女の争い
迷宮前の雰囲気は最悪になったが、支援者やってた連中はともかく、俺たちの周りにいたソロ仲間はそこまで落ち込んでもない。
なにしろ、他人に寄生してなんとかなるなんて考えていた奴の方が少数派だからな。
多少がっかりしたことは確かだが、だからといって絶望するほどでもない。
俺たちは、その為に迷宮に潜っていたんだから。
「お兄さん。俺たち、まだ帰れないんだね」
「そうなるな。こうなると、方針を変えないと拙いってのは分かるな?」
「僕らも、迷宮を攻略しないといけないんだ」
「ああ。時間をかけてもいいから、確実に進んでいこう。
大丈夫だ。迷宮を攻略できるってのは、先行した連中が証明してくれたからな」
落ち込んだのは支援者だけではない。
俺が面倒を見ている子供達もそうだ。
この子らは、迷宮を攻略し始めてはいる。
スキルを多少なりとも成長させている。
だけど、それだけだ。
生活を少しでもマシにする為に足掻いているだけなんだよ。
本気で迷宮攻略をするなどと、考えてはいなかった。
これまではそれでも良かったが、攻略者達のクリアでも帰れないなら、子供達が自分で迷宮を攻略できるまで付き合った方が良さそうだ。
問題は、戦力をどうやって振り分けるかだよなぁ。
今のところ、子供達は「男子六人チーム」「女子四人チーム」「女子三人チーム」の3班に分かれている。
男子はそのまま頑張らせるとして、女子のところに男の俺が混ざる?
確実に嫌がられるだろう。
「そんなことありません!」
「そうです! だから安心して私達の所に入ってください」
「ちょっと! 四人の班より三人の班に入れるのが当たり前でしょう!? 人数差を考えなさいよ!」
俺氏、大人気。
かなりびっくり。
でも、ちょっと考えればそれも当たり前か。
戦力向上を第一に考えるなら、恥じらいも何もかも捨てて構わない程度のものだ。
日常に帰られるかどうかの瀬戸際なら、こんなものかね。
「しばらくはローテーションを組もう。人を入れ替えつつ、上手く戦力が均等になるように調整していこう」
「「「はーい」」」
「「「……」」」
なお、この件で男子に発言権はなかった。
可哀想であるが、女子集団に対抗できる強気男子は最初から迷宮攻略を始めているし、残った彼らは押しの弱い文系男子だから。
最初から勝ち目なんてなかったんだ……。
頑張れ、男の子。
女の子達と一緒に迷宮に潜ってみたわけだが、みんな、わりと普通に戦える。
メンバーのスキルは武装・魔法・生産の組み合わせ。
モンスターを殺すのにも慣れていて、前衛に立つ立て役の子も怯むことなく戦えていた。
で、後ろから魔法を使う子と、剣一本で遊撃に回る子というフォーメーション。
俺が今更一緒に戦う理由があるかどうか怪しかった。この子ら、そのまま迷宮を攻略できるんじゃないだろうか?
それを言うと凄く慌てた感じで引き留められたけどね。
「いえいえ! 誰かが後ろにいてくれないと怖いですよ」
「そうです! ほら、危ない時に助けてもらえそうな安心感って言いますか」
「私たちと一緒は、嫌なの?」
後はおトイレタイムをどうするかって話だけど。
本当にちょっとだけ離れてシテもらうことになった。
互いにそこまで意識しない。
ただ、迷宮に入る前に一回済ませるし、水をたくさん飲まないように注意する。
最初からそうやっていたけどね、お互い。
だって、トイレの最中は無防備だから。
回数を減らすのは当たり前なのだ。
三人チームの後は四人チームに合流。
まずは一巡って事で、今回のメンバー入れ替えは、無し。五人で迷宮に入る。
メンバーのスキルは武装・魔法・能力×2となっている。
俺がいるから能力は三人だけどな。
バランス悪いぞ。
こっちでは能力の子らが盾持ちで、武装・魔法コンビが攻撃に回っていた。
武装の子は弓を使う、遠距離攻撃メイン。前衛に装備を渡したので自然とそうなってしまったのだ。
鎧は着ているけどね、盾を片方に渡さなきゃいけないというのと、前衛三人は後衛の魔法使いが大変だからって止めたらしい。射線が通らないことが多いとか何とか。
このあたりは前衛後衛のバランスの問題もあるし、ゴブリンが小柄だから狙いにくいというのもある。
次は四つ足のグレイウルフでさらに魔法使いは狙いにくくなるけどね。頑張って練習して、低いところも狙えるよう上手くなって欲しい。
こっちのメンバーと一緒になって困ったことが一つ。
このメンバーは結構、肉食系だったこと。
「恋人はいますか?」
「年下は駄目?」
「今晩、どう?」
「初めてですけど頑張ります!!」
もちろん、丁重に断ったとも。
誰かに手を出せばパーティ内がギクシャクするのは目に見えているし、かといってハーレムとかありえねー。
そもそも相手は中学生、俺はロリコンじゃないし、年齢でアウトだぞ。
「えー。おっぱいには自身あるのにー」
「女の子が男の前でおっぱいとか言わない」
「清楚系がいいんですね。メモメモ」
断っても諦めないのが肉食系。
勘弁して欲しいね、全く。
で。
俺が女の子らと一緒に迷宮に潜って、黙っていられなかったのが一人。
椎名だ。
椎名が盛大に拗ねた。
「私と一緒に迷宮に行くって約束してたじゃないですかー!! この裏切り者ー!!」
「いや、悪かったって。
でもさ、今更あの子達を見捨てることも出来ないだろう? ほら、椎名も一緒に……」
「いーやーでーすー!」
椎名はそのうち俺と一緒に迷宮に潜ることを楽しみにしていたらしい。
一人で迷宮に潜ることに限界を感じていたのと、やっぱり仲間が欲しくなってきたというのと。それを心の支えにしていたという。
ただ、女のプライドその他が邪魔してすぐに一緒に潜ろうとは言い出せなかっただけであった。
とにかく、俺と一緒に迷宮に潜るのが難しいと理解してしまった椎名は駄々っ子のようになってしまった。
「放っておけばいいのではないでしょうか?」
「そうそう。オバサンは放置が一番ですよ」
この件に関しては、中学生少女七人の意見が一致している。
椎名は要らない、と。
これまで一緒にやってきた仲間ならともかく、外部参入は嬉しくないという意見だった。
分からなくもない。
中学生少女たちは班ごとに分かれはしたが、それでも共同体としての連帯感がある。人間関係ができあがっているのだ。
そこに異分子、しかも年上の女が入ってくるとどうなるか?
年齢で行けば、椎名の方が上。ついでに迷宮の攻略も椎名の方が先に進んでいる。
でも集団としては自分たちの方が上のはず。個人では負けているが、七人が力を合わせればすぐに椎名を抜くことが出来るという自負があった。
つまり、関係が歪になってしまう。
人間関係というか上下関係というか、グループの序列とでも言えばいいのか。俺たち男には分からない何か譲れないものをかけて火花を散らしているのだ。
ならば俺に言えることはないな。
女同士、存分に話し合って欲しい。結果は後で教えてくれればいいから。
男連中と一緒になって、女の争いから避難する。だって怖いんだもん。
そんなふうに我関せずといった態度でいたら、女性陣八人全員を敵に回したらしい。
両腕を掴まれドナドナされたよ。
胸が腕に当たる感覚は、かた――小さくないです、ハイ。
俺にそんな難しい話を振らないで欲しい。
でも、俺という非協力的な奴を前に連帯感が生まれたから、それで善しとしておこう。
だから勘弁してください。
つねらないでくれ、痛いから。
いや本当に。




