集まれ、園芸委員会⑥
「おおう……これは予想外の景色だな」
見下ろした先に広がる戦場の光景に、俺は思わずつぶやいた。
ダンジョンキーを使って何度か異世界に行ったことはあるが……こんなふうに戦場を目の当たりにするのは初めてのことである。
「消えろ、魔族め!」
「滅びるがいい、下等なる人間が!」
「神に見放された穢れた種族め! お前らが滅びろ!」
「劣等種が吠えるな! われらが力を見るがいい!」
眼下で戦いを繰り広げる2つの勢力であったが……どうやら彼らは異なる種族であるらしい。
一方は俺と同じ人間らしき種族。
肌色が明らかに白人で、金髪や茶髪っぽい髪をした者が多い。
もう一方は紫っぽい肌、頭には角のようなものを生やしている正体不明の種族。下から聞こえてくる会話を聞くに、彼らが『魔族』と呼ばれていることがわかった。
「…………なんじゃこりゃ」
穴の向こうにあるのは明らかなファンタジー世界の景色である。どうして、近衛さんとやらの部屋に異世界への入口があるのだろう。
それは時空の歪みとでも呼べばいいのだろうか。俺達が住んでいるのと異なる世界へ続いている扉がそこにはあった。
「ハア、ハア、ハア……!」
そして、よくよく目を凝らして探してみると戦場の真ん中に近衛さんらしき人物を発見した。
部屋に置かれていた家族写真に写っていた少女が、地面に膝をつき、剣を杖のようにして辛うじて身体を起こしている。
近衛さんは薄汚れた皮の鎧を身にまとっており、何度も何度も、疲れきった荒い呼吸を繰り返している。
「おい、何をサボってるんだ! 前線に出て、さっさと戦いやがれ!」
「うっ……!」
金髪で立派な鎧に身を包んだ男が、満身創痍の近衛さんの身体に鞭をふるった。
近衛さんは痛みに身をよじらせながら、力ない瞳で金髪男を見上げる。
「もう、無理です……わたしは、たたかえません……」
「誰が弱音を吐いて良いと言った? 奴隷ごときが主人に逆らうな!」
「でも……」
「口答えは許さん! 何のために貴様のような黄色い肌の猿を召喚したと思っているんだ!? 魔族と戦えないと言うのならば、貴様も殺処分にするぞ!」
「ッ……!」
何度も振るわれる鞭を受けて、近衛さんが弱々しく立ち上がる。
そのまま魔族と呼ばれた連中に向かっていく少女の姿を見て……俺はおおよその状況を悟った。
「なるほどな……ヘドが出るパターンの異世界召喚ものだ」
異世界召喚されて勇者になる……というのは昔からあるファンタジー小説のおなじみだが、これの亜種として召喚された人間が現地人に迫害され、奴隷のような扱いを受けるジャンルが存在する。
どうやら、近衛さんはそんな悪いパターンの召喚を喰らってしまったようだ。
近衛さんは自分の意思とは無関係に戦うことを強制されていた。
「学校を休んでいたのは異世界に召喚されたから。彼女が呼び出されたときの痕跡がこの時空の穴というわけか」
鞭を打たれながら、身体を引きずるようにして敵に立ち向かっていく近衛さん。
俺はそんな彼女の姿を見て……自分の為すべきことを悟った。
「とりあえず……全員、ぶっ殺だな」
時空魔法によって穴を強引に押し広げ、俺はねじ込むようにして身体を中に潜り込ませる。
時空を超えて出た場所は戦場の真上。地表から数百メートルも上空だった。
しかし、俺は恐れることなくパラシュートなしでスカイダイビングを決める。
「喧嘩両成敗。悪く思うなよ!」
そして、冷たい空気を切り裂くように滑空しながら、戦場に向けて魔法を放った。
数千、数万の人間と魔族が剣と魔法をぶつけあっている戦場。
そこにまるで怒れる神が神罰を下しているかのように、無数の青白い稲妻が降り注いだのである。




