CHA
ここに来てから70日が経った。
あまり嬉しくないけど、最悪の情報が手に入った。
≪死に戻り≫は、迷宮前では効果を発揮しない事。そして餓死には効果が無い事が分かった。
ここに来て俺たちは、本物の「死」に触れる事になった。
人が死んだのは悲しい出来事だが、悪い事ばかりでもない。
今までは≪死に戻り≫もあって、死ぬ事自体がゲーム感覚、自分は死なないなんて考えていた奴が多く居た。
それが今では、そんな連中でさえ「死にたくない」からと必死に動き出した。
俺たちは当事者でありながら他人事だったんだよ。
だから迷宮攻略に本気を出せず、自分の内側にこもって現実を見ようとしなかった。
いや、死ねば夢から覚めて元の生活に戻れるんじゃないかって、期待していたんだと思う。
そんな幻想を打ち砕くほど、「人間の死体」って奴はインパクトがあった。
ここ、モンスターすら死体が残らなかったからな。
俺たちのスキルだが、俺の方はスキルが増えてゴチャゴチャしてきた。
リンクとゼネラルでまとめているけど、ブランチで増やしているからどんどん増える。
ブランチで増やしたスキルはリンクさせても元になったスキルに統合できるわけでもなく、リンクさせた段階で新しいスキルを更に派生させるから、思ったほどスキルは減らない。
そもそも、ブランチで増やしたスキルって、全部リンクできるわけでもなかったし。
≪魔法剣≫のブランチで魔法を覚えたりと、出来る事が増えるのは嬉しい。
あとは≪神威≫は各種適正スキルがランクアップで≪神位≫≪神格≫≪神具≫ってスキルになってから、ようやくリンクできるようになった。
経験値の溜まりが異常に遅いから、リンクが終わるまで、今は4日目だが後20日はかかる見込みだ。
ゲーム的な考えでいけば時間がかかるって事は、それだけ凄いスキルの証明なんだと思う。
迷宮クリアまでに終わるかどうかは微妙だけど、成長しきるのが楽しみだ。
椎名や子供達との関係だけど、そこからちょっと嫌な事実が判明した。
能力値に、CHAってのがあるんだけど。
俺はこれをチャーム、『魅力』と思っていた。
『魅力』が高いって、何? そういう話。
俺たちは時間をかけて仲良くなっていったわけだけど、CHAの高さが親密さに関係しているようなんだ。
俺以外にもCHAが高いのがいるけど、その子らもなんだかんだ言って周りから好かれている。
元から身内意識が強かったからね。
それを数倍に増幅していると思うわけだ。
「気にする事? どこかのゲスみたいに体を要求するって事も無いし、常識的に振る舞うってだけでも凄いよ。
魅力を何倍にもするって言ったところで元がゼロやマイナスなら好意なんて持たないって。気にしないで」
「はいっ! 助けていただいた時から好きでした!」
「私も!」
「あー、うん。俺たちも、八木さんの事は信頼してます」
男女一同、仲間達は気にしていないようだけど。俺が気にするんだよ。
言ってもしょうがないし、どうにも出来ない事は分かっている。
でも、気になるんだよなぁ。
「だったらさ、聞くけど。
もしこの中で誰か一人恋人にするとしたら、それは誰?」
「……年齢で判断して悪いけど、椎名一択だな。大学生が中学生と付き合うとか、犯罪臭がする」
「だよねー。八木さん、そういう人だもん」
悩む俺に、椎名は笑いかける。
「私って、CHAそのままだよ? ほら、大丈夫!」
これを否定する事は出来ない。
CHAを伸ばしている他の子達だって、人間的な魅力がある。俺自身、前向きに生きる彼女らに好感を抱いている。
ああ。つまり。
「最初から何も感じてなければ恋心も無いから増幅されない。あの子らの心を疑う方が失礼、か」
「はい、良く出来ました!」
椎名との会話で得た結論。
CHAがどうであれ、深く気にするほどでもないと。
狂信・盲信になる可能性を否定しきれるものではないけど、能力値Aに至った俺が例外って可能性もあるけど、それを気にしてもしょうがないか。
「本当に付き合ってくれると嬉しいんだけど……駄目?」
「駄目」
「ちぇ。ケチ」
なんだかんだ言って、俺も椎名やあの子らに助けられているよなぁ。
俺たちは今、9層を攻略している最中だ。
攻略速度は男子6人パーティがやや早いな。それと比べれば俺を含む女子パーティは遅れ気味だけど、人数差があるからしょうがない。
敵が魔法を使ってきたり、敵が魔法しか効かなかったりと、ギミックを変えつつ俺たちを迎え撃つ迷宮を踏破していく。
30日で迷宮攻略を終えた最速連中のように周囲の支援を受けているわけではないので、俺たちのペースは悪くないと思う。
あいつら、起きている時間はほぼ迷宮攻略に当てていたからなー。
ゲームで言う廃人だった。
俺たちはそこまで迷宮に籠もり続けないし、休日も取っている。
3倍か4倍ぐらいの日数で適正だろうな、攻略までの期間。
で、そんな俺たちに触発されたのか、周りにいたソロ攻略者達もパーティを組むようになった。
迷宮で組む事はなくとも迷宮の外では付き合いを持っていたんだ。交流する時間があれば仲良くなっていくし、パーティを組むのは自然な流れ。
まともに挑んでいる奴らなら、6層まで攻略済みってパターンが多い。
この分なら、今、挑んでいる奴は全員迷宮をクリアできるだろう。
攻略を諦めた連中は、もうどうにもならない。
何度か声をかけてみたが、反応が無い。
俺は精神クリニックのカウンセラーでもなんでもない、ただの大学生だ。
彼らを救う力も言葉も、無い。
無常だな。
迷宮も後半戦になると、全員がそこそこなんでも出来る必要がある。
武器戦闘と魔法戦闘、それらの複合系。道中で装備品の補修をしないと駄目だし、消耗品も補充したい。
一定以上の火力を出せる必要があるし、耐久力や回避能力だって求められる。
そうやってある程度なんでも熟さねばならない中で、足を引っ張りつつあるのは――椎名だ。
ゼネラルで統合していったスキルが弱い椎名は、俺たちの進みに付いていけなくなりつつあった。
「もう、追い越されちゃったなぁ」
椎名は戦闘でミスをしたりするわけでは無い。
単純に、能力不足。
スキルによる補正が俺たちほどではない椎名は、何をしても足りない。
剣を振れば腕力不足。
魔法の威力も低いし、必ず最初にMPが尽きる。
防御面も不安があり、物理・魔法のどちらにも脆い。
前衛、特にタンクには向かず、後衛メインでやって欲しいと思う。……≪剣≫スキルを最初に取得した、元はバリバリの前衛だけどな。
俺たちと比較しての話だが、唯一スキル構成がグチャグチャな椎名は、能力値で1段階か2段階劣る。
リンクとゼネラルを途中で取り入れたからまだマシだが、それでも格差がある。
本人に、足を引っ張っているって言う自覚がある。
その日の迷宮攻略では、椎名と俺は同じパーティだった。
9層ではこれまで出てきたモンスターが勢揃いするという混成パーティが敵として襲ってくる。
そこで椎名はゴーレムの一撃をまともに受けて戦線離脱してしまった。
倒れて動けなくなった椎名を他のメンバーがフォロー、回復に回ったが、そのせいで戦いが長引き苦戦するという事があった。
言葉は悪いが、“その戦闘だけをみれば”椎名がいない方が良かっただろう。
「私、パーティを抜けようと思うの。
ほら、私って足手まといだし。これ以上みんなと一緒にいても、足を引っ張るだけだと思うのよ」
そう言いだした椎名を、俺は責めない。
オンラインゲームでも、IN率が下がった、ゲームをする時間を確保できない奴がギルドを脱退するって言い出す事がよくあったからだ。
足手まといになる中で一緒に何かするって言うのは、苦痛でしかない。
「却下」
「ちょ! なんでよ!!」
もっとも、受け入れてやるかどうかは別問題だ。
責めはしない。
けど、逃げるなんて許さない。
「ゲームならともかく。人生かかったここでパーティ脱退とか、見過ごすわけないだろう」
「人生がかかっているから言っているんじゃない! 私のせいで皆が死ぬとか、考えるだけで怖いのよ!
――お願い。私を一人にして」
椎名が泣きそうな、いや、泣きながら俺に訴える。
人死にがあったんだ。嫌が応にも「死」が怖いんだろう。
でもなぁ。
「迷宮ないでなら≪死に戻り≫は有効だから。時間をかけて、強くなれ」
「でも、それじゃあ、みんなが迷宮をクリアするのが遅れるじゃない」
椎名は失態一つで心が折れたようだ。
だから、視野が狭くなっている。
「よく考えろよ、椎名。確かに今日はミスをしたけど。他は大丈夫だっただろう?
これ以上人数を削るより、椎名がいる方がずっと先に進める。失態は確かに失態だけど、それまでの貢献が消えて無くなるわけじゃないんだ。
椎名は必要とされている。俺が保証する」
「八木さん……」
俺は椎名の頭に手を乗せ、優しく撫でる。
心なしか、椎名の表情が落ち着いた気がした。
「もうちょっとだけ、頑張ってみるね」
下手な説得をした俺だが、それでも言葉は届いたらしい。
これもCHAの恩恵というなら、俺はその恩恵を受け入れられそうな気がした。




