138.そして伝説へ!!! ⑫
あけましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願いします!
作戦成功。妖精を捕まえることに成功した。
「お?」
「ひゃっ!」
その瞬間、周囲の景色が一変する。
先ほどまでテントの中にいたというのに、いつの間にかどこかの木の天辺に座っていた。
少し視線を下げると無数の木々を見ることができる。どうやら、俺達は森の中にある木の1本に登っているようだ。
世界樹のような巨大な大樹ではない。少し丈が高いだけのごく普通の広葉樹だ。
「どういうことだ? 私達は巨大な木に登っていたはずだ。1週間以上もかけて……」
「どうやら、俺達は幻でも見せられていたみたいだな。最初からあんなデカい木はなかったんだ。どうりでいくら登っても頂上が見えてこないわけだぜ」
おそらく、俺とクラリスはこのごく普通の木を登ったり下りたり繰り返していたのだろう。下を見れば、木の根元辺りにテントが張ってある。キャンプも枝の上ではなく地上でしていたのだ。
ついでに言うと、先ほどまで全裸だったはずなのに最初の服に戻っている。
アロマオイルまみれの身体もすっかり綺麗になっており、全てが元通りになっていた。
『どうやら、子供達を捕まえることに成功したようですね。試練達成、おめでとうございます』
「精霊王……」
ふわりと重力を無視した動きで精霊王が現れた。
穏やかな微笑を俺達に向けて、ネットに包まれた妖精を指差す。
『約束通り、その子達は貴方達にさしあげます。その妖精こそが私の加護――貴方達の願いを叶える力を持った力の結晶です』
「この妖精が精霊王の加護だって? つまり、俺達が与えられた試練は最初からコイツらを捕まえることだったのか」
「それはいいのだが……随分と好き勝手にやってくれたものだな。精霊王の試練がこんなにいやらしいものだとは思わなかったぞ?」
クラリスが半眼になって精霊王を睨みつける。
試練の過程で服を脱がされ、下着を剥ぎ取られ……やむにやまれぬ事情があったとはいえ、全身を男にまさぐられたのだから当然の反応だろう。
うん、俺のせいではないな。
全部全部、精霊王に生み出された妖精がエロ過ぎるのが悪いのだ。
『それは私に言われても困りますよ。この子達は私の力から生み出されましたが、人格は貴方達の精神を融合させたものになっています。この子達が卑猥な行動をとったのであれば、それはお二人のどちらかが邪な感情を抱いているせいではないでしょうか?』
「っ……!」
「…………」
弾かれたようにクラリスが俺に目を向ける。
反対に、俺は光の速度で顔を逸らした。
「……ま、まあ、どっちが邪なことを考えていたかはわからないからな! 年頃の若者であればエッチなことに興味を抱くのは当然だし、どっちが原因でも恨みっこなしだよね!」
「マサゴ……絶対に後で刺すからな。覚悟しておけよ、本当に」
「……………………ごめ」
底冷えのする声で告げられた俺は小さく謝罪する。
やっぱり、良いことがあった後には悪い事が待っているのだ。良い思いをさせてもらったのだから、刺されるくらいのことは甘んじて受けるべきかもしれない。
『さあ、受け取りたまえ。それは君達のものだ』
2人の妖精がネットから出てきた。一方はクラリスの元へ、もう一方は俺のところにやってくる。
「おおっ!?」
クラリスのところに飛んでいった妖精が光り輝き、姿を変えていく。
それはやがて大剣へと変身する。剣からは圧倒的な『圧』が感じられ、尋常の武器ではないことがわかった。
「妖精の聖剣……エクスカリバー?」
『そう呼ばれることが多いですが……それは貴女の剣。貴女の現身です。好きなように呼んでください』
「…………そうか。私は勇者になったんだ。肩書ではない本物の勇者に」
クラリスは感触を確かめるように軽く聖剣を振った。妖精の加護が込められた聖剣が光の曲線を描きながら、淀みのない動きで宙を切る。
「恐ろしく手になじむな。今だったら、どんなものでも斬れそうな気がする……」
「……いや、怖いこと言いながら怖い目で見ないでくれない? 刺さないよね? 聖剣で刺したら本当に死んじゃうからね?」
下に降りたら全力で土下座をするので許して欲しいところである。
どういう謝罪をすれば許されるだろうか、地面にめり込む勢いで頭を下げたら勘弁してくれるだろうか?
「おっ!?」
余計なことを考えているうちに妖精が飛び込んできた。衝突する勢いで飛び込んできたかと思ったら、そのまま胸の中に入っていってしまう。
「っ……!」
次の瞬間、聞き慣れた電子音が頭の中で鳴り響く。
そして……目の前に故障していたはずのクエストボードが出現した。
『精霊王の加護を取得した』
『クエストボードの機能を拡張。スキルの進化を発動』
『スキルの進化に成功』
『身体強化系統のスキルが統合。スキル【神鋼】を修得した』
『魔法系統のスキルを統合。スキル【万能魔法】を修得した』
『武術系統のスキルを統合。スキル【武王】を修得した』
『生産系統のスキルを統合。スキル【錬金術】を修得した』
『その他のスキルを統合。スキル【器用貧乏】を修得した』
『【神聖属性攻撃】スキルの進化を発動』
『スキルの進化に成功』
『【神聖属性攻撃】はスキル【神殺し】に進化した』
「うっ…………!」
矢継ぎ早に告げられる情報。
激しい頭痛、フルマラソン直後のような疲労と筋肉の痛みが襲ってくる。
「大丈夫か、マサゴ!」
クラリスが駆け寄ってきて……聖剣を振り下ろしてきた。
「うおうっ!?」
俺の身体は即座に反応した。
人間離れした反射速度で斬撃を躱して、クラリスの背後へと回り込む。
「チッ……外したか」
「何やってんの!? 死んじゃったらどうすんの!?」
「死なないだろう? 今の君だったら何をされても死ぬことはないと信じていたさ」
「世界一イヤな信頼だな! マッサージの件は本気で謝るから許してくれ!」
俺は迷うことなく土下座しようとして……ようやく気がつく。
身体が軽い。先ほどまで肉体を苛んでいた苦痛が嘘のように消え去っており、代わりに手足を満たしているのは圧倒的な充足感。
まるで背中に翼でも生えてきたようだ。今だったら何処にだって行けるし、何だってできるような気がする。
「……どうやら、俺は生まれ変わったようだな。ただのスライムからデモンスライムに」
「いや……君はスライムではないのだが」
「ハーヴ〇スト・フェス〇ィバルは成功したようだ。俺は真なる魔王へと進化したらしい」
「いや……魔王だったらここで殺しておくけれど」
どうやら、テンションが上がり過ぎて逆に錯乱しているようだ。
かつてない力……それこそ、やり方によっては世界だって手に入れることができるかもしれない力を得たのだ。
中二病男子の夢が実現してしまったような展開に興奮しないわけがなかった。
「この力があれば……」
吸血鬼の『神』だって倒せるかもしれない。
圧倒的な強者だったはずの敵が、今は手の届く場所にいる。
聖の身体を奪い、1度は自分を殺した敵へのリターンマッチの準備が整った瞬間だった。
今月中には本編を完結させる予定です。
どうぞ最後までお付き合いいただければ嬉しく思います。




