ヒジリの伝説 ヴァンプの仮面⑧
『レイドール聖剣戦記』の2巻が発売いたしました!
書籍版では原作にはなかったエピソードを多数追加しています。
レイドールとヒロイン三人娘(ネイミリア、セイリア、メルティナ)のちょっとエッチな朝の風景。
主人公不在の王都でのセイリアの冒険者生活と女子会について。
苦労性の少年――スヴェンとヤンデレお姉ちゃんとのイチャイチャ入浴シーンなどなど。
Web版を読んだ方でも改めて楽しめる内容になっておりますので、どうぞよろしくお願いします!
「はい、お仕事完了! こっちは終わったけど、聖はどうしたかな?」
エントランスホールに現れたレッサーヴァンパイアを片付けて、俺は天井を見上げた。
スキルを使って聖の気配を探ると……彼女は事前に言っていたように上の階を探索していた。敵と交戦している様子もなく、とりあえず無事のようである。
「ん……何だ、これ?」
だが……気配察知のスキルを発動したことで気がついてしまう。
聖がいる上の階層には吸血鬼らしき存在がほとんどいない。彼らが固まっているのはむしろ下。俺がいる1階よりもさらに下にある地下だった。
「おいおい……何が『吸血鬼と煙は高いところが好き』だよ。完全に的を外してんじゃねえか」
それを言うなら『馬鹿と煙は高いところが好き』。そして、馬鹿は朱薔薇聖だ。
「……敵は地下室にいるっぽいな。とりあえず、様子だけでも見てこようか?」
いずれは上にいる聖も気づいてやってくるだろうが……わざわざ呼びに行くのも面倒である。アホの子はそのままバターになるまで回っていろ。
後でテレパシー的な力を使って呼び出しておけばいいだろう。
「地下室へは……へえ、エレベーターにカードキーを通さないといけないようになっているのか。吸血鬼のくせにハイテクなセキュリティを使ってやがる」
とはいえ……そんなセキュリティは俺の前では無意味である。
俺はエレベーターに入り、財布から近所にあるスーパーのポイントカードを取り出した。
ポイントカードを階層ボタンの下にあるカードリーダーに通すと……液晶に『OK』とアルファベットが表示され、エレベーターは地下に向かって下りていく。
スキルの力でエレベーターの内部を魔力でいじくり、機械に誤作動を起こさせたのである。
エレベーターはまっすぐ下に降りていく。
1分ほどかけて目的の階層に到着して扉が開くと、目の前に一切の光のない真っ暗な暗い廊下が現れる。
「へえ……なかなか雰囲気があるじゃないか。まるで吸血鬼の住処だな」
『まるで』ではなく、実際に吸血鬼の住処である。
廊下は真っ暗だが、俺にとっては別に苦にもならない。迷うことなく進んでいき……その部屋に到着した。
廊下の奥にあったのは金属製の扉。まるで倉庫の入口のように頑丈な横開きの二枚扉である。
「ここだな……さあ、かくれんぼの時間はお終いだ。ボスキャラのツラでも拝ませてもらおうか?」
「ギギギギッ……」と鈍い音を鳴らして扉を開く。鍵はかかっていなかった。
廊下と同じく真っ暗な部屋を見回すと、広い部屋の中には抱えるほどのサイズの木箱が大量に積まれている。
「む……?」
俺は近くに置いてあった木箱を開けてみることにした。釘付けされて閉じられた蓋を腕力で強引にこじ開ける。
開かれた木箱の中に入っていたのは……
「うっわ……本当に石仮面が出てきたよ」
某・有名少年マンガに出てくる呪われたアイテム。吸血鬼を生み出すことができる古代の秘宝……石仮面だった。
石仮面のデザインはマンガそのまま。もう訴えられよと言わんばかりのパクリっぷりである。
「違法コピー商品だ……著作権の侵害……いや、販売しなければ問題ないのか?」
というか……聖の説明を聞いて問題のアイテムは一品ものだと思っていたのだが、箱いっぱいに石仮面が詰まっている。
この部屋にある木箱全てに石仮面が入っているのなら……千個以上の石仮面があるということになってしまう。
「ん……この材質は……?」
俺は木箱に入っていた白い仮面を手に取って、ふと気がつく。
材質になっているのは白い石……というよりも、『粉』のようなものだった。
石膏のような粉を固めて石のようにして仮面を作っているように見えるが……材料になっている粉が妙に気になる。
「この匂い……石膏じゃないな。妙に鼻に突きやがるし、もしかして薬物的なものなのか……?」
「御名答だよ、侵入者君」
「む……!」
「ガラガラ」と音が鳴り、部屋の奥にあったもう1つの扉が開かれた。
開け放たれた扉の向こうに立っていたのは、高そうなスーツに身を包んだ壮年の男。目鼻の彫りが深くて日本人ではないことが一目でわかる。
男の背後にはそれぞれ屈強そうな男が十人以上は立っていた。気配からして彼らもレッサーヴァンパイアだろう。
「フッフッフ……よくここまでたどり着いたと褒めてやりたいところですね。しかし、それを見てしまったからには生きて返すことはできませんねえ」
「へえ、やけにボスっぽい雰囲気があるじゃないか。アンタがひょっとして……」
「そう……私の名前はアーノルド・ブルーブラッド! 吸血鬼の大貴族……いや、いずれは王となり、この世に吸血鬼の王国を作り出す男ですよ!」
大勢の部下を引きつれた外国人男性……ブルーブラッドは芝居がかった動作で右手を掲げ、そんなふうに宣言したのである。




