集まれ、園芸委員会⑨
「よっと」
謎の神へのOSHIOKIを終えた俺は、時空魔法やら何やらを使って元の世界に戻ってきた。
気軽に日帰り異世界旅行ができるとは良い時代になったものである。機会があれば、またお出かけしてみたいものだ。
「近衛さんは……うん、それほど怪我はしてないな」
気を失っていた近衛をベッドに寝かせて身体を確認してみると、かすり傷程度の怪我は負っているが、命にかかわるようなものはない。治癒魔法ですぐにでも治せそうだ。
目を覚まさないのは戦場から救い出されて気が抜けてしまい、安堵からこれまでの疲れが一気に押し寄せてきたためだろう。
「……よく頑張ったな。偉いぞ」
「…………」
頭をナデナデしても近衛が目を覚ます様子はない。
このまま起こすことなく、ゆっくりと寝かせておいてあげよう。
「さて……問題は、これからどうするかだな」
近衛は1ヵ月前から行方不明になっており、学校も休んでいる。
あのミカン女神が何らかの方法で認識疎外をして行方不明に気づかれないようにしていたようだが……ミカン女神を倒したからには、それもじきに解けてしまうだろう。いずれ近衛の不在が公になり、学校生活にも支障が出るかもしれない。
「異世界で戦争にまで参加させられたんだ。トラウマにもなってしまうかもしれないな。ここは記憶を消してあげよう」
俺は近衛の頭をナデナデしつつ、精神魔法を発動させて異世界での記憶を消去する。
面倒だけど……あとで学校の教員やクラスメイトの記憶も弄って、近衛は交通事故で入院していたことにしよう。
沙耶香を通じて今回の1件を報告して、『結社』ゆかりの病院に連れていけば、あとの手続きとかはアッチで何とかしてくれるだろう。
「……記憶を消したとはいえ、心のケアが必要ないわけでもないしな。来週までに学校に来れるかはわからないけれど、出られるようなら園芸委員の報告会にも出てもらおう」
事情が事情なので無理強いするつもりは、もちろんないけれど。
「さて……これにて一件落着。図らずも異世界に誘拐されてた女の子を救い出すことができたんだから、この数日間も無駄じゃなかったかな?」
園芸委員長のヒステリーから始まった面倒事であったが、罪もない女の子を苦しみから救うことができたのだから良かったとしよう。
ミッション完了。
めでたし、めでたしである。
「…………あ」
……と、そこで俺はふと気がついた。
近衛を病院に連れていくのはいいとして……まずは服装をどうにかしなくてはいけない。
彼女は戦場で戦っていたままの格好。鎧やら鎖帷子やらを着ており、全身を泥と返り血で汚している。
このままではタクシーを呼ぶにせよ、背中に負ぶって連れていくにせよ、目立って仕方がないではないか。近所のウワサ好きのおばちゃんとかに見られでもしたら、余計な風評被害を生んでしまうことになるだろう。
「……うん、しょうがないな!」
俺は頷いて……近衛の身体を覆っている鎧やら服やらを脱がせた。
下心があるわけではない。
これは人命救助というか、彼女を救うために必要なことなのだ!
魔法を使えばいい?
スキルを使えばいい?
シマッター。
ゼンゼン、キガツカナカッター!
「はい。キレイキレイにしましょうねー」
「う…………」
「まずはタオルで身体を拭いてー。うん、隅々までキチンとね!」
「あ……ん……」
「はい。身体が綺麗になったら、次は下着をつけようか! 俺が独断と偏見で見繕ってあげるからね!」
「んんっ……はあ……」
うっかり魔法やスキルの存在を忘れてしまった俺は、気を失っている近衛の身体を丁寧に拭いて、新しい下着と服を着せてあげた。
眠っている同い年の女子にお着替えをさせるという貴重な体験を乗り越えたことで、俺はまた1歩男としてのレベルを上げたのである。




