかもしれませんので、今回の試験を機に正式に『結社』に登録して欲しいのです」
「登録ねえ。あんまり気が進まないんだけどな……」
結社が信用できないわけではない。
結社は陰陽寮という平安時代の公共機関を前身とする組織であり、現在は警察をはじめとした表の組織にも深く食い込んでいる。
紗耶香と交流を持っている相手でもあるし、それなりに信用できるはず。
「ただ……正直、あんまり関わり合いになりたくないなあ。秘密結社に憧れるような年齢でもないし。下手に登録したらヤバい仕事を押しつけられそうな気がする」
俺は本音を語って、肩をすくめた。
結社が信用できないわけではないのだが……結社に所属することで、危険に巻き込まれるんじゃないかと懸念がある。
おかしな事件に巻き込まれないとも限らないし、できれば距離を取りたい相手だった。
「月白さん……どの口で言っているんですか?」
「へ?」
「結社に所属しようとしまいと、貴方は様々な事件に巻き込まれているではありませんか。聞いていますよ……先日は異端審問会とも揉めたそうですね?」
「…………」
小野の言葉に反論できずに黙り込む。
言われてみれば……結社とはかかわりなく、俺は様々な事件に巻き込まれていた。
クエストボードの能力を授かって以来、吸血鬼と戦ったり、昏睡した友人を助けるために夢の世界に行ったり……この間など、石仮面を破壊するために深夜のビルに不法侵入をした。
おまけに、その事件がきっかけとなってイタリアからやってきた『異端審問会』という組織と揉めることになり……まあ、色々と面倒ごとに振り回されたばかりである。
「言っておきますが……結社のエージェントになれば、きちんと報酬も出ますよ? 仮に月城さんが偶発的におかしな事件に巻き込まれたとして、その事件を解決に導いたことを上層部に報告すれば、後から報酬が支払われます」
「…………」
つまり、これまでボランティアでやっていたことに給料が出るということか。
それはかなり魅力的な気がする。
「もちろん、仕事を依頼することもありますが……能力以上の仕事を無理やり押しつけることはありません。学生や本業の片手間で結社の仕事をしている方も多いですから。例えば、この店のマスターも結社に所属しているエージェントですが、普段はコーヒーを淹れて生活しています」
「え、そうなの?」
マスターの方を見ると、ロマンスグレーのヒゲを生やした渋めの中年男性が頷いた。
やけに客が少ないと思ったら……この話し合いのために、わざわざ貸し切りにしてくれていたらしい。
「退魔師は命がけの仕事ですから、もちろん報酬は大きいです。上位の退魔師ともなれば億単位の年収は珍しくはありませんし、危険の少ない後方支援の仕事を担当している者でも一流企業の年収ほどは稼げます。高校生のアルバイトとしては十分すぎるかと思いますが?」
「む……」
小野がさらに畳みかけてきて、心が傾いていく。
別に金に困っているわけではないが……月城家の両親は海外で働いており、いつ音信不通にならないとも限らない人間だ。
いざという時に使える金が多いに越したことはない。
「それに……退魔師は常に人手不足ですから、よほどのことがない限り『結社』をクビになることはありませんし、地域とのつながりも強いので地元企業への就職にも有利です。とりあえず資格だけでもとっておけば、面接のときに有利になると思うのですが……」
「いや、そんな英検みたいな感覚で受けていいものなのか?」
「別に問題ありません。ただの事実です」
小野は淡々とした口調。
嘘をついている様子もない。
俺は「うーん」と唸って考え込んだ。
「ちなみに……俺が試験を受けることについて、紗耶香さんは何か言っているのかな?」
「貴方は雪乃下家の傘下の人間ということになっていますので、もちろん、彼女にも事前に話を通しています。『真砂君の意見を尊重する』と言っていましたよ?」
「そうですか……」
これまで、おかしな事件に遭った時には最終的に雪ノ下家を頼ってきたのだが……そろそろ、巣立つ時がきたのかもしれない。
ちょっとだけ寂しいような気もするのだが……いつまでも紗耶香さんにおんぶにだっこされて胸を揉んでばかりもいられないだろう。
「わかりました。受けるだけ試験を受けてみます。正直……合格する自信はありませんけど」
「月城さんだったら問題はありませんよ。では、近日中に案内を送らせていただきます」
小野はどこか肩の荷が下りたという表情でコーヒーカップに口をつけた。
ひょっとしたら、俺に試験を受けさせるように圧力でもかかっていたのかもしれない。
話が一段落したのを待っていたのだろうか……マスターがカフェオレを運んできてくれる。
「お、美味い」
カフェオレはほどよい甘みがあって、なかなかに美味である。
しばしコーヒーを楽しむ時間が続いたのだが……ふと、思い出したように小野が口を開く。
「そういえば……試験には筆記試験もありますよ。参考書はお持ちじゃないですよね?」
「え、テストがあるのか?」
思わぬ言葉にカフェオレを噴き出しそうになる。
来年は大学受験だというのに……まさか、このタイミングでテストを受けなくてはいけないのか?
「はい。とりあえず……こちらの内容を覚えておけば問題ありません。試験の前に目を通していてください」
「わっ!?」
小野がドシンと音を鳴らして、テーブルの上に分厚い本を置いた。
真っ赤な装丁の参考書のタイトルには『難関 退魔師試験』とデカデカと書かれている。
月城真砂。高校2年生。
大学受験に先んじて、謎の結社の登用試験に臨むことになったのだった。
本作、『学園クエスト』がコミカライズを開始しました!
事前予告なしでいきなり宣伝。別にサプライズとかじゃなくて、予定よりも大幅に巻いて開始したので予告する暇がなかったのです!
コミカライズ版のタイトルは『クエスト無双~俺だけ使えるチートスキル~』になります。
「booklista STUDIO」というサイトで公開していますので、良かったら読んでみてください。
https://studio.booklista.co.jp/




