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第十三話『レオナルド・スロウス』

 プライドを倒してから約二ヶ月。異世界も九月に差し掛かっていた。


 ピートくんは十二歳なったらしく決意を胸に僕のとなりで頑張るらしい。僕に何があるのかはわからないが、ピートくんがいいならそれでいいんだろう。


 ―――お湯の中から白い楕円形の物体をお玉で取りだし、冷水に浸ける。


 僕も強くなるための修行を開始し、智宏と模擬戦等をするのだが、いまだに一勝もできない。智宏曰く『一発一発の振りが大きすぎる。それだと相手に的を見せているようなもの』だそうだ。これは勉強になり過ぎる。


 ―――物体……玉子の殻を向き、包丁で二等分にし、黄身と白身を分け、みじん切り擬きにしていく。


 ピートくんは『炎神の加護』という加護を持っているらしく、対になる加護を持つ姉さんと修行をしている。


 どうやらプライド戦での僕らを見て、強くならなきゃと思ったらしい。


 ―――小さな器に容れ、マヨネーズとマスタードで和える。異世界人の舌はマスタードが好きだというので、マスタードを容れてみた。そしてバカの一つ覚えのように和え続ける。


 マシューはマルコイとともに剣の腕をあげるらしい。そういや僕、マシューの実力知らないなあ……あとで一戦交えたい。


 ―――イングリッシュマフィンに挟み完成である。


 いっただっきまーーす!!


 ドゴォォォォォォンッ!!!!


「ああっ!! 僕の昼食が!!」


 弧を描いてランチがファンキーにフライアウェイした。


 食堂の窓が割られ、何者かが侵入する。


『ここに、コレノスケ・カンザキという御人がいるとお聞きしたのですが』


 相手は、悠々と靴を鳴らし寄ってくる。

 この人か!! こんな状況を作り、僕の昼食を亡き者にしやがっのは!!


『貴方、コレノスケ・カンザキという男を知りませんか?』


 そう僕に問いてくる。


「答える必要はあるんですか?」

『おや……賢明じゃありませんねえ』


 その人は僕に向け、なにかを突き出す。僕はそれを左手でぱしっと受け止める。


「拳?」

『なっ!? 岩をも砕くこの拳を腕一本で!?』


 この人、なに普通のことをさもすごいことみたいに言ってるんだろう。智宏は砂利に変えるぞ。


「いきなり拳を突き出してくるなんて、酷いじゃないですか」

『……ッ』


 その人は僕から距離を取る。


「貴方は何者ですか」

『私は―――』


 その人は言った。


「レオナルド・スロウス」


 レオナルド……スロウス?


「名前に統一性が無いですね」

「そこかよ」


 その人―――レオナルドさんはごほんと咳払いをし、僕に目を向ける。


「それで、コレノスケ・カンザキは」

「それは僕だ」


 そう明かすと、レオナルドさんは「ほう」と呟き、僕を舐め腐ったように見回した。


「私の弟、ピートから聞きましたよ。貴方の活躍っぷりをね」

「そうですか」

「プライドを倒したそうですね」

「国王様や兵士、仲間の活躍のお陰です」


 それにしてもこの王国の兵士の闘気ほとんど銀色だったんだけど、この国って最強に近いのかな?


「謙遜しますね」

「事実です」


 僕は、イングリッシュマフィンを拾い上げる。

 食べられなくなっちゃったな、どうしよう。


「私の聞いていた異世界人とは遠くかけ離れていますね」

「???」

「粋がっていない」

「それは一部の人だけです。大体の人は粋がりません」


 やって当たり前、やれて当たり前のことで一々粋がっていたら精神が持たない。ほどほどに粋がらないと。


「糞みたいな野郎だったら伸してやろうと思っていましたが…貴方はギリギリ健常者でしたね」

「誰がギリギリ健常者だ。僕はバリバリ健常者だ」


 レオナルドさんは小さく笑うとガラスを拾い始めた。

 ちょっと冷静に考えたらこの人、客人じゃないか!! お茶も出さず、硝子を拾わせるなんて無礼すぎる!! brake!!


「拾わなくていいですよ!! 僕が拾いますんで!!」

「いいや、私が壊してしまったものは私が」

「次回気を付けるということで、今日はいいですよ!!」


 次回までに強化ガラスに変えときゃいいんだし。


「君は…弟の言うように良い意味でバカな人なんだね。だがここは―――」


 ピートくん? 僕のことをバカって紹介したの? 良い意味でバカってなーに?


 結局流れで一緒に硝子を片付けている頃にはもう日が沈みかけていた。何時間争っていたのか。


 レオナルドさんは同い年で呼び捨てで良いと言われたので以下レオナルドで行こうと思う。


 レオナルドは、スロウス家の長男坊で、いずれは領主を継ぐことが決定している身なのだそう。


 何故長い間異世界にいて、なおかつ夏休みの友人のごとき頻度で訪れる僕に一度も会わなかったのか、疑問に思っただろう。僕も思った…なので、聞いてみた。


「ああ、それは禁断の森の奥でサバイバルをしていたからだよ」

「禁断の森?」

「ほら、あそこの森さ」


 レオナルドはそう言って、とある方向を指差した。そこには、陰鬱とした雰囲気を漂わせる不気味な森があった。


「この王国の最難関ダンジョンと言われていてね。強力な魔獣が出てくるもんで、いい修行になるのさ」

「王国最難関ダンジョンが視認できる距離に……」


 僕の二の腕は鳥肌が総立ちしていた。


「ん? それじゃあ、レオナルドって結構……いや、かなり強いの…?」

「コレノスケ程では無いかもね」

「え? じゃあ、僕も禁断の森でいきられるほどの力はあるんだ…そうは思わないけど」

「自分の力量は把握しておかないと」

「そうだね」


 僕って、結構弱いんだけどなあ。少なくとも二ヶ月以上あんなところで過ごせるとは思えない。肉体が無事だろうが、精神が危ない。

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