第六話『舐め腐ってますね!!』
「んー……何かを忘却しているような気がしてやまないんだけど…」
馬車の窓から外を眺めながらそんなことを呟く。
僕は今、智宏とマシュー、団長さんとギリギリ六人が乗れる馬車に乗り込んで少年の家―――つまり、スロウス領主さんのお屋敷に向かっていた。
ちなみに智宏はマシューと仲良くなり、故郷の話をしたりしている。
なるほど、智宏のヒロインはマシューだったか。ふっふっふ……BLは智宏に任せて僕は色恋の邪魔物として名を馳せてやろうぞ!!
「でも、なんか忘れてるんだよなあ……」
「何をだ?」
「なんか、とっても大事な……」
「約束とかかい?」
「違うはずです……」
なんだろう……槍もトロフィーも今持ってるし…なんだろう。
うーん……。
「世界は絆で出来ている…男女は愛で…同性は友情愛情で……大地は希望…大海は言葉…大空は夢……世界は絆で出来ている……」
「なんだ、それは」
「じいちゃんの日記に書いていた詩。なんか僕、この詩が好きでね。なんか口ずさむと心がどくっとするんだ」
「認識災害か?」
「じいちゃんの詩を海外サイトの創作怪異みたいに言うな」
睨むと、智宏が「俺も似たような詩を知っているな」と話し始めた。
「血の巡り、駆け巡り、星のまにまに、求めるは光…世界は心で繋がっている……」
「だいぶ似てないね」
「最後は似てただろ」
結局なにを忘れているのかわからぬままお屋敷についてしまう。
「ま、思い出せないってことは、大した問題じゃないってことだよね!」
○
お屋敷の門を潜ると少年が少女のように屈託のない笑顔を浮かべ僕に駆けてきた。
「お久し振りですっ! えっと……」
「自己紹介をしていなかったね、僕は神埼伊之助。コレノスケで良いよ」
「はいっ。えっと、ボクはピートって言います!!」
ピート……泥炭…?
「ピートくんか。よろしくお願いします」
「この二人すげえほんわかしてるな」
「性質が同じなんだろ」
なんですって?
「おっ、恐れ多いです!!」
「え? それ僕の台詞じゃ………」
まぁ…いいんだけどさ。
「やぁやぁ、コレノスケくん!」
「あ、いつぞやの……えーっと」
「私はナナキさ」
ポケ●ン感。
「ナナキ様ですか」
「さんで良いよ」
「ナナキさん」
本題ということで、お屋敷の中に通される。大きなテーブルのある部屋に入ると、そこには何やらオイルライターのようなものが数個置いてあった。
「なんですか、これ」
「オーラグマナといってね、魔力や闘気を具現化して武器などに変えるものさ」
なるほど、魔具か。ファンタジーだね。
ナナキさんによると、オーラグマナは二種類あって、魔力版と闘気版らしい。これで魔力の有無・属性を見極めたりもするそうだ。
「なるほど、ここでこの馬鹿との格の違いを見せつけるわけか」
「これ以上格の違いを見せつけられたらもはや僕地に埋まっちゃうよ」
「いや、この面子ほとんど俺の戦闘見てねえし。お前が派手に魔獣やらなんやらを破裂させていく所為で俺が見劣りしてんだわ」
「ほぇ? 智宏なら、一度に四匹は破裂できるでしょ?」
「会話のキャッチボールが成立しない。もはや会話のバレーボールだな」
そんなこんなでオーラグマナを握ってみる。さわり心地が良いナリ。たしかこれは魔力版だったか。
「それでは、これから魔力の属性を測りたいと思います。オーラグマナに意識を集中してください」
「はい」「おう」
目上には敬語使えよバカ智宏。
まぁ、良いや。
まずは智宏の番!! 智宏はオーラグマナに意識を集中させていく。さてさて、お手並み拝見と行こうかね。
「むっ?」
オーラグマナから金色の液体が溢れ出す。なんだこれ怖い。
「それが魔力です。鮮明なイメージが無いため、不定形に出現してしまったのでしょう」
「なるほどな」
金色ってどういう属性なんだろう。
「それで、属性は?」
「そろそろ敬語」
ナナキさんは何やら目をキラキラさせている。あっ、これ面倒臭いやつだ。
「金色は、英雄になった者に多い魔力属性ですっ!! 才能がおありのようで!!」
「智宏。目上の人に敬語を使えよ」
「敬語ニキ黙ってて」
と言うのはメイドさん。舐められてる? いやこれ、明らかに舐められてる。
「お次はコレノスケくんだね!!」
さて、僕もやってやろう。メイドさんやら執事さんは完全に僕のことを舐め腐ってる。概ね僕のことを「有能についてきた無能」とでも思ってるのだろう。
それはどちらか。詰問する必要があるだろう。
オーラグマナから溢れた魔力の色は橙色だった。
「橙色! これも貴重なものですよ!!」
おっと、気を遣っているね。
「お世辞は良いですよ~。反吐が出るだけですから」
しかしなぜだろう。団長さんとピートくん、マシューだけは感心している。なんでや、なんでや。