第四話『団長ェ……』
町に出てそれらしきものを探し、購入していく。アカニンジンはその名の通り、赤いニンジンだった。その他も同じく。イエスタ牛はどうやら『イエスタデイ』と鳴くらしい。だからイエスタ牛。
「総数百九十だから重いのかと思ったけど、以外と軽いね」
「所詮野菜と肉だからな」
「だね。早く帰ろっか」
それにしても、本当に何を作る気なんだろう。
スープ系かなあ。
食堂に帰るとなにやらなにやら良い匂いだ。
「ストップ智宏」
「あん?」
「ちょっと待って」
『出来た!! 厳つい野郎もとろける絶品シチュー!!』
シチューだったのか。
「なんだよ」
「いいからいいから。ちょっと待とう?」
「お、おう……」
『ははっ…団長食ってくれるかな』
「ふふっ…愛の形だねえ…」
「どういう意味だ?」
「家族とか恩人に対する愛は本当に温かいってこと」
その時、ドタドタと誰かが食堂に駆け込んでいった。
『マシュー!! 荷物まとめて逃げろ!!』
『アルガさん? どうし―――』
『ディーノファミリーが攻めてきたッ!!』
ディーノファミリー?
『じゃ、じゃあ、追い返さないと!!』
『馬鹿言え!! 魔法の質も剣の質も違いすぎる!! 捨てる他ねぇよ!!』
『団長が赦さないぞ!?』
『団長命令だ、馬鹿野郎!!』
この町を捨てろ……と。
「行くよ、智宏」
「了解だ」
僕らが食堂に入ると、マシューは放心状態で、目から涙が流れていた。
「お前らは……確か新人の…」
「ディーノファミリーって、一体何なんですか?」
「この町最凶のマフィアだよ…君達も逃げなさい」
「マフィア……」
威力の弱い銃で遠くから小突いてくるっていうあのマフィア?
ここに前澤居ないからな……前澤いたら良かったのに。あいつリアルマフィアだし。
「どうする智宏」
「どうしてほしい」
「ははっ、苛つくね。えっと……アルガさんでしたっけ」
「ああ……なんだい?」
「どこから、攻めてくるのでしょうか」
○
俺がまだ六つだった頃。家族三人でピクニックに行っていた時だった。ディーノファミリーの配下の奴等が現れて、俺の父さんと母さんを殺した。
「お父さん、お母さんッ!!」
「ざんねーん、君のご両親は亡くなっちゃいましたァ!!」
奴等は俺の両親を殺しておいて、呑気にギャハハハと笑っていた。
腹立たしかった。あの日は俺の誕生日で、久し振りの父さんとの休日で何日も前から楽しみにしていた。
幸せを壊された。明日を壊された。もう残っているものは何もなかった。
「父さんと母さんを返せよ…ッ!!」
「あぁん? きーこえーませーん!!」
俺はリンゴを切るために持ってきた果物ナイフを持って、笑った男の頬を引っ掻いた。
「てめぇクソガキィィッ!!」
「お前らが悪いんだッ!! 全部…全部ッ!!」
その日は今日のように天気が良かった。
「赦さねえからな……死に曝せクソガキィィィッ!!」
男は腰に掛けていた剣を引き抜き、俺に振りかぶった。
俺は、咄嗟に目を瞑った。
ガキィィィンッ!!
鳴り響く金属音。
目を開けるとそこに団長が居た。
「てめぇ……スロウスファミリーの…」
「……」
団長は、無言で男を殴り飛ばした。
「何すんだ……てめぇ!! お前ら、やっちまえ!!」
男達が団長に剣を向けて駆けてくる。
「逃げなさい」
団長は俺にそう言った。
「嫌……いや、いやです!! 父さんと母さんがまだ…」
「…………そうか」
団長はそれだけを呟くと男達を見据えた。団長から金色のオーラが溢れ出す。
「それは……闘気ッ!?」
闘気というそれがなんなのかわからなかったが、俺はこの人なら敵を取ってくれるかもしれない、と思った。
「ビビんじゃねぇ!! 行けぇ!!」
「愚者」
ドスン!!!!
鈍い音が響き、次の瞬間には男達は弧を描いて吹っ飛んでいた。
「な、何をしやがった……うわぁあああああああああっ!!」
「腐っても仲間をおいていくとは…愚かだ」
団長は俺と、俺の両親を見て片膝をついた。
「遅れて……申し訳なかった…」
「…え……」
団長は俺に頭を下げたんだ。
「私が責任を持って、弔い、この子を育てよう」
「何言って―――」
団長は泣いていた。この時、俺は悟った。この人は本当に強い人なんだ、と。
○
「加勢に行くよ」
コカンガがそんなことを言った。
「何言っているんだ!? 君は部外者じゃないか!!」
「今日ここで働いてます。関係者です」
マリが肩を竦めた。
「こいつはこうなると頑固だぞ」
藁にもすがる思いだった。
「団長を助けて……ッ!!」
コカンガに頼むのは、的外れで果てし無い馬鹿野郎だと思った。でも、必死だった。
「当たり前だ。僕たちに任せて」
強くない俺の代わりに。
○
教えてもらった場所についたときにはもう、地獄絵図だった。辺りに腕や脚、目玉が転がっている。
「これは……」
「ッ!! 団長!!」
真ん中で倒れている筋骨隆々な騎士さんが顔を上げた。
「マシュー!? なんで、ここに……」
「あんたが心配で、来たんだろうが!!」
ディーノファミリーはどこだ。僕と智宏は探す。
「逃げろ、ここはもう―――」
空から恐竜降ってきた。
「占領された」
おいおいおいおい……マジかよ……。