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西瓜の匂い

作者: 川咲 みゆ

懐かしい匂いがした


それが何の匂いか、分からなかった

ただ、懐かしい匂いだった


なぜ懐かしいのだろう

私はいつ、この匂いをかいだのだろう


懐かしい匂いが、私の中に不思議な気持ちを運ぶ

この気持ちは何だろう

幸せか、哀しみか


懐かしい匂いが、私に大切な記憶を思い出させようとしている

この匂いは何だろう


昔、異国の夜に飲んだワインの香りか

いつか食べたレストランの高級なデザートか

それとも友人がつけていた香水の匂いか


いや、ちがう

この匂いはもっと優しくて、温かくて、どこか寂しい


一瞬、夏の終わりの風が吹き抜けたような気がした

ああ、帰りたい

いつかの、どこかへ



西瓜が売られていた

売り場の隅に、ひっそりと置かれていた


なんだ、西瓜の匂いだったんだ

高級なワインでもデザートでも、香水でもなかった

ただ素朴な西瓜の匂い


懐かしい匂いは、ありふれた西瓜の匂いになってしまった


この匂いに、なぜこんなにも心惹かれるのか

西瓜の匂いに、何か思い出があるのか


どうしても、思い出せなかった

ただ、不思議な気持ちだけが残った


西瓜の匂いに隠されて、私の中に思い出が眠っている

すぐには思い出せなくても、忘れたくない思い出


それはきっと、私の大好きだった場所

それはきっと、私の大好きだった人たち

そしてもう、戻れない記憶


いつの日か、私は大切な思い出の中で、西瓜を食べていたのかもしれない


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