139.そして伝説へ!!! ⑬
『さて……月城真砂君。君には2つの選択肢がある』
自分の力を確認したタイミングで、精霊王が2本の指と立てた。
『1つ目はこの世界に留まるという選択肢。ここは君達の世界よりもだいぶ文明は遅れているが、自然は豊かで空気も美味しいし、住んでみればそんなに悪いところではないと思う』
「…………」
『もう1つは元の世界に帰還するという選択肢。君が望むのであれば私の力で元の世界に帰してあげよう。故郷に帰るというのは当然の選択肢ではあるけれど……あちらはあまり良い状況ではないようだ。自分の命を大事にしたいのであればこの世界に留まったほうがよいのかもしれない』
「現在進行形で人類の危機っぽい状況だからなあ……帰ったら、命懸けの戦闘になるだろうね」
この世界に来てどれほどの時間が経ったのかはわからない。
しかし、あちらの世界では沙耶香が吸血鬼の『神』と戦っており、予断を許さない状況が続いているに違いない。
今さらながら、クラリスにセクハラしまくっていた自分が恥ずかしくなってくる。
「……やっぱり、帰らないとな。自分だけ異世界に逃げるわけにはいかないだろ」
この世界でクラリスと一緒に冒険したりするのは楽しそうだが……沙耶香が命懸けで戦っており、真麻や春歌、早苗達の命が脅かされているであろう事態を見過ごすことなどできるわけがない。
「……帰るんだな、マサゴ」
「……そういうことになるかな。世話になったね」
どこか寂しそうに訊いてくるクラリスに、俺は後ろ髪を引かれながら別れの言葉を告げる。
「君のおっ……ことは忘れないよ」
「今、おっぱいと言いかけたな? 君は本当に、最後の最後まで救いようのない人だな」
クラリスは呆れ返った様子だったが、表情は不思議と笑みを浮かべていた。
「だが……そんな君と一緒だったから、今回の冒険はとても楽しかったよ。またいつか、合える日が来ることを祈っている」
「ああ、俺もだよ。絶対にまた会おう」
クラリスがそっと右手を差し出してくる。もちろん、俺もその手を握り返した。
クラリスと一緒にいた時間はほんの数日ではあったが、とても濃密な時間だったように感じられる。
色々と……うん、本当に色々と忘れられない時間だった。
「……マサゴ。最後くらい綺麗に締められないのか?」
「いやいやいやいやっ! 別にエッチな思い出を反復はしてないからね!? 冤罪だよ、ハイパー冤罪!」
「まったく……今生の別れになるかもしれないのに、君が相手だと涙の一粒も出てこないな。本当におかしな男だったよ、君は」
『それじゃあ……元の世界への門を創りましょう。そこをくぐれば、君は故郷へと帰還することができるはずです』
精霊王がそんなことを言ってきて、数メートル程離れた場所を指差した。
すると、そこに植物で構成された鳥居のような門が出現する。
淡い緑色の光を放つ門は、きっと俺が暮らしていた世界につながっているのだろう。
「それでは、また逢う日まで……しばしの別れ!」
俺はクラリスの手を放して、颯爽と門の中へと飛び込んだ。
これ以上、別れを引き延ばしていたら今度こそ泣いてしまったかもしれない。そんな気がしたからだ。
門に飛び込む瞬間、クラリスが何かを叫んでいた気がする。
その言葉は俺の耳まで届かなかったが……不思議と何を言われたのかは理解できた。
「『次に会ったらいっぱいエッチしようね』……だな! うん、そうに違いない。そうだと決めた!」
俺はハッキリと断言して……緑色の光に包まれた。
意識が遠のいていき、無重力の宇宙空間を漂っているような奇妙な感覚に襲われて……次の瞬間、俺の身体は空中へと放り出されていた。
「は?」
「え?」
「む?」
三者三様の驚いたような声。
右側には白い髪のツルペタロリ。
聖の身体を乗っ取った吸血鬼の『神』がいる。
左側にはモデル体型のスラリとした美女。
『狩衣』と言っただろうか。平安チックな古臭い衣装を着た、見知らぬ女性がいる。
2人はどうやら戦っている最中らしい。
今まさに、強力な必殺技らしきものを放とうと手を構えていた。
「嘘おおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
右から赤い光。左から青い光。
左右から放たれた攻撃に挟み撃ちにされて、俺は魂の底から絶叫した。
ちゅどーん、とマンガみたいな爆発音が鳴り響き……空に色鮮やかな花火が打ち上がったのである。




