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集まれ、園芸委員会④

 そして……3人目。

 2年3組の園芸委員は谷原勝利という名前で帰宅部のようだ。


 面識はないが名前は聞いたことがある。2年生の間では有名人な男子生徒だ。

 それというのも、彼の名前――『勝利』というのは『かつとし』でもなければ『しょうり』でもなく『ビクトリー』と読むようで、典型的なキラキラネームとして名を馳せているのである。

 おまけに、本人もその輝かしい名前に負けることなく活発な生徒だった。帰宅部でありながらも運動会や文化祭では率先的に活躍しているため、他のクラスにまで名前が届くほどに有名人になっていた。


 俺は谷原と会うために、放課後に2年3組の教室を訪れた。


「谷原君はいるかい?」


「んー、谷原? もう帰ったんじゃね?」


 教室に入って尋ねると、廊下側の席に座っていた男子生徒が眠そうな口調で答えた。


「アイツ、放課後は真っ先に帰るからなー。遊びに誘っても全然来ねえし。バイトはやってないらしくて帰宅部のはずなんだけど……彼女とデートでもあんのかね。裏山ー」


「む……しまったな。一足遅かったか」


「んー? さっき教室出てったとこだから、急げば校門までに間に合うんじゃね? 知らんけどー」


「そうかい? ありがとな」


「ういー」


 ヒラヒラと手を振ってくる名も知らぬ男子に礼を言って、俺は下駄箱に向かって急いで走る…………というのはウソ。

 本当は走ることはせず、廊下の窓を開けて下に飛び降りた。


「廊下は走っちゃダメだからね。窓から飛び降りるなとか校則になかったからセーフだろ」


 2年生の教室は校舎の3階にあるのだが……俺の身体能力であれば余裕で着地することができる。

 もちろん、誰にも見られないタイミングを見計らったので問題なし。仮に見られていたとしても、その気になれば記憶を消したりとかもできる。


「とりあえず……校門で待ち伏せしとくか」


 窓からショートカットした俺は、そのまま校門へと向かった。

 ここで待っていればいずれ谷原がやってくることだろう。


 そのまま待っていること1分。校舎の方から土煙を上げて1人の少年が走ってきた。


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」


「うわあっ!?」


 グラウンドを突っ切って猛ダッシュしてきたのは180センチほどの高身長の男子生徒だった。

 短髪で鋭い瞳に炎を燃やした、いかにも熱血そうな少年である。

 谷原勝利。俺が探し求める2年3組の園芸委員が、周囲を引かせるほどの全力ダッシュで駆け抜けていった。


「ええー……」


 俺は声をかけるのも忘れて、走り抜ける谷原を見送ってしまう。

 いや……何なのだろう、あの勢いというか熱量は。まるで自分の身代わりになって処刑されそうになっている親友を救い出そうとしているかのように、とんでもなく必死な走りだった。


「何なの、あの無駄な迫力は……って、追いかけないとな!」


 呆然と谷原を見送っていた俺だったが、遠ざかっていく背中を慌てて追いかける。

 陸上部も真っ青なスピードで道路を走り抜けていく谷原。それは常人が追いつけるようなスピードではなかったが……生憎と、俺は常人ではない。

 スキルを使ってスピードを上昇させ、あっという間に横に並ぶ。


「おーい! 谷原くーん!」


「おおっ!? 君は……5組の月城君だな!?」


 道路を走っている谷原が、スピードを緩めることなく言ってくる。


「よく知ってたな。面識はほとんどないと思うけど?」


「同じ学年じゃないか。知らないわけがない! それで……俺に何か用かな!?」


「何かって……ちょっと話があるんだけど、悪いけど止まってもらってもいいかな!?」


「ははははっ! 悪いが……それはできない!」


「うおおっ!?」


「話があるのならばついてきたまえ! 走りながらならば付き合おう!」


 谷原が止まるどころか、さらにスピードを上げてくる。

 あれがトップスピードではなかったようだ。とんでもなく速い。


「ちょっ……こらこらこら! 何で逃げるんだよ!?」


「おおっ!? 追いついてきたか! なかなか男気のある走りっぷりではないか、月城君!」


「いや、男気とかどうでもいいんだけどね!? そんなことよりも、さっきから何で走ってんの!? 急用とかあるのなら明日、改めるけど!?」


「うむ、用事はあるが急用ではないな! 俺は部活動の最中だから止まるわけにはいかないのだ!」


「部活動……?」


 止まるわけにはいかないって、お前はマグロかよ。

 それはともかくとして……さっき部活動と言ったか? 谷原は帰宅部だと聞いていたのだが……。


「部活動って……話が違うな? 何の部活に入っているんだよ!?」


 谷原の横を競うように走りながら、俺は訊ねた。

 問われた谷原は前方を向いて両脚を駆りながら、誇らしげに胸を張って答える。


「ああ、俺は……『帰宅部』だ!」


「は……?」


 ……あれ、耳がおかしくなったのか?

 ひょっとして、聞き間違えたのだろうか。


「ごめん。ちょっと鼓膜が腐ってたみたいで上手く聞こえなかったんだけど……今、何て言った?」


「む……それは大変だな。俺は『帰宅部』だと言ったのだ! 今は部活動として帰宅している最中なのだ!」


「真砂キック!」


「ふべっ!?」


 俺はダッシュする速度を緩めることなく、ジャンプして谷原の頭部に蹴りを喰らわせた。


 説明しよう。

『真砂キック』とは、訳のわからんことを言うアホと遭遇した際に繰り出す人類最速にして最強のツッコミである。

 相手の脳をピンポイントで揺らすと同時に治癒魔法を施すことで、適度に痛くて派手にすっ転ぶわりに障害などは残らない絶妙な攻撃なのだ。


「な、何をするのだ急に!?」


 ズザザザザと効果音を鳴らして道路に転んだ谷原が、すぐさま起き上がって抗議の声を上げてきた。


「お前こそ何を言ってるんだよ! 帰宅部だったら部活に入ってないよね!?」


「な、何を……俺は『帰宅部』という名前の部活に入っているのだ!」


「はあ?」


「来月には全国大会だってあるんだぞ!? 頼むから練習の邪魔をしないでくれたまえ!」


「…………」


 うん。

 話が全然、噛み合わない。

 コイツはさっきから何を言っているのだろう。


 俺はとりあえず、谷原の言い分を最後まで聞いてみることにする。


「『帰宅部』というのはその名の通り、いかに素早く帰宅するかを競う競技なのだ! 大会では参加者全員がアイマスクと耳栓をした状態で山奥に連れていかれて、場所もわからない状態で自宅まで帰り着く時間を競うことになる!」


「俺の知っている帰宅部と違うんだけど……なにその伝書鳩の大会みたいな競技は」


「来月の全国大会では47都道府県から1千人を超える『帰宅リート』が結集して、帰宅時間を競うことになるだろう。俺は大会に向けて、帰宅の練習をしている最中なのだ!」


「無駄に競技人口が多いな! え、俺が知らないだけでメジャーなスポーツなのか!?」


「昨年の大会では参加者が無人島に連れていかれて、イカダを作って脱出するところからのスタートだったからな! 今年は海外の可能性もあるので、気合を入れて臨まねばならぬ!」


「バラエティー番組でお笑い芸人がやらされそうな企画だな……あば〇る君とかク〇ちゃんとか」


 どうやら……谷原が言う通り、本当にそういう競技があるようだ。

 谷原が放課後になるとすぐに帰宅していたというのも、『帰宅部』の全国大会に向けたトレーニングの一環なのだろう。


「……世の中って広いんだな。まだまだ知らないことがいっぱいだよ」


「ふむ? それはともかく、月城君。先ほどは惚れ惚れするような男気ある帰宅っぷりだったな! よかったら、君もウチのチームに参加してくれないか? 3年生の先輩が怪我で欠場して、補欠枠が開いているのだが……」


「……のーさんきゅー」


 俺は首を振って、そう答えたのである。


 ちなみに、谷原が定例報告会に欠席していたのは部活の練習が忙しくて忘れていただけのようだ。

 来週、改めて報告会が開かれることを伝えると、「必ず参加しよう」と確約してくれたのであった。


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