ヒジリの伝説 ヴァンプの仮面③
「フウ……危うく溺れるところでした。可愛い後輩をお風呂に沈めようとするとか、先輩は鬼ですか?」
「アホなことを言うお前が悪い。人の入浴を邪魔して、大好きなジョ〇ョネタをぶっこんできただけじゃねえか」
風呂から上がり……場所は変わって俺の部屋。
ベッドに胡坐をかいて座った俺の前には、聖がクッションの上に座って濡れたおかっぱ頭をバスタオルで拭いている。
俺がジャージを着ているのに対して、聖は下着の上にサイズの大きなワイシャツを羽織っている。
どうでもいいが……それは俺のシャツだ。勝手にパジャマにするんじゃない。
「いいじゃないですか。こういう格好が男の人は好きなのでしょう? ちょっと大きめなサイズの服に包まれた女性……袖で隠れた手や裾からはみ出る太腿に興奮して、男性は種付けセックスをしたくなると女性ファッション誌に書いてありました」
「男に対するイメージが歪みまくっている! どこのファッション誌だ、そんな邪悪な思想を広めているのは!?」
女性誌の方が男性向けの雑誌よりもエッチな内容が書いてあると聞いたことがあるが、そんなレベルじゃなかった。
種付けセックスなんて卑猥な単語を使っている邪悪な雑誌は禁書にしてしまえ。編集者も地面に埋めろ。焚書坑儒だ。
「そんなことよりも……早く真面目な話の続きをしませんか? 先程、オフロでも話した『石仮面』についてです」
「は? アレってネタじゃなかったのか?」
てっきりくだらないジョークを言って揶揄うために風呂場に突入してきたと思ったのだが……まさか、人間を吸血鬼にするという石仮面の話は本当だったのだろうか?
「当たり前ではないですか。これが冗談を言っている顔に見えますか?」
「顔というか……お前の存在そのものが冗談みたいなものだろうが。日頃の行いを思い出してみやがれ」
「フウ……先輩もお茶目さんですね。こんな真面目な話をしているときにジョ〇ョとか言って脱線するだなんて。よいですか……石仮面は古代の叡智によって生み出された神器で、本当に危険極まりないものなんですよ?」
「違う、現代のマンガの知識だろうが。危険って……吸血鬼は血を吸ったりして増えるんだろ? 何度か戦ったから知ってるよ」
「違います。先輩がこれまで戦ってきた吸血鬼は父がそうであったような純血種。それ以外は『傀儡』と『劣化種』です」
聖は水気を取ったおかっぱ頭をブンブンと左右に振った。
まるで水浴び直後の犬のような仕草だが……動いた拍子にワイシャツから胸チラしている。どうやらノーブラだったらしい。白いまな板の上に載った小さなさくらんぼが見え隠れする。
アホの後輩の貧乳になど興味はない……と言いたいところだが、ついつい視線が引きつけられてしまう自分が憎い。
「『傀儡』は吸血鬼に血を吸われて操られている人間。人間を超えた身体能力を持っていますが、支配している吸血鬼が倒されれば元の人間に戻ります。『劣化種』は吸血鬼の力を与えられて変異した人間。マンガや伝説にある『人間から吸血鬼になった者』というのは劣化種のことを指します。どちらも純粋な吸血鬼には及ばない。それは直に戦った先輩だったらわかるはずです」
「まあ、な。強かったよ。本物の吸血鬼は」
レッサーヴァンパイアはわりと簡単に倒せたが……夏休みに戦った純血種は比べ物にならない強さだった。
「ちなみに、私は人間と吸血鬼のハーフ。もちろんですが純血種には及びません。純血種の吸血鬼は『神』によって直接生み出された存在で、倒されて減ることはあっても増えることはありません。純血種同士では子供も作れませんしね」
「…………」
「さて……ここで問題です、もしも純血種の吸血鬼を生み出すアイテムが存在するとしたら、どうでしょう。それがどれほど危険な物かわかりますよね?」
「……それが石仮面というわけか? 本当にネタじゃなかったんだな」
てっきりいつもと同じく、聖の暴走だと思っていたのだが……本当に石仮面というものが存在するらしい。
「……誰がそんな物騒な物を作ったんだよ。メキシコに吹く熱い風の人達か?」
「正確なことはわかっていませんが……一説には、石仮面を作ったのは中世の魔術師であると言われています。『魔女狩り』による迫害を受けたその魔術師が、教会や異端審問会に復讐するために吸血鬼と協力して生み出したそうです」
「なるほど……復讐ね」
「別の説では、ジャパニーズ・コミックスに魅せられた海外のオタク魔術師がノリとネタで生み出したという話もあります」
「やっぱりジョ〇ョネタじゃねーか! 絶対に少年マンガの影響を受けただけだよな!?」
マンガの影響で作られた説が濃厚である。
吸血鬼に関係のある人間はみんなジョ〇ョが好きなのだろうか。いや、俺も好きだけどね!
「ネタはともかくとして……危険なアイテムが存在するということはわかったよ。回収でも破壊でも協力する」
吸血鬼の危険性は俺だって理解している。
善良だと思っていた聖の父親……牧師さんだって『あんな事』を仕出かしたのだ。
危険な思想を持った人間、犯罪者やテロリストが吸血鬼化したら世の中にどれほど被害が出るかわかったものではない。
「毒を食らわば皿までってやつかな? 吸血鬼の『神』を倒したんだから、ついでにそっちも何とかしてやろう」
「感謝します、先輩。お礼は……そうですね。私との種付けエッチでどうでしょう?」
「ワイシャツをまくるのやめてくれないか? パンツが見えてんだよ」
俺は手近なところにあった枕を手に取り、聖の顔面へと投げつけたのであった。
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