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15.五日目は教会でセーブを②


『デイリークエストを達成。スキル【身体強化Lv5】を修得しました!』


 午前中に10㎞のランニングを終えた俺は、家に帰ってシャワーを浴びてから妹に言われた通りにソーメンをすすった。

 俺はどちらかというと生姜よりもワサビのほうが好みなのだが、残念ながら冷蔵庫にチューブのワサビは見当たらない。

 仏頂面でつゆにつけたソーメンをすすりながら、冷凍食品の唐揚げを口に放り込んだ。


「ごちそうさまでした……さて、午後のミッションに取り組むとしようか」


 午後の予定は近所の教会に行くことだ。


 そこで達成するべきクエストは二つ。

 デイリークエストの『聖書を100ページ読むこと』と、ワールドクエストの『祈りを1時間捧げること』の二つだ。


「教会ってどんな格好してけばいいんだろう。ドレスコードとかないよな?」


 とりあえず、派手めな服は避けることにしよう。

 白いシャツと黒いズボンという簡素な服装に着替えて、俺は再び玄関をくぐった。


 先ほど駆け足で走り抜けた道を、今度はゆったりとした足取りで歩いていく。


 午後になって日差しがかなり強くなってきた。

 地球温暖化のせいか年々勢いを増している5月の日差しを浴びながら、慣れ親しんだ通学路を歩いて行く。

 10分ほど歩いて背中に少し汗をかき始めた頃、近所にあるレンガ造りの教会へと到着した。


 普通の民家と同じか少し大きいくらいの教会は建物の外に広めの庭があり、ツツジの花が赤い花を咲かせている。


 建物の前では、黒い修道服を着た若い男が手に持ったホースで水を撒いていた。

 俺は少しだけ緊張しながらその男性に声をかける。


「あのー、すいません」


「おや、どうかされましたか?」


 黒い髪をオールバックにまとめた男が俺のほうを見てにこやかに尋ねてきた。

 親しみのある穏やかな表情に、俺はホッと胸を撫で下ろす。


「えーと、なんといいますか……お祈り? をさせて欲しいんですけど、入ってもいいですか?」


「もちろん、構いませんよ。神の家は何人にも閉ざす扉を持ってはいませんので、どうぞご自由にお入りください」


「あ、すいません。ありがとうございます」


 俺は必要以上に頭を下げながら、すでに開け放たれている教会の入口をくぐった。


 薄暗い電灯の明かりに照らされた教会の中には長椅子がいくつか置かれており、奥には大きな十字架がかけられている。


「ええっと……聖書は勝手に借りてもいいよな?」


 俺は十字架の前のテーブルに積まれている聖書の一冊を手に取った。

 これ見よがしに置いてあるのだから勝手に借りてもオッケー……そんなふうに解釈をさせてもらう。


 俺は長椅子に座って分厚い聖書を開いた。


「ええっと、100ページだから……って、文字細かっ!」


 聖書は広辞苑ほどの大きさがあり、文字も辞書と同じくらい小さい。これを100ページとなると結構な量だ。

 ちなみに、聖書の最初に書かれているのは神が天地創造した話。いわゆる『創世記』と呼ばれる部分である。


「うーん、神話みたいで面白いんだけど……文字の細かさがなあ」


 俺は眉間にシワを寄せながら、それでもなんとか小さな文字列を目で追っていく。

 ネット小説やラノベだったら気楽に読めるのだが、どうもやけに厳かな教会の空気と聖書という敷居の高い本に気後れしてしまう。

 妙に緊張してしまい、なかなか読書に集中することができなかった。


 俺はたっぷり2時間をかけて聖書を100ページようやく読み切った。


『デイリークエストを達成。アイテム『聖水』を獲得した!』


「ふう……クエスト達成。精神力強化がなかったら地味にきつかったかも」


 俺はさっそくアイテム画面を呼び出して、手に入れたアイテムを確認した。


――――――――――――――――――――


消費アイテム:聖水


聖なる力が込められた水。

魔に属する者。アンデッドを撃退する力がある。


――――――――――――――――――――


「うん、ファンタジーだ。それはともかくとして……魔に属する者? アンデッド? そんなものがいるのか、この世界に?」


 回復アイテムのポーションは役立つ機会があるかもしれないが、このアイテムはまったく使う機会が思い当たらない。


 アンデッドとかどこを探せば見つかるのだろうか?


「まあ……いいか。うん、いいとしておこう。そんなことよりも次のクエストだ」


 教会に来た目的はもう一つ、1時間祈りを捧げて『祈祷Lv1』というスキルを修得することだ。


 俺はとりあえず、長椅子に座りながら両手を組んだ。


 祈りの作法、やり方なんてものはわからない。

 だから、神社でお祈りをするように無病息災やら世界平和やら、延々と思いつく限りのことを頭に思い浮かべていく。


「…………」


 この状態で1時間というのは長すぎる沈黙であったが、【精神強化】スキル修得のために座禅やらヨガやらをしてきたおかげで耐えることができた。


 1時間後、俺の耳に聞きなれた電子音が鳴り響く。


『ワールドクエストを達成。スキル【祈祷Lv1】を修得!』


――――――――――――――――――――


祈祷


補助スキル。

神に祈りを捧げることで消耗した魔力を回復することができる。

(MP1×Lv数/祈り1回)


――――――――――――――――――――


「おおっ、魔力を回復できるスキルなのか!」


 スキルの説明を読んで、思わず喝采の声を上げた。

 治癒魔法は修得していたものの、これまで練習する機会がなかったのだ。

 このスキルがあれば気軽に魔法の練習をすることもできるようになり、魔法の使用を条件とするワールドクエストを達成しやすくなるだろう。


――――――――――――――――――――


ワールドクエスト


・魔法を10回発動せよ。

 報酬:スキル【魔力強化Lv1】を修得!


・治癒魔法で傷を10回治せ。

 報酬:スキル【治癒魔法Lv2】を修得!


――――――――――――――――――――


「このクエストとか気になってたんだよな。ようやく達成することができそうだ」


 俺がうんうんと頷いていると、背後でコツコツと床を叩く音がした。

 首を巡らせて振り返ると、そこには先ほどの修道服を着た若い男が立っていた。


「随分と熱心ですな。お若いのに感心なことです」


 男の手にはお盆に乗せられた湯飲みがあった。

 唐草模様の湯飲みからは白い湯気がうっすらと昇っている。


「良ければ、一服してはどうですかな? あなたくらいの年頃の人が来るのは珍しいことですし、ぜひとも若い人の話を聞かせていただきたい」


「え、あー……はい、ごちそうになります」


 人の良さそうな男性の笑顔に、俺は思わず頷いていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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