三日月がぼんやり在って、女の子はそっと在った3
私はいつの間にかソファーで眠り落ちていた。
腕時計を確認すると早朝五時過ぎ。まだカーテンの隙間から陽は漏れてきていない。
伸びをしながら起き上がり、間続きのダイニングへとよたよた歩く。
椅子に投げっぱなしのコートを羽織り、その足で子供部屋に向かう。
そっとドアを開けて中を覗くと、規則的な寝息が聞こえてくる。ぐっすりと眠っているようなので一先ずは安心する。
私はコンビニエンスストアで地元紙を買いたかった。何かしらの記事が載っているかもしれない。それに女の子の朝ごはんも必要だ。
マンションを出て、一階に併設しているコンビニエンスストアへと歩く。
起きてすぐに気がついたが、今歩いているこの瞬間も、あのずりずりという音はやはり聞こえてはこない。なんなら吹きつける寒風さえも心地よい。空いていた穴をやわらかな光が埋めてくれたようにも感じる。
「ひどいな。この自分勝手さは」
一言呟いて、私はコンビニエンスストアのドアをくぐった。
買い物を終え、自室に戻り子供部屋を確認する。まだ夢の中のようだ。
出たときを逆になぞるように、ダイニングの椅子にコートを引っかけ、そのままリビングへと向かい、ソファーにおさまる。
そういえば、煙草を吸いたくならないことに気がついた。二年前に復活した煙草は、朝の目覚めには欠かせないものになっていたのに。これもあの子の影響だろうか。
私はテレビをつけて、買い物袋から地元紙と缶コーヒーを取り出した。
まだローカルニュースの時間には早いが、ひょっとしたら全国ニュースでは取り上げているかもしれない。
音だけを拾いながら、地元紙の一面から目を通し始める。
確か原稿締め切りは午前一時だったはず。昔読んだ小説にそんなことが書いてあった。それならば、事前に警察から情報が入っていれば記事になっているかもしれない。
そう思い捲っていくが、全国欄はもちろんのこと、地元欄になってもそれらしい記事は載ってはいない。
まだ事件にはなっていないのだろうか? いや、報道協定というやつか? それなら捜査は始まっているのだろう。それとも……。
嫌な考えが頭をよぎる。
そもそも、警察に届け出はしているのだろうか? 連れ帰っておいてなんだが、そんな親ならあの子があまりにもかわいそうだ。もしそうだとしたなら、いっそのこと私の子供に……。その考えに至ったことに愕然とした。私は自分の子供にしたかったのか? 会ったばかりの子に対して、そんな感情が奥底で芽生えていたのだろうか?