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111.夏の終わり、世界の終わり③


 1日アロハーパークで遊びつくした俺達は、夕方に差しかかる時間になってようやく帰宅することにした。

 すでに時間は午後6時を回っているが、夏ということもあって日は長く、外はまだ十分に明るい。


「それじゃあ、3人とも。また新学期にね」


「うっす、お疲れ様っす」


 彩子と浩一郎と別れ、俺と春歌と早苗は3人で帰路につく。

 いくらまだ明るいとはいえ、美少女2人だけで帰すわけにはいかない。ちゃんと家の近くまで送っていくつもりだった。

 幸いなことに、2人の家は俺の自宅からそれほど離れていない。送ってから帰宅したとしても、それほど遅くはならないだろう。


「夏休みももう終わりね……」


「あーあ、結局補講ばっかりだったなー。春歌と真砂君ともっといっぱい遊びたかったなー」


 しみじみと言う春歌に、早苗が両手を頭の後ろで組んで不満そうに唇を尖らせる。

 勉強に力を入れている優等生の春歌もそうだが、早苗にいたっては期末テストで赤点を取ったせいで夏休み前半を補修で奪われていた。夏休みが短く感じてしまうのも無理はないことである。

 遊び足りないという気持ちは全面的に同意だった。俺だって、もうじき夏休みが終わってしまうのが信じられない。


 別にやり残したことがあるわけでもないのに、どうしてこんなにも夏の終わりを寂しく感じるのだろう。

 昨年も一昨年も夏休みが終わることを残念に感じたが……ここまでの寂しさはなかった気がする。

 はたして、その違いは何なのだろうか。俺は心臓を締めつけられるような閉塞感を感じて、右手を胸にあてる。


 そうこうしているうちに、3人の時間にも終わりがやってきた。

 早苗がひょいっと軽いステップで離れていき、スカートを翻してこちらを振り返る。


「それじゃあ、私はこの近くだからもうお別れだね。2人ともバイバーイ!」


「ああ、またなー」


「また学校で会いましょう」


 俺と春歌が別れの言葉を返すと、早苗は「バビッ!」と俺に人差し指を突きつけてウィンクをかました。


「まーさーごー君、今日は楽しかったよん。新学期もちゃんと愛してるからよろしくねー」


「去り際に何を言ってんだよ。アホの後輩じゃあるまいし」


「うわっ、他の女の子の話してるー。浮気だうーわーきー」


 早苗は「ケラケラ」とイタズラっぽい笑顔を残し、パタパタと走って曲がり角に消えていった。

 聖とは違う意味でわけのわからない娘である。俺は顔が熱くなるのを感じて手で(あお)ぐ。


「まったく……本当にしょうがない奴め」


「早苗は昔からああいう子なのよ。好きな人に素直になれるのは本当に羨ましいわね」


「ええっと、藤林さん?」


「春歌でいいって前にも言ったんだけどな。私だけ他人行儀なのも寂しいわ」


「ういっす…………ハルカタン」


 俺は春歌と並んで道を歩いていく。

 春歌の家は俺の自宅のすぐ傍である。もう少しだけ一緒にいられる。


「ねえ、月城君。もうじき夏休みも終わるけど……この夏はどうだったかしら?」


「どうって……まあ、楽しかったかな? たぶん、これまでの人生で一番。終わっちゃうのが本当にもったいないくらいだ」


「そう、私と一緒ね」


 正直な感想を口にすると、春歌が「ふう」と物憂げな溜息をついた。

 横からそっと顔を窺うが……春歌は困ったような、寂しがっているような、そんな自分の感情を持て余した表情をしている。


「勉強は嫌いじゃないけれど……塾の夏期講習がこんなに辛く感じた夏は初めてだったのよ。初めて勉強よりもやりたいことが見つかった気分ね。もっと月城君と一緒にいられたらよかったのに」


「…………」


『3人で』ではなく『月城君と』と言ったよね、この娘は。

 これはもう決定的ではないだろうか。薄々というか、とっくに感づいてはいたのだけど……。


「なあ、春歌。君はひょっとして俺のことを…………うっ!?」


 意を決してそのことを尋ねようとするが……ふと、背筋に寒気のようなものを感じて後ろを振り返った。

 背後に視線を向けると、20メートルほど離れた十字路に背の高い男が立っている。

 夏だというのに長袖の黒いコートを身に纏っており、頭にはツバの長い帽子を深々とかぶっていて顔はよく見えない。

 夕日を背負った男の影が道路の上を長く伸びており、俺達の足元にまで到達していた。


「っ……春歌!」


「きゃあっ!?」


 俺は正体不明の危機感を感じて、春歌を抱き寄せてその場から飛びのいた。


 次の瞬間――男の影から漆黒の槍が飛び出してきて俺達がいた空間を貫いた。


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