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集まれ、園芸委員会②

 そんなわけで、俺と藤本は分担して2年生の園芸委員を招集する事になった。

 2年生は全部で10クラス。今回の定例報告会に参加していたのは6組の代表の藤本と、5組の代表の俺だけであるだけである。

 そのため、1~4組までを俺が。7~10組までを藤本がそれぞれ担当することになった。

 タイムリミットは1週間。来週の報告会までに、各クラスの園芸委員に参加を確約させなければいけない。


 最初に接触したのは1組の園芸委員。去年のクラスメイトで、野球部に入っている男子生徒だ。

 俺はさっそく、その日のうちに野球部が練習しているであろうグラウンドへと向かった。


「あ? 定例報告会? いやいや、そんなの行ってる暇ねーよ」


 練習の合間の休憩時間。

 グラウンドの隅でスポーツ飲料を飲んでいたその男子生徒は鬱陶しそうな目を向ける。


 2年1組園芸委員、小宮亮一。

 野球部に所属。坊主頭で背が高く、日焼けした色黒の肌といういかにもスポーツ少年といった容姿の男子である。


「こっちは3年生が引退して、春の選抜試合に向けて新体制で練習してるんだ! 委員会とかやってる場合じゃないんだよ!」


 小宮が鬱陶しそうに吐き捨てる。

 その言い分は……まあ、勝手ではあるがわからなくもない。

 野球部は朝早くから登校して練習しており、夕方は日が暮れてからもずっと練習しているのだ。

 委員会の集まりに参加している時間は本当にないのだろう。


「まあ……その理屈は分かるんだけどね」


「フンッ……月城は文化部だっけ? それとも帰宅部か?」


「……一応は文化部。幽霊部員だけど」


「ははっ! だったら、わからねえだろうな! 俺達、運動部がどんだけ必死に練習しているか。どんだけ汗を流して大会や甲子園のために頑張ってるか、わかりゃしねーだろ!」


「む……」


 うっわ、コイツ、文化部とか帰宅部を見下してるタイプのやつだよ。

 運動部の生徒にはたまにいるんだよな。身体を動かさない部活とか、帰宅部の生徒を下に見ているやつが。


「本当は花壇の水やりだってやってる暇はないんだぞ? 朝練で早く登校しているから何とかできてるけど、報告会にまで行ってられねーっての。そんなもんは根暗な文化部連中でどうにかすればいいだろうが! こっちは忙しいんだから手間かけるんじゃねーよ!」


「……かっちーん。ちょっとムカッときたわ。その差別発言」


 もちろん、野球部や運動部が悪いわけではない。

 朝や夕方の忙しない時間を削り、目標のために粉骨砕身している彼らには頭が下がる思いである。

 だが……それが帰宅部や文化部を下に見てもいい理由にはならない。

 帰宅部の中には塾での勉学やバイトに励んでいるものもいるし、文化部にだって大会やコンクールはある。

 そもそも、無断で委員会の集まりをサボったのは小宮のほうではないか。謝罪するどころか、まるでこちらが悪いかのような言い草をされる覚えはなかった。


「そんなに野球部をやってるのが偉いって思ってるなら、大好きな野球で勝負してやるよ」


「はあ? 月城、お前何を言って……」


「小宮のポジションはピッチャーだったよな? パワプ○名物10球勝負だ。俺が勝ったら、来週の報告会には参加してもらうぞ」


 その辺に転がっていたバットを片手に宣言してやると、小宮は見るからに不機嫌になったようで表情をしかめた。


「どうやら……お前は野球を舐めてるみたいだな。こっちは真剣に野球をやってんだよ。草野球くらいしか経験のない素人が軽々しく打席に立ってんじゃねえよ!」


「先に文化部を馬鹿にしたのはお前だぜ? オカルト研幽霊部員の実力を見せてやるよ!」


 小宮は素人を相手に投げたくないと渋っていたが、周囲で話を聞いていた他の野球部員にはやし立てられ、渋々といった顔でマウンドに上がる。


「10球勝負って言ってたが……そんなに投げる必要ねーよ。一発で格の違いを教えてやる!」


「はいはい、わかったからさっさと投げろ。もったいぶるな」


「テメッ……!」


 小宮は額に青筋を浮かべながら振りかぶり……渾身のストレートを投げてきた。


 うん、速い。

 どうやら真剣に野球をやっているというのはウソではないようだ。

 150キロとはいかないまでも、140キロ近くは出ているんじゃないか?


「ま……俺には止まって見えるけどな」


「なっ……!?」


 俺はストライクゾーンのど真ん中に飛んできたボールをバットで打ち返した。

 愕然とした表情の小宮の頭上を悠々と越えて、白球がグランドの外まで飛んでいく。


「ホームラン……で、良いんだよな。コレは」


「馬鹿な……俺のストレートがこんな簡単に……?」


 ボールが消えていった方向を呆然と見つめ、小宮が信じられないとばかりにつぶやく。

 そのまましばし呆けたように立ちすくんでいた小宮であったが……やがて、ハッと瞳を見開いた。


「そうか……! 月城、お前さては野球経験があったんだな!? 中学のときに野球部に入ってたんだろ!?」


「んー……どうだろうなあ。ある意味では野球暦10年と言えなくもないような……」


 野球暦というか、パワプ○歴10年なのだが。

 俺がサ○セスで何百人の選手をプロ入りさせたと思っているのだ。


「ガッツリやってんじゃねえか! 未経験の素人のフリをして、こっちを油断させようとしてたな……卑怯な奴め!」


 小宮が新しいボールを手に取り、マウンドの上で構えた。

 一昔前の野球マンガのようにメラメラと瞳を燃やし、大きく腕を振りかぶる。


「ここからが本番だ! いずれは甲子園を制覇する男の球を受けてみやがれ!」


「おっけ、わかったー」


 気合と共に投げつけられたボールを、俺は気のない返事と共に打ち返すのであった。



     〇          〇          〇



「そういえば……何球打ったら勝ちとか決めてなかったな」


 とはいえ、全てホームランしてしまえば関係あるまい。

 10球勝負が終わり、バットを置いた俺は腕を大きく伸ばしてストレッチする。


 勝負の結果を述べると……まあ、俺の圧勝だった。

 俺は小宮が投げた10球のボールを残らず打ち返し、グラウンドの外まで叩き込んだ。

 小宮は呆然とマウンドに座り込んでいる。ちょっとやり過ぎたかもしれないが……先にケンカを売ってきたのはあっちの方だ。罪悪感はなかった。


「俺はゲームでは真っ先にパワーヒッターの技能を修得するんだよな。ホームランを何本打てるかがキャラクター育成の鍵になるし。攻略の基本だよな」


 今の俺はクエストボードによって人間を超えた身体能力を手に入れている。

 小宮のストレートはそれなりに速かったし、変化球だって投げていたが……俺を負かすには足りない。


「俺を倒したかったら、猪〇守のライジン〇キャノンを超える球を投げるんだな。約束通り、来週の報告会は参加するように」


「…………」


「別に部活を優先させることが悪いとは思ってないぜ。だけど……委員会を後回しにするのなら、それ相応の誠意は必要だろ」


 クラスメイトに頼んで代わりに出てもらうとか、事前に委員長に頭を下げて欠席の許可をもらうとか。やれることはあったはず。

 委員会を後回しにしたことが悪いのではない。他の園芸委員に対する誠意を欠いていたことが問題なのだから。


「…………」


「じゃあな」


 無言でショックを受けている小宮に一方的に言い捨てて、俺はさっさとグラウンドから出て行った。

 勝負を見ていた野球部の生徒が俺の周りに集まってきてしつこく勧誘を仕掛けてきたが……もちろん、すべて断る。

 俺の力はクエストボードによって手に入れたチート(ズル)だ。ケンカを売ってくるムカつく同級生を叩きのめすために使うことはあっても、真面目に頑張っている球児を相手にすることなど許されない。


 それに……最近は色々と忙しいのだ。

『結社』の活動に参加したり、親しくなった女子とデートをしたり。

 力になれなくて申し訳ないが……運動系の部活動に参加することはできそうもなかった。


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