三日月がぼんやり在って、女の子はそっと在った4
私は頭を振って思考を飛ばそうとした。ちゃんと親元に返してあげなければ。
それでも一度張り付いた思考は中々剥がれてはくれなかった。ちゃんと返すから、罪もつぐなうから、もう少しだけ。せめて一日だけでも……。
そんなせめぎあいをしていたせいで、いつの間にか女の子がソファーの脇に立っていたことにも気づかなかった。
「や、やあ、おはよう」
とっさに出た言葉にも、女の子は優しく微笑んでくれた。
寝癖のついた髪が跳ねている。まだ眠いのか、黒目がちな目をこすりこすりしている。
私は見入ってしまった。そして、映る女の子がゆらゆら揺れて、私の頬は濡れた。
「お腹すいたでしょ? 朝ごはんにしよう」
目元を指で拭いながら、ごまかすように言った。
こくんとうなずく女の子をバスルームに連れていき、石鹸で手を洗ってあげる。
そういえば、昨晩はお風呂に入れてなかった。ごはんのあとはお風呂だな。いや、その前に歯磨きか。でも、食後すぐよりは三十分程時間を空けた方が良いともいうし。
普段、自分のことはどうでも良かったのに、女の子のことをあれやこれや考えているこの状況に充足感を覚えた。
頼む。少しの間だけでも……。
そんな思いがまた頭をよぎった。